vs魔王ヤタロウ③
今ほど支配した支配領域の権限をカノンに移行。配下たちに仮眠と食事の休養を与えた後、倒された配下と使用したアイテムを補充。万全の準備を整えて、次なる支配領域の侵略へと乗り出すことにした。
「……おい」
次なる支配領域へと足を踏み入れた俺は、思わず感情を声に出してしまう。
澄み渡った夜空に、煌めく星の数々。行く先には大なり小なりの岩が散乱しており、地面に草木が1本も生えていない。
先日まで洞窟の体を成していた支配領域は――荒野へと変貌を遂げていた。
事前情報では、侵略目標である2人の魔王が支配する支配領域は、全てが洞窟タイプとなっていた。ここの魔王を配下に加えようと思った決め手の一つは、俺自身が直接出向ける屋内構造の支配領域だったと言う理由も大きかった。
「俺に対する嫌がらせか?」
「シオンに対する嫌がらせと言うより、対策だろうな」
苛立つ俺の言葉に、リナが冷静に答える。
今は夜だから問題はない。夜風が気持ちよくて、最高の環境とも言える。しかし、夜が明ければ――照り付ける太陽が確実の俺の力を奪い去る。
吸血鬼が攻めて来たから、支配領域の日当たりを良くした。……正しい対応方法だ。
俺は侵略メンバーから外れるべきだろうか? しかし、それでは魔王に勧告を促せない。ここまで機転の利く魔王ならば、是が非でも配下に加えたい。
俺のステータスは、日中は【肉体】がB→Cへと弱体化し、【魔力】はB→Dへと弱体化する。最高級のアイテムを装備しているので、そこら辺の雑魚に遅れを取るとは思わないが、不安は残る。
進化先はデイライト・ヴァンパイアを選択するべきだったか?
予期せぬ事態に陥ると、過去の自分を責めたくなる。
このまま侵略するのは危険だな。向こうがこちらの行動を読んでいるなら、今までにない行動を取るしかない。
「一旦、支配領域へ戻るぞ」
「「「ハッ!」」」
俺は撤退を選択するのであった。
◆
支配領域へと戻った俺は、侵略の為の策謀を思考する。
敵はこちらの行動を熟知している……可能性が高い。ならば、何をすれば敵の虚を突ける?
今までにない行動。一つはすでに思い付いている。敵がどれだけ、こちらを熟知しているか知らないが、俺は今までの支配領域の侵略は常に2部隊編成――リナとクロエの部隊で同時に行っていた。理由は侵略速度の向上と敵の戦力の分散化だ。
しかし、今回は2人の魔王を配下に加えたい。ならば、敵の戦力を分散させるのは悪手とも言える。
だから、今回はリナとクロエの部隊を合併させよう。唯一の懸念はリナとクロエ、どちらに指揮権与えるか……であったが、俺が指揮を執れば何も問題は起きない。
更にもう一つ。サプライズを仕掛けよう。効果があるかは不明だが、虚を突くことは出来るかも知れない。
俺はミスリルヘビーアーマー、ミスリルシールド、ミスリルヘルムを錬成。錬成したミスリル製の重鎧を着込み、兜を被り、盾と槍を構える。
俺は何度か盾と槍を動かし、その場で飛び跳ねて、感触を確かめる。
動きづらいが、思ったよりも重くないな。これも肉体が強化された影響か?
――カノン。来てくれ。
次に念話でカノンを呼び寄せる。
「はぁい。何ですかぁ?」
3分ほど待つと、カノンが姿を現わした。
「あれれ? シオンさん、どこですかぁ?」
カノンはリビングメイルが3体並んだ俺の部屋を見回し、飛び回る。
――カタカタカタッ!
