二人の魔王
「とある条件を満たす魔王を探して欲しい」
俺は二人に頼み事の内容を伝える。
「条件は何ですかぁ?」
「防衛に特化した魔王。出来れば支配領域の数が少ないのに、難攻不落と噂される支配領域の魔王。魔王本人の力量が高いに越したことはないが、クレバーな罠を仕掛けたり、配下の運用が上手い魔王を探してくれ」
俺は求める条件を提示する。敵に侵略される可能性がある19の支配領域全てを俺一人で管理するのに限界を感じていた。更に言えば、魔王アリサとの戦闘を経験した結果、俺自身もレベル上げの為に侵略に乗り出すことも視野に入れていた。配下に任せてもいいが、創造した配下は柔軟性が乏しい。柔軟性の高い人材――元魔王に防衛を任せたかった。
「えっとぉ……私はネットで探せばいいのでしょうかぁ?」
「カノンはそうなるな。ちなみに、近場な」
「はぁい」
カノンが返事をする。
「私もネットで情報を集めればいいのか?」
リナは困惑しながら答える。
「いや、リナは俺やカノンが収集した情報を元に現地で確認してくれ。当然、暇なときは自分のスマホで情報収集を頼む」
「了解した」
俺からの指示を受けたカノンとリナは、スマートフォンを操作して情報収集を始めた。俺も、同様にスマートフォンを操作して優秀な魔王を発掘すべく、情報収集を行うのであった。
◆
【擬似的平和】残り6時間。
「シオンさん! この支配領域の魔王はどうですかぁ?」
「どんな魔王だ?」
俺は笑顔を浮かべながら、近寄って来たカノンに視線を向ける。
「えっとですねぇ……野々市市の魔王ですが、ハザードランクBの支配領域の魔王ですぅ。推測されるレベル7ですぅ。支配している支配領域の数は2つで、種族はスライム種ですねぇ。配下にクリムゾンスライムが存在することから創造のランクはBですねぇ。ネチネチとした落とし穴が多くて、人類から嫌われている支配領域の魔王なのですぅ」
俺はカノンが差し向けたスマートフォンの画面に視線を落とす。
「徘徊していたオークを倒したら……ミスリルの剣をドロップした? ってことは、錬成もBか?」
「そうなりますねぇ。創造と錬成特化なら、防衛に長けてそうじゃないですかぁ?」
「うーん……却下」
「えっ!? な、何故ですかぁ……」
「創造と錬成特化ってことは、肉体と魔力のステータス低いだろ?」
「恐らく?」
「降伏したら、創造も錬成も出来ないんだろ? なら、ゴミじゃないか?」
「――な!? その意見は酷いと思うのですよぉ」
創造と錬成に特化した点は褒めたい。但し、魔王は配下になると創造も錬成も出来なくなってしまう。出来れば、肉体と魔力も高い方が戦力として望ましい。
とは言え、肉体、魔力特化している時点で、罠や配下の運用は下手と思われる……。
インターネットを駆使して情報を収集するが、ピンとくる魔王は簡単には見つからない。
魔王アリサ――罠の嫌らしさ、自身の強さ、後半のしぶとさ……あのクラスの魔王はそう簡単には存在しないか……。性格がクソだったから、仲間にしていたら、それはそれで苦労しそうだったが……。
その後も、周辺の魔王の情報を収集しながら……めぼしい魔王の情報を控える作業を続けた。
「シオン。シオンの希望に添うか不明だが……興味深い魔王がいるぞ?」
リナが初めて声を掛けてきた。
「どんな魔王だ?」
「私はカノンと違うので、創造や錬成のランクは推測出来ないが……ネットに投稿されている情報によると、その支配領域には二人の魔王が存在するらしいぞ?」
「は? 二人の魔王? 詳しく聞かせろ」
俺はリナに教えられたURLを打ち込み、人類が多用していると言う掲示板を閲覧する。
二人の魔王。単純に考えれば、カノンのように降伏をした元魔王を配下として加えている魔王の情報だろうか? しかし、人類がカノンと遭遇したとして……魔王と錯覚するか?
