創造と錬成③


 カノンの【知識】がAに成長するのは最短でも40日後。


 俺の【創造】か【錬成】を成長させる選択は――今後の戦略を左右させる重要な岐路となる。故に、万全を期すためにカノンの【知識】の成長を待つのもありかと考えていたが……。


 40日は長すぎる。


 40日の間に金沢市の人類と魔王カオルの戦局が大きく動く可能性は十分にある。


 こちらが停滞している間にも、金沢市の人類と魔王カオル……更には、全国各地の魔王も成長を続けている。


 魔王カオルが金沢市の人類との戦争に勝利したら……俺が、コテツやリナを配下にしたように、金沢市の一部の勇者と呼ばれる人類が魔王カオルの配下になる可能性は十分に考えられるし、激戦の末に俺のレベルを上回る可能性も十分に考えられる。


 逆に、金沢市の人類が魔王カオルの支配領域を全て解放したら……何人の人類がレベル50に達するのだろうか? ひょっとしたら、コテツやリナ級の人類が多数生まれる可能性もある。


 そうなる前に、互いに疲弊している隙に……金沢市の土地を《統治》し、万全の状態で魔王カオルと対峙する必要がある。


 今の戦力でも総力戦で挑めば、金沢市、白山市の土地を《統治》することは可能だろう。しかし、その後が続かない。疲弊した後に、魔王カオルに挑まれたら……敗北する恐れは十分にあるし、仮に勝てたとしても……次に控える、富山県、福井県の人類と魔王と渡り合えるかわからない。


 己以外は全て敵。自分以外の魔王も人類も全て敵なのだ。


 生き残る為には――勝ち続けるしかない。


 生き残る為には――成長し続けるしかない。


 俺はカノンのレベリングが遅れたことを悔いながら、再び思考の海に飛び込むのであった。



 ◆



 頭の中で無数の物語を組み立てる。


 ――将来の自分はどうありたいのか?


 ――敵とどのように渡り合うのか?


 ――アスター皇国はどのような発展を遂げるのか?


 ……敵?


 敵とは誰だ? ――俺以外の魔王と人類だ。


 どちらが強敵なのか? どちらの敵と戦う方が大変なのか?


「全員に質問だ。魔王と人類、どちらと戦う方が大変だと思う?」

「んなもん、魔王も人類もピンキリだろ」

「魔王は――カオル、人類は――金沢の人類ということですかぁ?」


 俺の質問に、タカハルが身も蓋もない返答をし、カノンが具体的な名称を当てはめる。


「カノンの言葉を借りよう。魔王カオルと金沢市の人類、どちらが強敵だ?」


「魔王じゃねーか? 高レベルの魔王のほうが兵力も多いからな」

「魔王っしょ! コテっちゃんみたいなのが、100人いたら別だけどねー」

「魔王だな。魔王は配下に人類がいる可能性はあるが、逆はない」

「魔王ですな。我が輩を破った唯一の存在も――魔王シオン様ですからな」

「魔王ですね。《統治》は面倒ですが、高レベルの魔王の支配領域の支配は……面倒ではなく不可能という可能性もありますからね」

「魔王ですかねぇ……? 珠洲市役所の《統治》は大変でしたが、魔王アリサとの戦いが一番大変だったと思いますぅ」


 タカハル、サラ、リナ、サブロウ、ヒビキ、カノンがそれぞれ魔王と答える。


「魔王じゃな。戦えぬ人類は数多く存在するが、戦えぬ魔物はおらぬ」


 最後にコテツも魔王と答えた。


「やはり、魔王か」


 俺は全員からの返答を聞いて、納得する。


 将来的には不明だ。例えば、将来的に人類の大半がレベル50に成長したら、答えは変わるかも知れない。しかし、現状では――魔王が一歩先をいっている。


 対人類を考えれば……成長させるステータスは――【創造】だ。


 対人類との戦いは《統治》を仕掛ける大規模な戦いが主体となる。ならば、広範囲に強大な配下が配置できる【創造】が適しているだろう。


 ならば、対魔王では?


「次の質問だ。ステータスを1つ成長させられるとしたら、何を成長させる?」

「肉体だろ!」

「魔力っしょ!」


 脳筋の2人が即答する。


「質問を変える。【創造】と【錬成】だったら、どっちを成長させる? もしくは、他の魔王はどっちを成長させると思う?」

「【創造】じゃねーの? 手強い支配領域は大抵【創造】特化だぜ」

「【創造】っしょ! 【創造】は魔王の特権みたいな?」

「【創造】ですな。より強い配下を創造するのが勝利への近道ですな」

「【創造】ですね。Cランクの時に創造していた配下とBランクのときに創造していた配下の性能差を知れば……【創造】を選ぶのが普通だと思いますね」

「先程も言いましたが、【創造】は魔王の特権です! 【創造】の成長は支配領域の成長にダイレクトに影響します! これからは戦争と言い換えても過言ではないほどの大規模な戦いが予想されます。戦争で勝利を収める決め手は兵――つまりは、配下の質です! 故に、より高ランクな配下が創造出来る【創造】の成長を参謀としてシオンさんに提言します!」


 元魔王の5人が声を揃えて【創造】と答える。


 俺自身も、【創造】を成長させる予定だった。


 ここまで生き残った魔王なら……【肉体】や【魔力】に特化した魔王以外なら、大多数の魔王は【創造】特化の道を選ぶだろう。


 故に――【錬成】を成長させたほうが面白いのでは?


 と言う、結論に俺は辿り着いた。


 今生き残っているレベル10以上の魔王を分析すると、大多数の魔王は【創造】がBランクの魔王だ。中には、【肉体】、【魔力】特化の脳筋魔王も存在するが、圧倒的に少数派だ。


 【世界救済プロジェクト】が開始されてから約2年。不明なことばかりだったこの世界の仕組みも徐々に解明されてきた。解明された結果――多くの魔王は【創造】の優位性に気付いた。


 俺自身もBPが50貯まったら【創造】をAランクへと成長させる予定だった。


 ここで俺は1つの未来をシミュレーションするに至ったのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る