俺はカノンの滑稽な姿に思わず身体が震えてしまい、金属の擦れる音が漏れる。
「――? あ!? シオンさん! 何してるんですかぁ?」
カノンは俺の存在に気付き、俺の肩の上へと止まる。
「気付いたか……」
「まぁ、よく見たら貧相……す、すたいりっしゅですから」
カノンは慌てて言葉を選び直す。
「スタイリッシュか……。戦闘中、もしくはスマートフォンのライブ映像だったら気付くと思うか?」
「なるほど……。そういうことですかぁ。そうですね、リビングメイルを見慣れている私たちなら気付く可能性はありますが、見慣れていないなら気付かない可能性は高いと思いますよぉ」
カノンは俺の考えを読んで、的確な答えを返す。
「と言うかぁ……ソレ、重くないんですかぁ?」
「思ったよりも重くはないな。ただ、視界が悪いし、蒸し暑いな」
リビングメイルを筆頭に、フルプレートを装備している者が盾役しかしないのは、視界が狭く、動きづらいので盾を構えるのが精一杯と言うのもあるのかも知れない。盾を構える、槍を刺突する程度の単純作業は出来るが、いつもの戦闘と同じ行動はとてもじゃないが、出来そうに無い。
「カノン。配下やアイテムは十分か?」
「はい? 問題ないですよぉ」
問題はないか。現在の俺のCPは2400。
――チャンスは20回。
失敗しても防衛に使えばいいか。
「少しCPの無駄遣いをするぞ」
「はい?」
キョトンとしたカノンを尻目に、俺はダンピールの配下創造を実施したのであった。
◆
創造されるダンピールの性別はランダムで決められる。♂のダンピールが創造される確率は50%。計算通りであれば、10体のダンピール(♂)が創造される予定であったが……。
「7体か……」
物欲センサー? 創造センサー? 想定よりも創造された♂のダンピールの数は少なかった。
創造されたダンピールは、顔立ちこそ似ているものの、よく見れば体格、髪の長さは、それぞれが異なっていた。
「こいつでいいか……」
俺は目星を付けたダンピールを呼び寄せる。
「カノン。こいつを俺と同じ髪型にしてくれ」
目星を付けたダンピールは、長髪で俺と似た体格をしていた。
「はぁい……。って、このダンピールをシオンさんと見立てるのは厳しくないです?」
「サングラスでも装着させれば、俺をよく知らない奴が見れば……いけるだろ」
俺の存在をよく知る者が見れば100%バレるだろうが、知らない奴は、体格、年齢、髪型、ある程度の顔立ち程度でしか個人は認識していないと思う。
カノンは文句を言いながらも、器用にダンピールの髪型を俺と同じように整髪する。
リナと同じ『魔性の仮面』を装着させてもいいが、下手に悪目立ちするのも好ましくない。サングラスなら、『吸血鬼だから日中はサングラス?』と誤魔化せるかも知れない。
俺と同じ髪型になったダンピールに、普段俺が着ているアイテムを装着させ、顔には大きめのサングラスを装着させる。
「……どうだ?」
「うーん……若干は似ていますが……私はシオンさんをよく知っているので……熱狂的なファンと言うか、コスプレにしか見えないですぅ」
「そうだ! 居住区にいる、あいつらに確認させよう」
「あいつらって、眷属にした人類ですかぁ?」
「あいつらなら、俺の顔をあまり覚えてないだろ?」
「そうですねぇ……シオンさんは、完全に無視していますからねぇ」
過去に眷属にした人類は、戦力として使い物にならなかったので、居住区で放置していた。俺が様子を見に行くことは無いが、カノンが言うには最近は農業に精を出しているらしい。
俺は、フルプレートのまま、俺に似せたダンピールとカノンを連れて居住区へと移動した。
「あ!? シオン様!? ご無沙汰しております! イメチェンっすか? そのサングラス、イケてますよ!」
「えっ!? シ、シオン様!? よ、よかったら……この大根を……。ゴブリンが毎回美味しそうに食べるんですよっ!」
「シ、シオン様……。お、お久しぶりです……。どうか……我々はこのまま土いじりを……」
完全に牙の抜けた元侵略者である人類は、俺に扮したダンピールに媚びへつらう。
「な? 人間の認識なんてこんなもんだよ」
「こんなもんなのですねぇ」
俺はカノンと共に苦笑を浮かべるのであった。
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