今後の戦略①


 【擬似的平和】残り21時間。


 束の間の平和な時間を有効活用すべく、やるべきことは残り2つ。


 1.支配領域の防衛を考慮した再構築。


 2.今後の戦略方針の考案。


 その他に、【擬似的平和】が終了後、新たに習得した特殊能力の確認、そして期待の新戦力イザヨイの戦力確認。と、こんな感じだろうか。


 まずは、早急に取りかかるのは支配領域の防衛を考慮した再構築だろう。


 現状、俺の支配している支配領域の数は37。その内18の支配領域は全てが自身の支配領域に囲まれている……つまりは、敵に攻められることのない安全な支配領域だ。


 俺は支配領域の情報が落とし込まれた地図に目を落とす。


     かほく市


   海●●●●●●●

   海○○○○○○●

   海●○○☆○○●  富山県

 野々市市●○○○○●

     ●○○○○●

 能美市  ●●●●●

       金沢市


 小松市   白山市


 野々市市と隣接している支配領域の周辺には、強力な人類及び魔王の情報は確認されていない。金沢市と隣接している支配領域の周辺には金沢市出身の高レベルの人類が生息しているが、奴らは白山市の支配領域攻略へと移行しているとの情報がある。小松市には、20を超える支配領域を支配する魔王の情報はあるが、俺の支配領域と衝突するのはまだ先だろう。富山県と隣接する支配領域の周辺には、高レベルの人類の情報は少なからず存在するが、バックボーンが富山市役所なので、こちらからちょっかいを掛けない限りは、県外の支配領域に好き好んで侵略してくる猛者は少ないだろう。かほく市――県北の情勢は3~5つの支配領域を支配する魔王が点在しており、人類と一進一退の攻防を繰り広げているらしい。


 これらの情報を踏まえて、支配領域を再構築する必要がある。


 最も警戒すべきは南方面――金沢市の人類だ。現在は、リナたち勇者様御一行全滅のトラウマから、俺の支配領域はハザードランクが最高となり敬遠されているが、少しでも攻略が可能と判断されれば、全勢力で押し寄せてくる可能性がある。金沢市と隣接する支配領域は一階層から罠をふんだんに仕掛け、高ランクの配下を配置して、旨味がないと知らしめるのが得策だろう。


 逆に危険度が少ない西方面――野々市市と隣接している支配領域は初心者向けの『稼ぎ場』として解放して、配下のレベルアップの支配領域として構成するのが得策だろう。


 東方面――富山県西部の南砺市と隣接している支配領域は、中ランク以上の人類及び一部の魔王からの侵略が予想される。こちらは、イザヨイを中心とした高ランクの配下が稼げるように、程よい旨味を与えつつ……中ランク向けの『稼ぎ場』として構築するのが得策だろうか。


 北方面――かほく市と隣接している支配領域は、東方面と同等の考え方でも構わないだろうか? 脅威度としては、こちらのほうが高いので罠の量を増やしておくか。


 守るべき支配領域は19カ所。全てを俺の監視下に置き、指示を出すのは困難とも言える状況だ。予定としては、魔王アリサを配下として隷属させ、方面指揮官として運用するつもりだったのが……過ぎたことは仕方がない。


