ダーク某②


「クッ……!? こ、このプレッシャーは……! 貴様、只者ではないな!?」


 ダーク某は僅かに後退しながら、震える声で呟く。


「しかぁし! 我が輩も伊達に闇を統べし帝王と――」


 ――《ファイヤーランス》!


 尚も喚くダーク某に炎の槍を放つ。炎の槍はダーク某の肩を掠める。


「ぐぁ!? 貴様! 今は我が輩のターンだろっ! 貴様に矜持は――」

「ねーよ」


 ――《一閃突き》!


 俺はダーク某との距離を詰め、素早い刺突を放つ。


 矜持? 俺にあるのは、生き残りたいという意地汚い欲望と、配下の前で強いところを見せたいというちっぽけな願望だけだ。


「クッ!? ……矜持も知らぬ愚者よ! 死ぬがよい! ――《ダブルスラスト》!」


 ダーク某は素早くレイピアを二度突き出す。一突き目は上体を捻って回避するが、二突き目が俺の脇腹を掠める。


 ――ッ!?


 こいつ、アホの癖して戦い慣れてやがる。


 殺し合いの最中にお喋りするのは愚行だが、ダーク某は戦闘慣れした強者の身のこなしを身に付けていた。


 俺はバックステップでダーク某との間合いを図る。


「闇の産まれし、混沌の槍よ。我に逆らいし愚か者に……」


 ――?


 ダーク某は、何やらブツブツと呟き始める。


「死を与えん! ――《ダークランス》!」


 俺は飛来してくる闇の槍を片手で弾き飛ばす。


「――な!? わ、我が深淵の槍を……片手で!?」


 深淵の槍って……ただのダークランスだろ? ってか、吸血種の魔王は闇属性に強い耐性があるのを知らないのか? ……知らない訳ないよな?


 俺は目の前で驚愕の表情を浮かべるド級のアホに、呆れ果てる。


「魔法は効かぬか……。ならば『サウザンドニードル』で葬り去るのみ!」

「ハッ! ただの『レイピア』に大層な名前付けてんじゃねーよ!」


 レイピアを構えて突っ込んでくるダーク某、俺がゲイボルグを突き出す。ダーク某は突き出されたゲイボルクを打ち払う。


 チッ!? 力で押し切れないところ見ると……こいつはアホだが、肉体の値はBか?


「フッ! 槍使いの弱点は知っている。懐に入りさえすれば!」


 ダーク某は地を蹴り素早く距離を詰めようとするが、俺は素早くサイドステップを刻み、ショートレンジの間合いになるのを避ける。


「ハッ! そんな戦略通用するのは、自分よりも肉体が劣った相手だけだ!」


 俺はダーク某の行動を鼻で笑いながら、槍を薙ぎ払いダーク某の行動を牽制する。


「我が輩の妙技を前にしても、同じ態度が取れるかな? 我、疾風とならん! ――《ファストスラスト》!」


 ――!?


 ダーク某の姿が残像を残して消えたかと思えば、刹那の速さで俺の懐へと入り込み腹部を刺突される。俺は腹部に僅かな痛みを感じながらも、ゲイボルクを横薙ぎし、懐に入ったダーク某を追い払う。


「む? 堅いな。何だ……その服は!? 貴様を殺したら我が輩が愛用してやろう」

「俺はお前を殺したら、そのタキシードを燃やしてやるよ」


 ねちっこい笑みを浮かべるダーク某に、俺は苛つきながら答える。


「戯れ言を。我が輩の神速の秘技の前にひれ伏すがよい! 我、疾風となりて、汝を討たん! ――《ファストスラスト》!」


 ダーク某は、再び刹那の速度で俺の懐へと入り込み腹部を刺突する。


 ダメージは小さい。致命傷には至らないが、厄介な攻撃だ。


 攻撃する前にいちいちアホな事を抜かしやがって……。


 ――!


 俺はバックステップを刻み、ダーク某との距離を図る。


「ハッ! 無駄な足掻きを! 貴様は我が輩の神速の秘技から逃れられぬ運命なのだ!」


 ダーク某は、離れた俺へと駆け寄り、


「我、疾風となりて、汝を討たん!」


 いつものアホな言葉を宣言する。《ミストセパレーション》はタイミングを図るのはシビアだ。


 しかし、ご丁寧に攻撃のタイミングを教えてくれるのならば――。


「――《ファストスラスト》!」


 ――《ミストセパレーション》!


