vs魔王アキラ④


 魔王アキラを配下に加えた俺は、第一支配領域へと戻った。


「おかえりなさいですぅ」

「おかえりなのじゃ」


 事前に待たせていたカノンとヤタロウが、俺とアキラを出迎える。


「ただいま。この子がアキラだ」

「ほぇ。ドワーフと言うより……」

「……子供じゃな」

「こどもじゃない……おとな」


 紹介したアキラに率直な意見を述べるカノンとヤタロウとあったが、アキラは仏頂面を浮かべて否定する。


「あはは……。ごめんなさい。私はカノンですぅ。よろしくなのですよぉ」

「ヤタロウじゃ。よろしく頼む」


 カノンは苦笑を浮かべながら、ヤタロウは高齢者の余裕を見せながら、アキラへと名前を名乗る。


「……アキラ。よろしく」


 アキラは無表情のまま、自分の名前を名乗った。


「交友は後で深めてくれ。本題に入るぞ」


 俺の言葉を受けて、3人の視線が俺に集まる。


「アキラ。確認だが、《アイテム錬成》は出来るのか?」

「《アイテム錬成》はむり。《鍛冶》なら可能」

「《鍛冶》? 《アイテム錬成》との違いは?」

「《アイテム錬成》はスマホでかんたん。《鍛冶》は工房でたいへん」


 アキラの説明は簡潔過ぎて、何となくわかるが、詳細は不明だ。


「よくわからんな……。とりあえず、《鍛冶》を実践してもらうか」


 百聞は一見にしかず。実践を依頼することにした。


「【工房】どこ? 後、素材も必要」

「【工房】? 素材……?」

「【工房】は《支配領域創造》で創れますよぉ。素材は《アイテム錬成》で創れますよぉ」


 首を傾げる俺に、カノンがアキラの言葉を補足してくれる。


「えっと、【工房】を創造して……素材を錬成して……それでいいのか?」

「道具もほしい」

「アキラが使っていた道具は?」

「コレ以外は、さっき消滅した」


 アキラは手にしたハンマーを掲げて呟く。


 《降伏》させる前に、道具も回収すればよかったのか。


「とりあえず、《鍛冶》に必要な設備と道具を全部教えてくれ」

「【工房】、【水車】、【ハサミ】、【たがね】、【火かき棒】、【研磨機】……後は、【鉱山】を創ってくれたらドワーフが素材を収集してくれる」


 寡黙なアキラが多弁に答える。


「ヤタロウ。居住区はまだ余裕はあったか?」

「そうじゃの……。今回は配下に迎えたドワーフが多い。別階層に鍛冶に特化した居住区を創ったらどうじゃ?」

「鉱山もいっその事、第二支配領域全域を鉱山にしてもいいかもですねぇ」


 ヤタロウに続いて、カノンも意見を述べる。


「アキラとアキラの配下には居住地を約束したから、それもありか」

「……約束? 珍しいですねぇ?」

「約束を守らないと大切な側近の……サブロウが死ぬらしいからな」

「えっ? 何その話! 詳しく!」

「……しらない」


 イタズラっぽい笑みを浮かべてアキラに視線を送ると、言葉の内容にカノンが食らいつき、アキラは無表情のままそっぽを向くのであった。



 ◆



 その後10時間もの時間を費やして、新たに鍛冶特化の居住区を創造。更に、鍛冶特化の居住区と第二支配領域を【転移装置】で繋ぎ、第二支配領域は全階層を鉱山フィールドへと創り直した。


「……9000あったCPが枯渇かよ」

「うむ。それだけあれば《乱数創造》が――」

「しないけどな」


 隣で戯れ言をほざくヤタロウの言葉を遮り、完成した居住区を眺める。


 三つ叉に広がる川と面するように建てられた水車が併設している建物が工房だ。工房は全部で4つあり、全ての工房が10人以上同時に作業出来るほどの広さを有している。工房の中を覗けば、大きな火炉がまずは目に入る。火炉の近くには金属製の作業台――金床が設置されている。工房はそれぞれ、アキラ専用、武器鍛冶専用、防具鍛冶専用、その他鍛冶専用と用途別となっている。居住区には工房の他にも50の家屋が建てられており、ドワーフの居住地となっていた。


「設備は整った。試しに【鉄の剣】でも造ってくれ」

「わかった」


 アキラは頷くと、用意した【鉄のインゴット】を火炉にくべる。その後、くべた【鉄のインゴット】をハンマーとハサミを器用に使いながら剣の形へと整えていく。


 ――カンッ! カンッ!


 と、金属を打つ音が響き渡る。


 アキラは真剣な表情で、ハンマーを打ち下ろし、鏨で切り込みを入れたり、刃の部分を研磨機で削ったりして、鉄の塊であった【鉄のインゴット】を剣の形へと造り替えてゆく。


「……ん。わるくない」


 30分ほど待つと、アキラが1本の剣を俺へと手渡す。


 ふむ……。温かいな。


 生憎と鑑定眼などはないが、どことなく《アイテム錬成》で錬成した【鉄の剣】よりも輝いて見える。


「リナ。どうだ?」


 俺は共に鍛冶の様子を見ていたリナに、鉄の剣を手渡す。


「ふむ……」


 リナは受け取った鉄の剣を何度か素振りし、最後には俺の投げた丸太を両断する。


「シオンが創った【鉄の剣】よりも切れ味はいいな」


 リナは丸太を両断した鉄の剣の刃に視線を落とし、使い心地を口にする。


「アキラ。ちなみに、改造? 強化? 的なことも出来るのか?」

「素材があれば」

「リナ。ダーインスレイブを貸してくれ」

「む? 私の剣が最初でいいのか?」

「構わん」


 俺はリナから受け取ったダーインスレイブをアキラに手渡す。


「あなたがつかうの?」

「リナだ。よろしく頼む」


 アキラがリナへと見上げるような視線を送ると、リナは笑みを浮かべて手を差し出す。


「わかった。要望はある?」

「要望?」

「重さ、長さ、切れ味……なんでもいい」

「そうだな……」


 その後、リナは事細かい要望をアキラへ告げ、アキラは無言で頷き続ける。


「わかった。シオン。【魔鉱】を4つと、【銀砂】を2つと、【炎石】を1つちょうだい」

「ちょっと待て」


 俺はスマートフォンを操作して、アキラに言われた素材を探す。


 ――!


「本当に必要なのか?」

「うん」


 ダーインスレイブの錬成に必要なCPは500であった。ユニークアイテムとしては破格の低コストだ。ひょっとしたら、ユニークアイテムのお試し的な武器だったのかも知れない。そして、今アキラに言われた【魔鉱】を錬成するのに必要なCPは200。【銀砂】は25、【炎石】は100であった。つまり、合計で950ものCPを要求されたことになる。


「【魔鉱】も鉱山で採れるのか?」

「しらない。わたしは錬成してた」

「【魔鉱】でしたら、鉱山に魔力の高い――正確にはC以上の魔物を棲ませて、一定の月日が経過すると銀鉱石が【魔鉱】になるみたいですよぉ」


 何だ、その裏設定……。知識を成長させていないと絶対に気付かない設定だな。


 ってことは、第二支配領域に何体か魔力の高い配下を……やることが多いな。


 まぁいい。俺はアキラに言われた素材を錬成し手渡す。


 素材を受け取ったアキラは、最初に【炎石】を火炉へと放り込む。すると、火炉の中の炎が高ぶるように燃え盛る。次いで、アキラはダーインスレイブと【魔鉱】を火炉にくべ、ハンマーで打ち始める。


 時折、リナを呼んで手の形を確認しながら、アキラはダーインスレイブをハンマーで打ち続ける。


 その後もアキラは何度も微調整のようにダーインスレイブをハンマーで打ち、研磨機で削り……完成したのは12時間後であった。


「……ん。できた」


 アキラに呼び出されて工房へ出向くと、アキラは漆黒に輝く1本の剣――ダーインスレイブをリナへと手渡す。


「――!? こ、これは……」


 リナは目を見開いて、手にしたダーインスレイブをまじまじと見つめる。


「シオン! 敵はいないのか!」

「今は《擬似的平和》が発生している」

「……そうか」


 興奮したリナに、俺は現状を伝えるとリナは残念そうに首を落とす。


「丸太ならあるぞ?」

「丸太では、こいつの……ダーインスレイブの真価は発揮出来ない」

「そんなにも凄いのか?」

「凄いなんてものじゃない! 手に馴染む……いや、私と一体化した感じ……!」


 リナの興奮した様子を見るに、アキラの強化は成功したようだ。


 俺のゲイボルクも頼もうかな……。俺はゲイボルクを取り出し、アキラに視線を送ると。


「むり……つかれた」


 アキラは疲労困憊でその場に座り込む。


 《擬似的平和》終了まで残り3時間。俺は、武器の強化を後回しにして今後の予定を立てることにしたのであった。

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