部隊育成①


 めぼしい物資は全て運び終えたとの連絡を受けたので、《支配領域創造》を実行。俺は自室にコテツを招き入れ金沢解放軍の手応えをヒアリングしていた。


「――で、金沢解放軍はどうだった?」

「そうですな……。練度は珠洲市の人類よりも優れておりましたな」

「個の強さは?」

「難しいですな。相対した人類はかなり疲労しておりました。先程の戦いのみで判断するなら、脅威ではありませぬが……本調子なら多少は厄介かも知れませぬ」

「なるほど……。ちなみに、コテツから俺に何か助言はあるか?」

「今後、先程のような大規模な戦闘が増えるようなら、戦い方を見直すべきと進言します」「戦い方?」

「現状は個の力に頼る力押しがアスター皇国の戦闘スタイルとなります。儂から進言せぬともシオン様なら分かっておられると思いますが……集団戦において何よりも重要なのが連携の練度。そして――」

「――指揮官の存在か」


 俺はコテツが先に続けるであろう言葉を口に出す。


「左様ですな。先程のように儂が指揮を執ってもいいが、所詮は素人」

「それを言うなら全員が素人だ」

「更には、言語も通じぬ配下が主体」

「……そこは改善の余地があるな」

「今後、先程のような大規模な戦いが増えるようであれば……指揮官の育成は急務でしょうな」

「何か対策を考えよう。呼び出してすまなかったな。戻っていいぞ。ゆっくりと休んでくれ」


 俺は退室するコテツの背を見ながら、コテツから進言された内容を考えるのであった。



 ◆



 指揮官の育成か……。


 指揮官の重要性は理解しているつもりだ。


 そして、指揮官に一番相応しい者が誰かも理解はしている。


 指揮官に一番相応しい者は――魔王である俺だ。


 一方通行ではあるが距離に囚われず言葉を伝達する手段を有しており、スマートフォンを通して俯瞰的に配下の行動が把握出来る。そして――全ての配下に対しての強制的な命令権を有している。


 しかし、指揮官が必要とされる状況は――大規模な戦闘が発生したときだ。現状、大規模な戦闘が発生するのは《宣戦布告》などの例外的な状況を除けば――《統治》を仕掛けたときとなる。


 そして、《統治》を仕掛けているときは、魔王である俺は戦闘に参加することが出来ない。


 スマートフォンで戦況を確認しながら、個別に指示を出すことは出来るが……共に戦い、現場の空気を判断しながら指示を出すことは不可能なのだ。


 可能であれば指揮を執る人物は前線で戦う者の中から選出したい。そうなると候補となるのは幹部に任命した眷属たちとなるが……。


 幹部である眷属たちには大きな役割があった。


 その役割とは――支配領域の侵略だ。


 アスター皇国を拡大させる手段は二つある。魔王が支配する支配領域の侵略と、人類が支配する土地の《統治》だ。


 支配領域の侵略は個の力が重要となり、《統治》は数の力が重要となる。


 支配領域を侵略する個の力と、軍隊を率いる数の力――この二つを両立させることは可能なのか……?


 俺は頭の中で乱雑になっている思考を整理する。


『指揮を執ってもいいが、所詮は素人』


 俺は先程のコテツの言葉を反芻する。


 現代の日本に戦争の指揮を執れるプロフェッショナルはそもそもいるのか?


 階級の高い自衛隊か? しかし、戦争と言っても様式は様変わりしている。魔王カオス対人類ロウの争いの主体となる力は――特殊能力だ。銃や戦車といった兵器ではない。今まで培った経験ノウハウは活かせるかも知れないが……戦争の在り方は根底から変わってしまった。


 様々な戦術理論や軍事学はあるかも知れないが、全ては机上の空論。


 ……机上の空論?


 ならば、俺の行動の基となっているゲームの経験や書物の知識も同じ机上の空論ではないのか?


 全員が所詮は素人。ならば、俺は俺の持ちうる知識――ゲームと書物――を基に行動をするのがベストなのか?


 今回のケースで活かせる知識は――シミュレーションゲームだ。


 日本の戦国時代、或いは中国の戦国時代。もしくは、架空の世界の戦記を題材としたシミュレーションの知識に当てはめるのがベストだろう。


 例えば、あるゲームは10万を超える軍を率いて敵国に戦争を仕掛ける。しかし、プレイヤーは10万人の兵士に指示を出すことはない。プレイヤーが指示を出すのは兵を指揮する武将――指揮官のみだ。


 1万体を超える配下を用いて《統治》を仕掛けたとしても1万体の配下全てを指揮する必要はない。1万体の配下を1000体ずつに分けて指揮官――眷属の部隊に配備すれば、指揮する対象は10人となる。


 今までの戦いは……『攻めろ』、『耐えろ』と全体に大雑把な命令しか下していなかった。しかし、指揮官を置くことで下せる命令の幅は大きく広がる。


 指揮官を幹部の眷属とするなら……与える命令は簡易的なものがいいだろう。


『突撃』、『攻撃』、『守備』、『待機』、『移動』、『救援』、『撤退』。


 この程度の簡易的な命令であれば、幹部たちも命令をこなすことは可能だろう。


 指揮官を任せる幹部は――リナ、コテツ、タカハル、サラ、ヒビキ、クロエ、レイラ、アイアン、フローラ、レッド。


 ブルーはリナの部隊に、セタンタはコテツの部隊に、カインはサラの部隊に、アベルはヒビキの部隊に、ダクエルとクレハはクロエの部隊に、ノワールとルージュはレッドの部隊に組み入れよう。


 第一陣、敵の攻撃を受け止めるタンクとなる部隊は――ヒビキとアイアンの部隊。


 第二陣、敵を攻撃する部隊は――リナ、コテツ、タカハル、レッドの部隊。


 第三陣、敵を遠距離から攻撃する部隊は――サラ、クロエ、レイラ、フローラの部隊。


 俺は頭の中で幹部たちが率いる部隊が展開する戦場をイメージして、チェスのように部隊を動かす。


 いけるな……。


 続いて解決すべき問題は――言語だ。


 アイアン、レッド、クロエ、レイラ、フローラの部隊は同種族の配下を配備すれば問題ないが……元魔王や人類の幹部はそういう訳にはいかない。


 解決策としては通訳を兼ねた副将となる眷属を配備するのが妥当なのか。


 俺は次なる問題を解決するために、頭を悩ませるのであった。


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