 ダーク某の貫いた俺の残像は霧となり、霧散する。


「――!?」


 ――偃月斬!


 そして、ダーク某の背後にて具現化した俺は、力強くゲイボルクを振り下ろした。


「グアァァァアアア!?」


 ゲイボルクの刃先から発生した衝撃波と共に、ダーク某は大理石の壁へと吹き飛ばされる。


「き、貴様が……なぜ……その奥義を――」


 ――《ファイヤーランス》!


 呻き声を上げるダーク某に追撃の炎の槍を放つと、俺は倒れ込むダーク某へと疾駆する。


「う……うぅ……あ、熱い……」


 ――《五月雨突き》!


 熱さに苦しむダーク某、素早い連続した刺突を繰り出す。


「……う……うぅ……」


 ほぉ……。流石は、肉体Bだな。まだ生きているのか。虫の息となったダーク某の姿を見て、俺は感心する。


 トドメを刺すのは簡単だが……一応、確認するか。


「最後通告だ。死ぬか、降伏するか。3秒以内に答えろ」


「うぅ……こ……こう……ふ……く……しま……す……」

「ならば、降伏の意を示せ」

「な……な……にを……す……れ……ば?」


 ダーク某は擦れる声で呟く。


 ってか、聞き取りづらいな。少しだけ、体力を回復させるか。


「全員、集まれ!」


 俺はクロエたち配下を呼び寄せ、念の為に、落ちていたレイピアを取り上げる。


「このアホが少しでも動いたら、殺せ」

「「「ハッ!」」」


 ダーク某の四方を武器で持った配下で囲み、粗悪品の回復薬をダーク某の頭にぶっかける。


「配下に【真核】を持参するように命じろ」

「ここにですか?」


 四方から武器を突きつけられたダーク某の震える声に、俺は首を縦に振って答える。


「急げよ? 十分遅れる度に、回復した体力を削るために、攻撃するからな?」

「は、はい!」


 待つこと1時間。


 ダーク某が俺の宣言通り、6回ほど焼かれた頃にジャイアントバットが【真核】を持って現れた。俺はジャイアントバットが持参した【真核】を受け取り、降伏の手順をダーク某に説明する。


「俺に対して服従する気持ちを強く抱き、今から俺の言う言葉を宣言しろ」

「は、はい……」

「私――魔王ダーク……ど、ど……おい! 名前は?」

「ダークネス・ドラクル三世です……」

「私――魔王ダークネス・ドラクル三世は、魔王である生を捨て、汝――魔王シオンに『降伏』します。だ。覚えたか?」

「は、はい」

「ならば、宣言せよ!」


 クソッ! 説明する為とは言え、恥ずかしい名前だな。震える声で応えるダーク某に、俺は苛つきながら命令する。


「私――魔王ダークネス・ドラクル三世は、魔王である生を捨て、汝――魔王シオンに『降伏』します」

「――了承する」


 ……


 ……


 ……


 ――?


 いつまで経っても変化は訪れない。台詞を間違えたか? 俺は、カノンに聞いてメモ書きしていたので、スマートフォンのメモアプリを立ち上げて確かめる。


 合っているよな?


 と言うことは……


「なるほど……。お前は俺に服従する気持ちはない。つまりは、死にたいと?」


 俺はゲイボルクを握る手に殺意を込める。


「ま、ま、待って下さい! そ、そ、そんなことないです!? もう一度……もう一度だけ……チャンスを下さい……」


 慌てて懇願するダーク某を見て、俺は無言で頷く。次、失敗したら殺そう。


「わ、私――魔王……さ、サブロウは、魔王である生を捨て、汝――魔王シオンに『降伏』します」


 ――!


 俺は、ダーク某――改め、サブロウの宣言に思わず吹き出し、殺意を霧散させる。


「――りょ、了承……する」


 俺は笑いを堪えながらも、魔王サブロウを受け入れる言葉を宣言した。


 すると、先程は何の反応も無かった【真核】が光り輝き、俺の手の中から消失。同時に、足下が、空間が、支配領域が激しく振動したのであった。


『>>魔王サブロウの支配領域を支配しました。


 >>支配領域の統合に成功しました。これより24時間【擬似的平和】が付与されます』


 俺はスマートフォンを操作して、サブロウの降伏が成功したことを確認。


 こうして、俺は二人目となる元魔王の配下を迎え入れたのであった。

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