金沢市侵攻制圧


 《統治》完了まで残り5分。


 残り5分で金沢解放軍が防衛ラインを突破するのは不可能だろう。


 俺は勝利を確信して、支配領域内で保護している降伏してきた人類を《統治》の範囲内に移動するように命令を下す。


 しかし、最後まで『金沢の賢者』と『金沢の聖女』は姿を現さなかった。金沢市の人類から英雄視されている二人の実力を確認したかったが、仕方がない。


 俺は防衛ラインを死守する配下たちの奮闘を確認しながら、今後の戦略を考えるのであった。


 《統治》完了まで残り1分。


 俺は《統治》の有効範囲内の状況を確認。画面に表示されているドットの色は全て青色(味方)と黄色(服従)。


 声には出さずにカウントダウンを始めた。


 40、39、38…………25、24、23…………10、9、8、7、6、5、4、3、2、1…… 。


 目の前の黒い渦が光り輝き、光の収束と共に黒い渦は消滅。黒い渦が存在した空間には、白銀に輝く球体――【真核】が出現。


『統治を完了しました』


 スマートフォンの画面にシンプルな文章が表示される。


 《統治》は完了したが、《統治》の範囲外にいる人類がその事実を知る術はなく、金沢解放軍が変わらず防衛ラインを突破しようと戦闘を継続している。


 分かりやすいのは《支配領域創造》を実行して、《統治》した支配領域を洞窟タイプに創り変えて外見を変化させることだが……それをしてしまうと物資が全て消失してしまう。


 全ての配下が新たに《統治》した支配領域に撤退出来れば……追撃してきた人類は支配領域の人数制限により12人を超える人数は弾かれるので敗戦したことを気付かせることは可能だが……撤退とは後退だ。敵に背を向ければ、今以上の被害が生まれる可能性もある。


 勝ち鬨をあげるか? それとも勝利宣言をするか?


 物は試しだ。勝利宣言をしたうえで勝ち鬨をあげさせるか。


 俺は【拡声器】の声が人類に届く有効範囲内まで移動。


『石川大学の《統治》に成功した! 皆の者! 勝ち鬨をあげよ!』


 俺は配下を鼓舞する形で勝利宣言を行うことにより、間接的に人類へと《統治》の成功を告げた。


「我々――アスター皇国の勝利じゃ! エイエイオー! エイエイオー!」

「「「おぉー!!」」」


 コテツが先導に続いて、配下たちは武器を打ち鳴らしながら割れんばかりの歓声で勝ち鬨をあげる。


「な……!? 石川大学が落ちただと……!?」

「クソッ! 確認だ! 確認を取れ!」

「ダメだ! 石川大学の連中とは連絡が繋がらない!」

「ほ、本当に落ちたのか……」


 高揚する配下たちに反して、人類たちは狼狽し、浮き足立つ。


「ど、どうする……撤退か……!?」

「ふ、ふざけるな……! 大学には俺の家族がっ!」

「し、しかし……大学はすでに奴らの手に……」

「賢者様からの伝令だ! 撤退だ! 撤退せよとのご指示だ!」

「クソ……クソ……クソッタレがぁぁぁああ!」


 そそくさと撤退を始める人類、怒号をあげながらも撤退する人類……そして、伝令を無視してこちらへと暴走する人類。


 勝利宣言を告げた結果――人類の前線は瓦解した。


 ――深追いはするな。刃向かう者を始末したら、速やかに支配領域へと帰還せよ!


 コテツたちは暴走する人類を撃退すると、意気揚々と支配領域へと引き上げたのであった。



 ◆



 ――ヤタロウ。田村女史、タスクと相談してめぼしい物資を運び出せ。


 俺は慌ただしく統治後の事後処理に追われていた。


 大学は教育機関の最高峰だ。俺では判断出来ないが……パソコンを筆頭にお宝が眠っている可能性は高い。


「ちょ! それ精密機械なので慎重に運んで欲しいっす!」


 タスクが配下のオーガに何やら喚き散らしているが、残念ながら互いに言葉は通じない。


「カノンちゃーん! ちょ、この鬼にもっと優しく運ぶように伝えて欲しいっす!」

「はーい! この機械はもう少し優しく扱って欲しいそうですよぉ」

「#$%&!」

「って、だから担ぐの止めさせて欲しいっす」


 カノンが優しい口調で鬼に指示を出すも、鬼は相変わらず機械を雑に扱っていた。


「シオン、あの金属貰ってもいい?」


 タスクと鬼のやり取りを見守っていると、アキラが声を掛けてきた。


「んー……使えそうな機械ならダメだな」

「……ケチ」

「ちょっと待ってろ」


 俺は不満そうに頬を膨らますアキラを宥め、領民と化した石川大学にいた人類に声を掛ける。


「この大学内に産業廃棄物的な機械はあるのか?」

「そ、それでしたら……こちらへ」

「アキラ、この人類に案内して貰った先の物資なら好きに扱っていいぞ」

「むぅ……産業廃棄物……別名ゴミ」

「嫌なら大人しく工房で待ってろ」

「……我慢する」


 アキラはぶー垂れながらも人類と共にどこかへ移動した。


 俺は、その後も大学内を散策しながら配下たちの様子を確認する。


「ヤタロウ、どうだ?」

「シオンか。数はあるが、質はイマイチじゃな」


 アイテム――装備品の選定を任せていたヤタロウに状況を確認する。


「Bランクの汎用品止まりか?」

「いや、Cランク止まりじゃな」


 Bランク汎用品――ミスリルシリーズを装備していた人類は見掛けたが……全員白山市に出向いたのか。


「しけてるな」

「まぁ、そう言うな。一応、人類の鍛冶師が作ったと思われるオリジナルの武器は数点あった。これで我慢するのじゃな」

「配下への装備品の配備はヤタロウに任せる」

「うむ。了解じゃ」


 散策を続けると、魔物ではなく領民に指示を出している田村女史の姿を見掛けた。


「田村女史、どうだ?」

「あら? シオン様。上々ですよ」


 田村女史には食料品と日用品の選定を指示していた。


「非常食系統の食料が多いですが……新鮮な野菜やお肉も幾つか保存されていました。日用品はかなり充実していました。領民の皆さんも喜ぶと思いますよ」

「それは何よりだ」


 田村女史は新鮮な野菜を手に取り柔和な笑みを浮かべる。


 その後も散策を続けると慌ただしく物資を運搬する配下と領民の多くの姿が確認出来る。


 まずは、物資の確保。その後、《統治》したこの地域を《支配領域創造》にてダンジョン化。新たに領民に迎えた人類へのフォロー。


 そして――次なる侵略の準備。


 俺は散策を続けながら、今後の戦略を頭の中で練り上げるのであった。

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