情報収集
初めて《統治》を成功させた翌日。
俺は様々な媒体から情報を集めて分析する。
数多の情報が書き込まれた石川県内の地図。カエデが収集した情報とネットで集めた情報を元に作成された地図によると現在の俺の支配領域よりも北側には脅威となる魔王は存在していない。一番強大でも七尾市を中心に13の支配領域を支配する魔王だ。
楽勝とまでは言わないが、脅威と評価するにも至らない。
個の力であっても、数の力でもあっても……負ける要素は見当たらない。
県北に点在する支配領域を支配する魔王も蹂躙することは容易だろう。あわよくば、優秀な魔王を配下に迎え入れることが出来れば御の字。と言うのが、俺の見立てだ。
むしろ脅威となるのは――人類の存在だった。
目下侵略中の羽咋郡は問題ない。鹿島郡、七尾市、鳳珠郡、輪島市も問題はない。
問題は――珠洲市だ。
ネットで調べた情報によると、珠洲市に存在する支配領域の数は――0だった。
珠洲市には【カオス】と適性された人類が存在しなかった――訳もなく、全ての支配領域が人類の手によって解放されていたのだ。
全世界の人類が一通のメールを受信したあの日。世界中で【カオス】と適性された魔王が出現。人類の保有する土地の一部は不可侵地帯――支配領域へと変貌した。支配領域は『世界救済プロジェクト』の仕様上、人口密度の高い地域に多く出現。
結果として、多くの人類は人口密度の低い地域へと疎開。
石川県にスポットを当てると、多くの人類が疎開した地域は――珠洲市であった。
多くの人類が存在すると言うことは――才能をもった人類が存在する可能性も高くなる。珠洲市は石川県民にとっての中心地へと発展を遂げていた。
困ったな……。
支配領域が存在しないと言うことは、支配する方法は《統治》のみだ。
珠洲市には多くの旅館や民宿が存在しており、今は人類たちの仮設住宅となっていた。ネットから収集した情報から推測する限り、珠洲市に存在する人類の数は10万人以上。
10万人以上の人類を服従させるか、葬るのか……県北の統一は困難の道のりであった。
「険しい表情をしてどうしたのですかぁ?」
地図を見ながら思考を重ねる俺にカノンが声を掛ける。
「珠洲市を《統治》するのは、厳しい戦いになりそうだと思ってな」
「わっ!? シオンさんの頭の中では、すでに珠洲市へと照準を合わせているのですねぇ」
「まぁ、七尾市と輪島市を支配するのも容易ではないが……脅威となるのは珠洲市だな」
俺はカノンに先程思考していたことを話して聞かせる。
「なるほどぉ……。10万人を服従させるのは厳しいですねぇ。珠洲市を後回しにして、能美市を侵略するのはダメなのですかぁ?」
「そうなると、南――能美市を侵略しながら、東――富山県と、北――珠洲市からの防衛にも戦力割く必要が生まれる。県北を統一すれば、安全地帯となる支配領域が広がるから、県北の統一は最優先だな」
「そうなると……今の状態ではお外に出られる戦力が心許ないので、眷属の増員が急務になりますねぇ」
「そうだな。しかし、眷属の増員は1日2人までが限界。CPを全て眷属化に消費する訳にもいかないから……」
「眷属の増員は1日1人が妥当でしょうねぇ」
俺との会話にも慣れたカノンが、俺の考えを先読みして答える。
「と言うことは……ここは、侵略のペースを落としてインフラを整えるのもいいかもしれませんねぇ」
カノンは首を傾げながら、自分の考えを俺に告げる。
「カノンの考えも悪くはない……と言いたいが、却下だな」
「――な!?」
《統治》をしたことにより『領民』と人類の保有していた文明の機器を獲得する手段も得たので、インフラを整えるという案も悪くはないが――
俺は目の前に広げた地図の南側――小松市を指差す。
「小松市の魔王が急速に支配領域を拡大している」
小松市の魔王は小松市全域と加賀市全域を支配下に治め……現在進行形で白山市へと支配領域を拡大している。
小松市の魔王は俺の状況を把握しているのか、北側――金沢市の半分以上を支配している俺を刺激しないように支配領域を拡大させていた。とは言え、小松市の魔王と同盟関係である訳でもなく、友好関係にある訳でもないので――衝突する日は必ず訪れる。
更には――
俺はスマートフォンを操作して、日本全国の地図を画面に表示させる。
この地図は人類の有志によってリアルタイムで編集、作成された、全国の支配領域の分布図が記載されていた。
「おぉ……兵庫県の魔王が支配領域を更に拡大させていますねぇ」
「他にも、広島、愛知、新潟、宮城、青森、北海道、福岡の魔王が支配する範囲は確実に俺よりも広い」
「東京と大阪の魔王も、激しい戦いを繰り広げているのでレベルはかなり高いらしいですよぉ」
「英雄や勇者と呼ばれる人類が集結している横浜の存在も怖いな」
「京都の学生による集団もかなり強いってネットで見ましたぁ」
俺が日本地図に表示された地域を指差しながら話すと、カノンも同様に日本地図に表示された地図を指差しながら話し始める。
「つまり、敵となる勢力はリアルタイムで成長している。成長が遅れた者――弱者は強者に呑み込まれるのが世の常だ」
「悠長にインフラを整えている暇はないですねぇ」
「インフラの重要性は理解している。しかし、インフラを整えるのは県北を統一した後だな」
優先順位を間違ってはいけない。
インフラを整える前にすべきことは――地盤を固めることだ。
俺の考える地盤とは――広大な安全地帯の確保だ。
県北を統一すれば、珠洲市、輪島市、羽咋郡(志賀町)、鳳珠郡は完全な安全帯となり、他にも多くの土地が安全地帯となる。
インフラを整えるのは、その後だ。
優秀な配下に、広大且つ安全な土地と、膨大なCP。まずはこれらを確保し、次に確保した資源を最大化すべくインフラに取り組む。
俺はカノンと会話を続けながら、未来予想図を描くのであった。
◇
150日後。(魔王になってから1年と8ヶ月後)
俺の支配する地域は金沢市(一部)、河北郡、かほく市、羽咋郡、羽咋市、鹿島郡、輪島市となり、支配領域の数は184となった。
複数の元魔王や戦闘にも参加出来る元解放者の人類も配下として迎え入れ、『領民』の数も8652人に増えた。
俺のレベルは17へと成長し、最大CPは20,100と大幅に増えたが、日々のランニングコストも大幅に増えたし、眷属化や乱数創造に《統治》と言った特殊能力は全CP消費と言う仕様上、相変わらずCPのやり繰りには頭を悩ませる毎日が続いていた。
現在侵略しているのは――鳳珠郡能登町。
珠洲市に待ち受けている人類との決戦――県北統一の間近に迫ったその時。
カエデから一つの報告が届けられた。
「恋路海岸の魔王……怖い……」
報告を届けたカエデの表情は青白く、全身は震えていたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます