vs魔王アキラ③


「な!? リナは――」

「フッ……小童。見る目がないな……。シオン様が一番信頼している配下は――」

「「私だ!」」


 俺の言葉を遮り、クロエとレイラが暴走。タカハルとサラに挑発するような視線を送る。


「は? 信頼云々は知らねーが……最強の配下は俺だぜ?」

「はぁ? シオンっちから一番信頼されている配下はあーしですけどぉ?」


 クロエとレイラに触発されて、タカハルとサラも暴走を始める。


「フッ、皆の者落ち着くのだ。シオン様が最も信頼する配下は――我が輩だ!」


 サブロウが混沌する状況に更なる混乱を引き起こす。しかし、サブロウがドヤ顔を決めると、周囲の配下が押し黙る。


「むむ……? ここは流れ的に――」

「――サブロウ!」


 静まり返った空気に狼狽するサブロウの名前を叫ぶ。落としどころはサブロウか……。


「――!?」

「この者は俺と同じ吸血種にして、上位種である『ヴァンパイア・ノーブル』! 更には元魔王として、俺を支える側近中の側近だ!」

「フッ! シオン様……やはり我が輩を名指しにされましたか! 如何にも! 我が輩こそはシオン様の右腕! 深淵なる闇の――」


 ――黙れ!


 これ以上、口上を語らせるとボロが出る。


 事実、サブロウは希少価値の高い存在ではあるが……魔王アキラは生け贄としてリナを狙っていた。創造した配下であるクロエやレイラでは、恐らく納得はしないだろう。とは言え、リナの希少価値は非常に高い。そこで、俺はサブロウを生け贄として捧げることにした。


 盟約の内容がもう少し厳しかったら誰も差し出す気はなかった。しかし、盟約の内容があの程度であれば……恐らく約束は守れるだろう。


「一度装備したら私の意思でも外せない。だいじょうぶ?」

「問題ない」

「我が輩の意思は……」


 こうして俺は魔王アキラから受け取った《盟約の首輪》をサブロウの首へと掛ける。


「最終確認だ。盟約が成されたら、魔王アキラとその配下は居住地と食事が約束される。また、使い捨てのような運用は一切しない。代償として、魔王アキラは俺に《降伏》する。その盟約が破られた場合は俺の腹心――サブロウの首に掛けられた《盟約の首輪》が絞まる」

「うん」


 魔王アキラが小さく首を縦に振る。


「盟約が破られた場合――サブロウは死ぬのか……?」

「すぐにはしなない」

「侵略メンバーに組み込まれた配下のドワーフが食事を抜いたら、どうなる?」

「あなたがわたしと配下を虐げる気持ちを持たなかったらだいじょうぶ」

「タンク役を命じて、敵の攻撃を一手に引き受けさせても、盟約違反にはならないか?」

「それはひつような役割。だいじょうぶ」


 あらゆる事態を想定して質問を繰り返す。


 そして、質問を繰り返す内に1つの可能性に辿り着く。


 まぁ、俺の予想が外れていたとしても……魔王アキラと多くのドワーフは錬成要員だ。危険に晒されることはあるまい。俺の支配領域内の居住区にいる限りは、ヤタロウがインフラを整えてくれる。仮に盾役を命じても、役割ならば問題なし。


「了解した」


 俺はサブロウの首に掛けた《盟約の首輪》を装着させた。


「ありがとう。次は私の番……」


 魔王アキラが背後のドワーフに視線を送ると、奥から1体のドワーフが白銀に輝く球体――【真核】を魔王アキラに差し出し、【真核】を受け取った魔王アキラは【真核】を俺へと差し出す。


 俺は【真核】を受け取らず、魔王アキラに質問を投げかける。


「魔王アキラ……今のお前のCPはいくつだ?」

「ん? ……550」


 魔王アキラは、ポケットから出したスマートフォンの画面を見て答える。


 550? あぁ……【真核】をテリトリー外に持ち出すとCPは半減されるのか。


「お前の部屋――最奥に戻ればCPは1100だな?」

「うん」

「ならば、一度一緒に最奥の部屋に行こうか」

「――? なぜ」

「《降伏》する前に、やって欲しいことがあるからだよ」


 首を傾げる魔王アキラに俺は笑みを浮かべて答えるのであった。



 ◆



 その後俺たちは魔王アキラと共に最奥の部屋へと移動。同時にCPが回復するのを待った。


「さてと、《降伏》する前に――《配下創造》をして欲しい」

「《配下創造》?」

「そうだ。レベルが10に成長した時に、最大CPを消費して創造出来る配下がいなかったか?」

「マスタードワーフ?」

「それだ。どうせ、《降伏》したらお前のCPは無に帰す。ならば、有効活用したい」

「わかった。《マスタードワーフ》は4つの特性をえらべる。どうする?」

「4つの特性を教えてくれ」

「【ドワーフロード】、【マジックドワーフ】、【ダークドワーフ】、【ドワーフビルダー】」

「ちなみに、お前が選んだ進化先は?」

「ドワーフスミス」


 相変わらず名前で予測するしかないのか……。


 魔王アキラの選んだ【スミス】は職人。恐らく錬成特化。ロードは肉体特化で間違いないだろう。マジックは魔力特化だろう。ビルダーは建築士か? 建築特化? ダークは闇? 闇のドワーフってなんだ?


 どれも気になるが……今回は目的が明確だ。


 面白味には欠けるが――


「【ドワーフロード】を選択してくれ」

「わかった……なまえは?」

「任せる」


 暫く待つと、目の前に六芒星が出現。光の中から屈強なドワーフが姿を現わす。


「儂の名はアベル=アキラ。親方様に生涯の忠誠を――」

「わたしじゃなくて、シオンに誓って」

「む? し、しかし――」

「命令。シオンに誓って」

「畏まりました……。儂の名はアベル=アキラ。お……シ、シオン様に生涯の忠誠を誓いますぞ」


 何とも奇妙な眷属の創造に立ち会うのであった。


「もういい?」

「あぁ。無理を言ったな」


 魔王アキラは表情を崩さずに俺に確認。俺が首肯すると、黙って【真核】を差し出し、そのまま片膝を付く。


「私――魔王アキラは、魔王である生を捨て、汝――魔王シオンに『降伏』します」

「――了承する」


 俺の手中に収まっていた【真核】が光り輝き、俺の手の中から消失。同時に、足下が、空間が、支配領域が激しく振動する。


『>>魔王アキラの支配領域を支配しました。


 >>支配領域の統合に成功しました。これより24時間【擬似的平和】が付与されます』


 俺はスマートフォンを操作して、アキラの降伏が成功したことを確認。


 こうして、俺は念願となるドワーフ種の魔王を配下として迎え入れた。


「アキラ? 1ついいか?」

「なに?」

「《盟約の首輪》を錬成して貰ってもいいか?」

「――!? あ、あれは……魔王のときにしかむり」

「なるほどね」


 魔王じゃないと無理か……そういうことにしておこう。


 俺は狼狽するアキラを見て、笑みを浮かべたのであった。

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