宇ノ気の魔王②
「カノン、見ていたか?」
「はい……。一瞬でブラックアウトしたので、詳細は不明ですが」
俺は近くで共にスマートフォンの画面を見ていたカノンに声を掛ける。
「奴の正体は?」
「恐らくですがぁ……【ビーストキング】ですぅ」
「【ビーストキング】?」
ビーストキング……直訳すると獣王といったところか。
「魔王(獣種)が進化出来る種族の一つですぅ」
「特徴は?」
「えっとぉ、私の知識だけじゃなくて『ラプラス』から得た知識も加味しているので、正確性は保障出来ませんが、よろしいでしょうかぁ?」
「構わん」
『ラプラス』の存在を知ってからカノンのアイデンティティの大部分が崩壊した。しかし、カノンは腐らずに『ラプラス』を読み込むことにより、自身の知識を強化していた。
「【ビーストキング】は肉体特化の種族ですぅ。魔王(獣種)は他にも【ビーストロード】と言う肉体特化の種族があるのですが、その二つの明確な違いは――戦闘スタイルですぅ」
「戦闘スタイル?」
「はい。【ビーストロード】はコボルトさんを最大級に進化させた型ですぅ。対して【ビーストキング】は《獣化》を用いて、己の肉体で戦うのが特徴らしいですぅ」
「《獣化》?」
「はい。以前ホープさんが習得していた特殊能力を大幅に強化した感じの特殊能力なのです。最大の特徴は、身に纏う体毛が鋼の様に硬質化し、手には鋭い爪が生えます。他にも、鋭い牙を有したり……武器に頼らない戦闘スタイルを得意とするみたいですぅ」
「厄介な相手だな……。弱点はあるのか?」
「弱点は耐久性でしょうかぁ? 体毛を硬質化させると言っても、その耐久性はCランクのアイテム程度らしいですぅ。……『ラプラス』の情報ですがぁ……」
聞けば、聞くほど……タイマンで勝てる気が全くしない。理論上で言えば、夜に限れば肉体のランクは同一。鋭い爪と堅い体毛で覆われているとは言え、Bランクのアイテムをフル装備している俺の方が地力は勝るだろう。但し、敏捷性と戦闘経験は俺の方が大きく劣っていると思われる
となると、数で質に勝るしかないよな。
最強メンバーで挑むとなると、眷属を集結させるのが手っ取り早いが……眷属から死者が出てしまう可能性は非常に高い。1人の優秀な配下を得ても、1人以上の優秀な配下を失っては意味が無い。
となると、連れて行く配下は厳選する必要が生じる。
現状、最強の配下は――条件付きとなるが、イザヨイだ。
俺とイザヨイ……後は遠距離攻撃に優れたリリムを10体、盾として用いるリビングメイルを12体。
遠距離からリリムがひたすら魔法を仕掛けて、リビングメイルが命を賭してリリムを守る。弱ったところをイザヨイと2人がかりで追い詰めて、《降伏》を迫る。
これでどうだ?
頭の中で幾重もシミュレーションを行う。
危険、もしくは無理と感じたら俺とイザヨイは撤退すればいい。
不安に駆られた俺は、リビングメイルを1体眷属化。配下にリビングメイルを3体配備。眷属のリビングメイルには奮発してミスリル装備一式を与え、残り3体のリビングメイルにもCランクのアイテムを与えた。
そして、二度目となる魔王タカハルの調査へと出向かせるのであった。
◆
二度目となる敵情調査は成功を収めた。
4体のリビングメイルは実に10分もの時間、魔王タカハルの猛攻に耐えた。守りに徹していた為、与えたダメージは皆無であったが、ある程度の攻撃パターンを読み取ることに成功した。
魔王タカハルの攻撃で警戒すべきは、頸動脈を狙った爪の一振り。1回目の調査で消滅したダンピールは恐らく、その攻撃を食らって討ち果てたのだろう。その攻撃さえ警戒してしまえば、
魔王タカハルを配下にするために、費やした犠牲は2人の眷属に5体の配下。最大CPがどれだけ増えようと、眷属化は全てのCPを消費してしまう。費やした犠牲は大きかったが、得るものも大きかった――そう言えるように、俺は万全の準備を整えるのであった。
◆
日没と共に、俺はイザヨイと22体の配下を引き連れて魔王タカハルの支配する支配領域へと出向いた。
「シオン様。今宵は美しい月ですね」
「そうだな。夜風も気持ちいいな」
俺はイザヨイと共に月光を浴びながら、夜の道を歩く。
「イザヨイ。夜こそが俺たちの時間だ。頼りにしているぞ」
「ハッ。不肖、イザヨイ=シオン。この名と我らを照らす月にかけて、此度の使命全うしてみせます」
恭しく頭を垂れるイザヨイ。俺は先程まで今回の作戦が上手く運ぶが不安だった。しかし、自信に満ち溢れるイザヨイ、そして宙に輝く月を眺めるとその不安は払拭された。
その後は、静かに夜の空気を感じながら魔王タカハルの支配する支配領域へと足を進めた。
1時間後。
「ここか」
俺は約半日前にスマートフォンの画面を通して見た景色を、その目に映す。
「敵の首領――魔王タカハルが侵略してから3時間経っても現れなかったら撤退する」
「シオン様の恩命のままに」
魔王タカハルが脳筋と言うのは、あくまで俺の先入観だ。ヤタロウと同じく、俺の正体を吸血種と見破り、夜には仕掛けてこない可能性もある。
俺は12体のリビングメイルに先行させる形を取り、慎重に魔王タカハルの支配領域へと足を踏み入れる。
長閑な田園風景の中、俺たちはゆっくりと、牛歩の如く進行速度で支配領域の中を進む。
万が一の撤退を考えたら、出来るだけ出口からは遠ざかりたくない。しかし、出口付近で待機していては、怪しまれる可能性もある。
俺は周囲を警戒しながら、ゆっくりと歩みを進める。1時間ほど進み、ひょっとして魔王タカハルは知能派の一面も併せ持つのか? と不安に駆られたその時――
「んだよ! ダラダラと歩きやがって」
行く先に野性味溢れる大柄な男――魔王タカハルが気怠そうな態度で姿を現わしたのであった。
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