 後は、安全な支配領域を居住区として充実させるか。


 俺はスマートフォンを操作して、支配領域を自分の定めた方針に則って再構築していくのであった。



 ◆



 【擬似的平和】残り12時間。


 支配領域の再構築を終えた俺は、今後の戦略方針を考案する。


「カノン! リナ!」


 俺の中でのプランはある程度固まっていたが、一応他者の意見を聞くのも必要だろう。柔軟な意見を進言出来る二人の配下を呼び寄せる。


「はぁい」

「何だ」


 カノンとリナが俺の元へと駆け寄ってきた。俺は、二人の間に地図を展開する。


「これより、今後の戦略方針を考案する」

「お!? 参謀としては腕が鳴りますねぇ」

「了解した」


 二人は興味津々に目の前に展開された地図へと視線を落とす。


「まずは、俺から3つのプランを提案する」


 俺は指を三本立てる。自由討論では、時間がかかり過ぎる。最初からある程度の選択肢を用意しておいた方が、スムーズに話し合いが進むはずだ。


「1つ目は、北方面へと勢力を拡大させる。このプランの最終目標は能登半島の制圧だ。

 2つ目は、南方面へと勢力を拡大させる。このプランの最終目標は金沢市全地域の制圧だ。

 3つ目は、西方面へと勢力を拡大させる。このプランの最終目標は野々市市及び能美郡の制圧となる」


 俺は北方面へ①、南方面へ②、西方面に③と地図に記載をする。


「なるほどぉ。私は北方面へと勢力を拡大させるプランを支持しますぅ」

「――!? 北方面……。わ、私は西方面へと勢力を拡大させるプランを支持する」


 カノンはドヤ顔を浮かべながら地図に記載されたかほく市を指差し、リナは表情を曇らせながらも地図に記載された野々市市を指差す。


「なるほど。順当な意見だな。プラン2――金沢市の制圧は見栄え重視の自己満足的なプランだ。リスクに対してのリターンも少ないから却下でいいな」


 俺は地図に書き込んだ②の文字の上に×と記載する。


「まずは、カノン。①を選んだ理由を述べてくれ」


「はぁい。えっとですね、この支配領域の状況を見てもわかる通り、海と面した支配領域からは侵略されません」


 カノンは海と面した支配領域を指差しながら、考えを述べ始める。


「ならば、北方面――ゆくゆくは能登半島を制圧することは多くの安全な支配領域を確保することへと繋がりますぅ。将来的に考えても、かほく市、七尾市、珠洲市と県北を支配領域として治めることが最善であると、参謀として進言しますぅ」


 カノンは、よほど自分の意見に自信があるのだろう。言葉には自信が漲っている。


「参謀として認めてはいないが……カノンの意見に穴はないな」

「――な!? 普通に褒めてくれても、いいのですよぉ?」

「リナ。③を選んだ理由を述べてくれ」


 俺は頬を膨らませるカノンを無視して、リナへと話を振る。


「そ、そうだな。私の考えもカノンと一緒だ。海と面している支配領域を拡大させる。野々市市と能美郡には強大な魔王及び人類の存在は確認されていない。難易度を考慮すると、西方面から進めるのが――」

「異議あり!」


 リナが不安そうに説明をしている途中に、カノンが大声で異議を唱える。俺はリナを指差した状態でドヤ顔を浮かべているカノンに発言を許可する。


「フッフッフ。リナさん、甘いですねぇ。2手、3手先の展開を読んでこそ、真の参謀と――」

「カノン。御託はいいから、要点だけ述べろ」

「はぁい。えっとですね……リナさんの意見。正確にはシオンさんが提示したプラン③には2つの落とし穴があるのですぅ。1つは、野々市市と能美郡を刺激すると、白山市の支配領域を侵略しようとしている人類を刺激してしまう。1つは、能美郡は小松市と隣接しています。小松市には強力な魔王が存在しています。場合によっては、かほく市、富山県、小松市からの3点攻めをされる危険性が生じてしまうですぅ」


 カノンは指を1本ずつ立てながら、ドヤ顔で説明をする。


「カノンの態度には苛つくが、正論だな」

「だから、一言多いと――キャー!?」


 スカートを捲し上げながら、騒ぐカノンを尻目にリナの様子を確認する。


 カノンの口調と態度には一切賛同できないが、俺もカノンと同じ考えであった。俺の中では最初からプラン①を決め打ちしており、この話し合いは言わば答え合わせだった。


 とは言え、気になるのはリナの表情だ。


「リナ。俺もカノンの考えに賛成だが……リナは何か引っかかることがあるのか?」

「そ、そういう訳では……」


 俺はリナへと問いただす。


「ん? 何かあるのか? 野々市市の侵略を優先する理由が……もしくは、県北への侵略を躊躇う……理由があるのか?」


 県北の侵略と言う言葉を口に出したときに、リナの表情が曇った。


「い、いや。そうではない。シオンもカノンと同じ考えならば、私から言うことは何もない。私はシオンの配下だ……。シオンの命令に従おう」


 リナは最初を下を向きながら返事をするが、最後には俺の目を見て力強く答えた。


「そうか。ならば、俺たちの今後の目標は県北――能登半島の制圧を目標とする」

「はぁい」

「了解だ」


 俺は確認の意味を込めて、今後の戦略方針を宣言する。


「さて、今後の戦略方針は決まった訳だが……二人にはもう一つ頼みたいことがある」

「はい?」

「何だ?」


 俺は首を傾げるカノンとリナに、今後の我が勢力を左右するであろう大切な指示を出すのであった。

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