リナが発見した魔王は内灘町(金沢市北部)で、7つの支配領域を支配する魔王の情報であった。カノンともURLを共有した結果、
老人の魔王は背中に漆黒の翼を生やし、少女の魔王は額に小さな角が生えているらしい。
「カノン。魔王はどっちだと思う?」
「多分ですけど、魔力特化の老人ですね……外見の特徴も魔族種と一致しますぅ」
「ってことは、少女のほうは降伏した鬼種の元魔王か?」
「うーん……そこが疑問なんですよぉ。恐らく、外見の特徴から鬼種だと思うのですが……この情報が気になるのですぅ」
カノンが指差した投稿された情報に視線を落とす。
投稿者 タイセイ@彼女募集中
内灘町役場近くのダンジョンやべーよ! 魔王がやべー! いきなり消えたと思ったら、背後から現れやがった! 仲間が3人殺された! あいつ出て来たらマジで背後に注意な!!
投稿者 イナミ
私もそいつに会いました。後ろから見ていたのですが……あいつは仲間の影から現れました。何なのアイツ!! 私のヒロユキを返してよ!!
カノンが指差した情報に目を通し、俺は首を傾げる。
確かに、姿を消して影から現れるとか……反則にも等しい特殊能力だが……。
「えっとですねぇ……この能力を有する鬼種って、シオンさんで言うとデイライト・ヴァンパイアなんですよぉ。私で言うとデュラハンですぅ」
「は?」
俺はカノンの言葉を聞いて、二つの疑問が頭に浮かんだ。
「何で、鬼種の進化先の情報知っているんだよっ!」
「え、えっと、正確には詳細はわからないんですぅ……。鬼種と魔族種とエルフ種とドワーフ種の一部の進化先の情報は――」
「まぁいい……」
あの場で鬼種と魔族種とエルフ種とドワーフ種の進化先の一部だけを聞いたところで、有効活用は出来なかった。
それよりも問題なのは……その少女はなぜ魔王がレベル10に至って初めて進化出来る種族の特性と有しているのか、と言うことだ。
「カノン。ちなみに、降伏した魔王はレベルを重ねれば進化出来るのか?」
「はい。私だと、レベル50になれば進化出来ますよぉ」
「ちなみに、二人のレベルは?」
「28ですぅ」
「41だな」
戦闘に参加することがないカノンのレベルが低いのは承知している。しかし、リナは常に最前線で戦闘を繰り広げてきた。その手で葬り去った魔王の数も二桁を超えている。そして、石川県内に生息する魔王の中には俺以上に支配領域の数を支配する魔王は存在しない。
つまり、リナは石川県内においてはトップランカーとも言うべき存在であるはずだ。
ならば、少女のレベルが50を超えているとは考えづらい。とは言え、レベル10を超えた魔王で、その後推定レベル8の魔王に降伏したというのも考えられない。
「カノン、魔族種の魔王は姿を消して、他人の影から現れる魔物を創造出来ないのか?」
「私の知る限り無理ですぅ。そもそも目撃情報によると、その魔物は鬼種の『影鬼』なのですよぉ。魔族種は鬼種を創造出来ないのですよぉ」
カノンは困り果てた表情を浮かべる。
「創造と言えば……この支配領域は魔族種以外にも多種多様な魔物の姿が確認されているぞ?」
掲示板を見ながら報告するリナの言葉は、謎を更に深める。
「多種多様の魔物の姿?」
「うむ。遭遇した魔物の情報を掲示板に報告して、情報の共有化を図るのは解放者の務めだが……この掲示板を見る限り、魔族種のレッサーデーモン以外にもオーガ、ピクシー、ドワーフ、エルフ、ワーキャット……グールの姿も確認されているぞ?」
「は? カノン、魔族種って創造に優れている種族なのか?」
俺はリナの報告を受けて、思わず口を大きく開ける。
「ち、違いますよぉ。魔族種は魔力に優れた種族で、創造特化の種族はないはずですよぉ」
「と言うことは、今まで支配した支配領域の魔物を配下にした?」
「うーん……可能性としては高いですねぇ」
2人の魔王に、多種多様な魔族か……。調べれば、調べるほど興味深い支配領域だ。
ここで議論を交わしていても答えは出ないだろう。俺は強く興味を惹かれたので、二人の魔王が存在すると言われる内灘町の支配領域の情報を徹底的に収集した。
調べれば、調べるほど、内灘町の支配領域を支配する魔王に興味が湧いてくる。
――!
お……これは決まりだな!
「リナ、カノン。まずは内灘方面へと勢力を拡大する。目標は、内灘町の支配領域を支配する二人の魔王の服従だ!」
「はぁい!」
「了解した!」
短期的戦略方針として、内灘町の支配領域の魔王の服従。中期的戦略方針として、県北の制圧。そして、一気に石川県全域を支配する!
新たに定めた戦略を達成すべく、思考を張り巡らせるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます