式典が終わった後に幹部連中を集めた。


「――と言う訳で、近日中に戦いを仕掛ける」


 俺は幹部たちに先程立案した戦略を伝えた。


「近日中か……。具体的にいつ頃だ?」


 タカハルが神妙な顔つきで尋ねてくる。


 ん? いつものタカハルであれば「おうよ!」と脳筋に相応しい返答のはずだが……。


「早ければ、早いほうがいい。理想としては三日後だな」

「三日後か……」

「ん? 何か問題でもあったか?」

「三日後だとこいつを使うのは少し厳しいか……」


 タカハルは鉄製のナックル――グローナックルを取り出し呟く。


「むむむ? タカハル殿、それは何ですかな?」

「あん? これは神――」


 ――タカハル、黙れ!


 タカハルの頭はニワトリと同じなのだろうか? リナ部隊の配下以外には秘密にするように伝えたはずなのだが。


「じん……? 何ですかな?」

「それは、タカハルのじん……人生の伴侶――サラが送ったアイテムだ」

「は? ありえ――」


 ――サラ、黙れ!


 タカハルとサラは式典で少し羽目を外しすぎていた、罰としては丁度いいだろう。


「――な!? ま、ま、まさか……指輪の替わりにメリケンサックを送っただと!? アスター皇国内は恋愛禁止ですぞ! 我が輩に誰も言い寄ってこぬ……つまりは、そういうことですぞ!」


 ――《ファイヤーランス》!


「特別扱いは嬉しいですが……出来れば我が輩としては別の形で――」

「サブロウ、黙れ」


 騒ぎの元凶にも粛正したところで、俺は話を本題へと戻す。


「現在、俺の錬成がAであることは魔王カオルに対して大きなアドバンテージだ。この利点を活かすために、迅速な行動が必要とされる。質問はあるか?」


 俺は一息で捲し立てた。


「うは!? シオンっち聞く耳ナッシング!」


 サラの戯れ言をスルーして幹部たちの顔を見回す。


「シオン様、戦いには参加出来ぬ身なれど……ご質問よろしいでしょうか?」


 田村女史が控えめに手を挙げた。


「何だ?」

「シオン様の勢力はアスター皇国――国となりました。金沢市の人類と……話し合いの余地はないのでしょうか?」

「話し合いか……。田村女史、逆に問おう。何を話し合う?」

「そ、それは……平和的な解決な道を……」

「平和的な解決の道か……。具体的には? 不可侵条約でも提案するか?」

「……」


 田村女史が苦渋の表情を浮かべたまま静まり返る。


「誤解が無いように伝えるなら……俺は話し合いに反対な訳ではない」

「――え?」


 付き合いの長いカノンが俺の言葉に驚きの声を上げる。


 失礼な奴だな……。話し合いで全員が投降してくれるなら、反対はしない。不可侵条約は……メリットが見出させないから却下だけどな。


 田村女史は、アスター皇国を発展させる為には必要な人材ではあるが……少し穏健派が過ぎる。今後も同じことを何度も提案されるのは面倒だな。


「そもそも論になるが……人類は我々からの話し合いに応じるのか? 我々はアスター皇国と名乗っている。しかし、人類はアスター皇国を認めているか? 認知されているのか?」

「……現状は難しいです」

「何かを得るためには、何かを差し出さないといけない。今の話に当てはめるなら、話し合いの場を得るために……俺たちは何かを差し出す――譲歩する必要が生じるだろう。アスター皇国が金沢市の人類より劣っている……或いは、対等ならその手段も考慮すべきだ。現状はどうだ? 対等か? 劣っているか?」

「戦力と言う観点のみで言えば――勝っているでしょうな」


 押し黙ったままの田村女史に代わり、コテツが答える。


「田村女史、もう一度問おう。何を話し合う?」

「申し訳ございません……。浅慮な意見を口にしたことをお許し下さい」


 田村女史は沈痛な表情で頭を深く下げる。


「別に怒っているわけではない。それに、いきなり攻撃は仕掛けない。最初に勧告はする。今のアスター皇国に出来るのはそこまでだ。理解は示してくれるな?」


 田村女史を萎縮させ、結局は人類に対して敵対行動を取ると言うのが領民に知れ渡るのは愚策だ。体裁を整えるフォローの言葉を投げかける。


「はい……。出過ぎた発言をしたことを重ね重ね謝罪し、アスター皇国が国として認められるようにより一層の努力を努めます」


 田村女史は深々と頭を下げて、俺の先程の言葉に理解を示してくれた。


 ふぅ……。これで、今後は楽になるといいが……。


「タカっち?」

「あんだよ?」

「シオンっちってひょっとしなくても、熟女好き――」


 ――サラ、黙れ!


「サブロウ」

「はっ!」

「先程は魔法を暴発させてすまなかった」

「ぼ、暴発でしょうか……」

「暴発だ」

「詫びと言う訳ではないが、サラの《吸収》を許可しよう」

「――! あ、有り難き幸せ!」

「ちょ!? ありえん――」


 ――サラ、黙れ!


「三日後の戦いに備えて、サラの魔法を使いこなせるように努力邁進してくれ」

「畏まりました!」


 サブロウが感極まって震えている。


「シオン、サブロウは今回防衛から外れるのかのぉ?」

「いや、状況次第で借りるかも知れないが、基本は防衛だ」

「ならば……サラ嬢を《吸収》しなくても――」

「ヤタロウ、《乱数創造》をする余裕が全くない。1年ほど控え――」

「必要じゃ! サブロウにはサラ嬢の特殊能力が必要じゃな!」


 ヤタロウが慌てて先程の失言を訂正する。


「みんな、すまない。少し休憩にしようか。サブロウ、来い」

「ハッ!」


 ――サラ、付いてこい!


「イヤァァアアア――」


 ――サラ、黙れ!


 俺はサブロウとサラを引き連れて、会合を開いていた部屋から退室する。


「サブロウ、《吸収》を許可する」

「畏まりました!」

「サラ、サブロウの《吸収》が終わるまで動くことを禁ずる!」

「ありえんてぃ! ごめんって! 謝るし! 何すれば許して――」

「せめてもの情けだ、俺も席を外そう……」

「えっ……ちょ……マジ?」


 俺は歓喜に震えるサブロウと、恐怖に震えるサラを残して会合をしていた部屋へと戻る。


「イヤァァァアアアアアアア!」


 一枚のドアを隔てたサラの叫び声が周囲に響き渡る。3分ほど待つと、艶々に顔を輝かせたサブロウと、グールのような足取りのサラが部屋へと戻ってきた。


「さて、他に質問がある者はいるか?」


 俺は笑顔で幹部の顔を見回すが、質問のある者はいないようだ。


「それでは三日後に決行とする! 各自、そのつもりで準備に励め」


 右往左往はあったが、最終的には何の問題も無く会合は終了したのであった。


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