建国式典①
レベルが19へと成長してから10日後。
あの日から俺は手頃な人類や富山方面から侵略してくる魔物を相手に神器を育てたり、新たに錬成可能になったアイテムの検証を実施したり、幹部に授与するユニークアイテムを錬成しながら、充実した日々を過ごしていた。
幹部以外の配下に新たなアイテムを授与するには、まだまだ時間は必要となるが……いつまでも準備に時間を取られているわけにはいかない。
そろそろ仕掛けるか……。
まず、すべきことは――
俺は自室にヤタロウ、田村女史、ソウスケ、カノンの四人を呼び寄せた。
「式典を開きたいのだが、準備にはどれくらいかかる?」
「式典じゃと?」
「建国式典、或いは県北統一の祝賀会……もしくはこれから金沢市の人類への侵攻に対しての進発式、名目は何でもいいが、式典を開きたい」
「あら? シオン様はパーティーがお好きなのですか?」
ヤタロウの問い掛けに対する俺の回答を聞いた田村女史が質問を投げかけてくる。
「好きではないな」
食事も睡眠も必要なく、属性:
「シオンさんはどちらかというと、そういうのは嫌いですよねぇ?」
カノンが首を傾げる。
「嫌いだが、意味があるのなら――やるべきだろ?」
「意味ですかぁ?」
「今回の式典も目的は3つ。一つは、配下のモチベーションの向上、一つはアスター皇国の領民の一体感の向上、最後の一つは――幹部へのユニークアイテムの授与だ」
以前、ユニークアイテムの授与式を執り行った時は、二日酔いで予定が狂うなどのトラブルはあったが、配下のモチベーションは確実に高まった。
次なる敵は――金沢市南部と白山市を統治する人類。人類が相手となると、自ずと戦いは総力戦へと発展する。
故に、俺はユニークアイテムを普通に渡すのではなく、何かしらの形式を整えて授与しようと考えた。
「それで儂らを呼んだ理由は?」
「ここにいる4人には準備を頼みたい。具体的に俺が知りたいのは、準備にかかる時間だ」
支配領域内のことは、配下であればヤタロウとカノン。領民であれば田村女史とソウスケに頼むのが一番効率的だ。
「魔物の皆さんも参加っすか?」
「ヤタロウと相談して、防衛に回す配下以外は全員参加だ」
「と言うことは、領民も全員参加でよろしいでしょうか?」
「そうなるな」
ソウスケの質問に答えた後に、確認するように問い掛けてきた田村女史の言葉に俺は首肯する。
「予算は?」
「必要な物資があれば言ってくれ。具体的にはCPに換算して10000までは融通する。CP換算の物資量はカノンに聞いてくれ」
錬成したいアイテムが無数にある中、CP10000の出費はかなり痛いが、必要経費と割り切ることにした。
「わぉ! 太っ腹ですねぇ!」
予算を聞いたカノンが目を輝かせる。
「それで準備にかかる時間は?」
俺は再度同じ質問を投げかけると、4人が話し合いを始める。
「アスター皇国の興隆は遅れますが、3日……3日頂ければ、準備を整えます」
田村女史が代表して俺の質問に答える。
「3日か……。わかった。よろしく頼む」
俺は式典の準備を4人に託したのであった。
◆
3日後。
「シオン様、準備が整いました」
式典準備をしていた田村女史が俺の部屋へと報告に来た。
「ご苦労。それでは始めるか」
俺は田村女史と共に式典会場となった第七十七支配領域へと移動するのであった。
今回、式典の会場となった第七十七支配領域は式典の為だけに《支配領域創造》を施した支配領域だ。《統治》で獲得した支配領域のため、一階層あたりの広さは5k㎡。その広さを存分に活用した会場となっている。
現在、アスター皇国に属する領民の数は111,692人。他にも領民にはなっていないが、投降した人類も数百人存在するが、安全性を考慮して会場とは別の階層で、タスクが用意した大型モニターでの観覧とした。
その他にも、防衛のため式典不参加となった配下や増え続けるラットを除いた約5万体の配下が式典に参加となっている。
俺は会場に用意された壇上へと上がり、集まった配下と領民を見渡す。
ふむ……。多いな。
敵と対峙している時とは違う種の緊張感が全身を駆け巡る。
今の俺は魔王になる前の孤高を愛する男ではない。10万を超える人々を従える王だ。直前までネットで閲覧していた、『指導者のためのスピーチノウハウ』の内容を頭の中で反芻する。
「こ、こ、こ、これより! ア、アスター皇国の建国記念式典をかいちゃい……はぅ!? 開催しますぅ!」
進行を任せた、俺と同じく
「そ、それではぁ……シオンさん、よろしくお願いしますぅ!」
「は?」
早くね? 予定では、俺の出番はもう少し後のはずだが……。
カノンは逃げるように俺の元へと飛んできて、【拡声器】を手渡す。俺は覚悟を決めて、壇上の中央へと足を運ぶ。
「アスター皇国のシオンだ。今宵はこのような大勢の
俺の問い掛けは――空気を震わせるほどの喝采となって返ってきた。
「ありがとう……ありがとう!」
俺は必死に手を挙げて鳴り止まぬ喝采を制止する。
今回は喝采をするように命令はしていない。領民の表情を見る限り……誰かに喝采を強制させられているようにも見えない。
つまり、領民はアスター皇国の生活に満足している?
俺は思いがけぬ喝采に戸惑いながらも、喜んでいる領民の表情にホッと胸を撫で下ろす。
「アスター皇国の生活に満足しているようで一安心だ。さて、ここで領民の皆に大切なことを伝えたい。現在、皆が充足した生活を過ごしているのは誰のお陰なのか? 一つは、貴方方領民の成果だ。農業に励む者、工業に励む者……多くの領民の頑張りがアスター皇国の生活を豊かなものにしている。これからも、アスター皇国を……そして自分たちの生活をより豊かなにするために、頑張ってくれ!」
「「「おぉー!」」」
俺の言葉に領民たちは大地を振るわすほどの叫びで応えるのであった。
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