vs魔王アリサ⑤


(クロエ視点)

 暗闇(ダーク)ゾーン超えた私たちは、魔王アリサの支配領域の侵略を着実に進行していた。


 恐るべきは、姑息な二重の罠を容易く見破った――マスターの慧眼。


 あぁ……私は何て幸せなダークエルフだ。


 クロエ=シオン……甘美な響き。私は与えられた名誉ある名前を心で反芻するだけで、全てが満たされる。


「……ロエ、……っすよ」


 満ち足りた幸せな時を、下等な声が邪魔をする。


「まーた……トリップしてるっすよ」

「クロエのソレは病気の一種だ」


「なんだ?」

「クロエ、行くっすよ?」

「フンッ! 貴様に言われるまでもない!」


 下等な声の主――ブルーに言われなくとも、私は先に進む。全知全能にして私の全てであるマスターの恩命を一秒でも早く果たすために。


「クロエ様の身に何が起きた?」

「姐さんは大丈夫なのかい?」


 新たに徒党を組むことになったオーガジェネラルのノワールと、オーガブレイバーのルージュ。最初は舐めた口を叩いていたが、キッチリと実力を示したら大人しくなった。ルージュは「姐さん、姐さん」と五月蠅いが、マスターから大切にしろと厳命されているので、死なない程度に鍛えるつもりだ。


 まぁ、二人とも素養は十分だ。鍛えれば、ブルー程度はあっさりと抜き去るだろう。


「敵だ」


 先頭を歩くシルバーが鼻をヒクヒクとさせて、敵の気配を察知する。


 シルバーとノワールが盾を構えて、一歩前へと踏み出す。リビングメイルたちは私たちを庇うように、盾を構える。私は弓の弦を引き、他の配下たちも各々の武器を構えて、敵を待ち構えた。


 ――見えた!


「――《イーグルアロー》!」


 森の奥にチラリと見えた煌めく鱗粉――ピクシーの羽根へと私の放った矢が飛来する。


「フゥ! やってやるぜぇぇえええ!」

「オイラも行くっすよ!」


 人狼へと姿を変えたホープと、斧を手にしたブルーが森の奥から現れたゴブリンの群れへと突撃し、少し遅れてルージュが無骨な金棒を振り回しながら乱戦と化した前線で暴れ回る。


 私はひたすらピクシー共を矢で射貫き、シルバーとノワールは押し寄せるゴブリンを堰き止め、リビングメイルたちは私に降り注ぐ魔法を堅固な盾で受け止める。


 遅れながら前線に参加した人虎やオーガソルジャーたちも加わり、前線は乱戦模様だ。


 マスターは仰った――『個の力で圧倒せよ』


 私たちは個の力で勝たなくてはいけない。つまりは、配下と言えど負けることは許されない。


「わかっているな?」

「はい。クロエ様」


 私は配下のダークハイエルフに声を掛ける。


 私とダークハイエルフは、前線で考え無しに戦う配下たちを矢の攻撃でフォローする。オーガソルジャーに振り下ろしたゴブリンの斧を弓矢で弾き、後方で魔法を使う羽虫(ピクシー)を弓矢で貫き、ブルーに振り下ろされた斧を……あいつは勝手に避けるな。


 私は戦況を見ながら、配下たちをフォローする。


 脆弱にして下等な配下なれど、所有者は――魔王シオン。ならば、私は全力で護ろう。マスターの所有物を汚す者には一切の慈悲が不要なのだから。


 私は不埒なゴブリンやピクシー共に、弓矢を放ち続けるのであった。



 30分後。


 全ての下等なゴミたちの駆逐が終了した。


 僅かではあるが……マスターの糧になっただろうか。


 遠い地で見守るマスターに想いを馳せながら、私は恩命を果たすため森の奥へと進軍するのであった。



 ◇



(シオン視点)


「順調ですねぇ」

「順調だな」


 リナ部隊、クロエ部隊共に2階層へと進行を進めていた。2階層も、1階層と変わらぬ森の地形が続いていた。


 敵の練度は予想通り低かった。個の力で圧勝できるという予測は当たっていた。


 とは言え……。


「先は長いな……」

「魔王アリサの支配領域は9階層までありますからねぇ」


 9階層からなる12の支配領域の全てを支配しないと、魔王アリサの勢力を殲滅できない。12全てを支配する前に魔王アリサとエンカウントする可能性は高いだろうが……それでも先は長い。


「魔王アリサを炙り出す方法はないか? 自称参謀よ」

「――な!? 参謀の前に不本意な言葉が……えっと、ないですねぇ」

「ないのかよ」

「千里の道も一歩から。参謀として、この言葉を進言しますぅ」

「それ、参謀の意味なくね?」


 結局、良いアイディアは思い浮かばず、地道なマッピングの繰り返しによる侵略を指示するのであった。



 ◆



 魔王アリサの支配領域侵略を始めてから5日目。


 リナ部隊は6階層へ、クロエ部隊は5階層まで侵略を進めていた。


 方針は|見敵必殺サーチ&デストロイ。魔王アリサの戦力を削りつつ、支配領域の入口からの往復を繰り返す地道なマッピング。こちらの被害は未だゼロ。地味な作戦だが、逆の立場であったならストレスマックスの侵略を継続していた。


「レベルアップおめでとうございます!」

「サンキュー」


 眷属から得られる僅かな経験値ではあるが、塵も積もれば山となる。俺のレベルは9へと成長した。


「相変わらずBPは貯めているのですかぁ?」

「そうだな。現状は【肉体】、【魔力】に振る必要性を感じないからな」


 スマートフォンを操作して【ステータス】を確認する。


 名前:シオン

 適正:カオス

 種族:魔王(吸血種)

 LV:9

 CP:3600

 肉体:C(D)

 魔力:C(D)

 知識:E

 創造:B

 錬成:B

 BP:22

 特殊能力:魔王

 吸収鬼

 槍技(C)

 →一閃突き

 →五月雨突き

 支配領域創造

 分割

 転移(B)

 配下創造

 乱数創造

 アイテム錬成

 闇の帳

 ダークアロー

 ダークインダクション

 ミストセパレーション

 ダークストーム

 吸収レイラ

 →言語 (人種)

 →鞭技 (C)

 →スネークバインド

 →氷魔法(中級)

 →闇魔法(中級)

 血の杯

 契約コントラクト


 【創造】もしくは【錬成】をAにするまでの道のりは果てしなく遠い。最短でも、レベルを15まで成長させる必要があった。


「レベル5以降、レベルアップしても恩恵がないな」

「まぁ、【肉体】か【魔力】を成長させるのは可能ですけどねぇ」


 【肉体】もしくは【魔力】をDからCに成長させるのに必要なBPは5。つまりは、成長させると【創造】もしくは【錬成】をAへと成長させるのがレベル1分遅れる。CからBに成長させるにはBPが10も必要になる。そうなると、Aに至る道は更に遠ざかる。


「バランス型より、特化型だろ? 但し、知識特化は――」

「わわわ!? まだ言いますかぁ! でも、私の知識があるから……BからAへと成長させるのに必要なBPが50って分かったのですよぉ?」


 俺の言葉を遮り、カノンが早口で捲し立てる。


 実際にカノンの知識に助けられている一面は大きい。わざわざ、その事を言葉にして伝えるつもりは毛頭無いが。


 レベルが15になったら【創造】と【錬成】、どっちをAへと成長させるべきか?


 遠い先の未来を考えながら、スマートフォンに映し出される変わらぬ森の景色を眺めるのであった。


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