vs魔王アリサ⑥


 魔王アリサの支配領域侵略を始めてから七日目。


 魔王アリサの支配領域侵略は好調であった。何体かの配下は倒されてしまったが、その都度補充を繰り返した。何より、肝心要の眷属は全員無事であった。


 リナ部隊、クロエ部隊共に8階層目を侵略中だったある日。


 1つの異変が訪れた。


 幾度となく受けていた激しい襲撃がパタリと止んだのだ。


「弾切れか……?」

「えぇー!? 魔王アリサは、毎時間210もCPが回復するのですよぉ」


 魔王(妖精種)である魔王アリサは、ゴブリンであれば毎時間70体創造出来る。ピクシーを創造するのに必要なCPは30らしい。ピクシーであれば毎時間7体創造出来る計算になる。実際には無手で襲撃させても、こちらの経験値になるだけなので……アイテムも錬成するとなると、数はもう少し下がる。


 とは言え、襲撃がパタリと止むのは異常事態であった。


 襲撃もない状況が続いた結果、リナ部隊もクロエ部隊も侵略のペースが加速していた。


 9階層――最深部に戦力を集中させたか?


 あらゆる罠を想定しながらも、この好機を活かした結果、リナ部隊とクロエ部隊は9階層へと続く階段を発見したのであった。



 ◆



「シオンさん! わかりましたよぉ!」


 リナ部隊とクロエ部隊が9階層を侵略する最中、カノンが自分の体長の半分を占める程の大きさのスマートフォンを抱えて、飛んできた。


「どうした?」

「わかりましたぁ! 襲撃が止んだ理由がわかりましたよぉ!」


 カノンは俺の目の前に自身のスマートフォンの画面を掲げる。


 ――!


 なるほど。


 スマートフォンの画面に映るのは屈強な男女が笑顔を浮かべた画像。画像の上には記事のタイトルが記載されていた。


 ――『富山県が誇る英雄【ブラックラーレ】が石川県の住民を害していたゴブリンの巣窟である支配領域を見事に解放!』


 魔王アリサは人類に対しての防衛に集中していたのか。


 人類に支配領域を解放されたのは痛手だ。とは言え、この好機を逃す訳にはいかない。


 ――9階層の敵は手薄だ! 速攻で【真核】を見つけ出せ!


 侵略中の配下たちに指示を出す。


 9階層に存在する敵は、最初から配置された魔物のみ。今までのような、常にこちらの状況を確認しての増援による襲撃はないはず。


 逆に増援による襲撃があったなら、それはチャンスとも言える。敵の増援、それはすなわち魔王アリサへと通じる【転移装置】が存在することを示しているからだ。



 9階層侵略を開始してから6時間後。


 リナの部隊は【真核】を守護する最後の敵の集団と対面するのであった。



 ◇



(リナ視点)


 8階層の途中から敵の襲撃は鳴りを潜めた。9階層に至っては、戦闘らしい戦闘は2回だけ。敵はフル装備であったが、数は少なく、練度も拙かったので呆気なく勝利を収めた。


 シオンの命令に従い、半ば強行軍とも言える強引な侵略を進めた結果……私たちの目の前には台座に置かれた【真核】と、それを守護する敵の集団――支配領域の最奥へと辿り着いた。


 敵の数は20体。敵の中にはランクBのゴブリンジェネラルが4体、ハイピクシーが4体混じっている。リーダーと思われるゴブリンジェネラルは全身をミスリル装備で固めていた。


 数、質共に私たちのほうが勝っている。とは言え、油断は禁物だ。


 注意すべきは……ミスリル装備のゴブリンジェネラルと4体のハイピクシー。最奥に至るまでに失った仲間は全員、ハイピクシーの魔法で倒されていた。



「女王様すまねぇ。オイラたちはここまでっす。でも……女王様の敵は一人でも多く討ち倒すっす!! いくぞ! お前たち! ウオォォォォオオ!!」


 ミスリル装備のゴブリンジェネラルが武器を振り回して、雄叫びをあげる。


「「「――《#$&%》!」」」


 雄叫びに呼応するように、後方に控えたハイピクシーの杖から無数の風の刃が巻き起こる。


 スッと盾を構えて、前に出たアイアンとリビングメイルたちが私たちを護る形で、無数の風の刃をその身で受け止める。


 ダクエルを筆頭にダークエルフたちが弓矢をハイピクシーに放ち、応戦する。


「行くぞ!」

「フッ。言われなくとも」

「あのデカブツは私が引き受ける」

「おうよ!」

「は~い」


 私は仲間たちと共に、【真核】を護る敵へと立ち向かうのであった。


 レイラは素早く氷の弾丸をミスリル装備のゴブリンジェネラルへと放ち、視線で挑発をする。私とレッドは足並みを揃えて、前線を司るゴブリンジェネラルへと攻撃を仕掛ける。ガイは配下のウェアウルフと共に、その隙を突いてハイピクシーへと疾駆した。


 私は1体のゴブリンジェネラルと対峙する。邪魔者が入らないように仲間たちとの連携も完璧だ。


「ギィィィィ!!」


 ゴブリンジェネラルが雄叫びと共に、重厚な斧を振り下ろす。


 力では勝てない。私は払い打つのを諦めて、バックステップにて迫り来る斧の一撃を回避。素早くダーインスレイブによる刺突を仕掛ける。


 金属同士が触れ合う乾いた音が響く。


 浅かったか……。


 ならば……――《スラッシュ》!


「ギィ!?」


 重厚な斧を手にしたゴブリンジェネラルが攻撃の態勢に戻る前に、力の限りダーインスレイブを振り下ろす。今度はダーインスレイブを持つ手に確かな感触を感じる。力で負けていても……速度で押し切れば! 私は素早く何度もダーインスレイブで攻撃を仕掛けた。


「ギィギィギィ!」


 ゴブリンジェネラルは私からの攻撃を受けながらも、強引に重厚な斧を振り回す。


 ――ッ!?


 咄嗟に振り回された重厚な斧の刃先に、ダーインスレイブの刃を合わせるが……力負けして態勢を崩してしまう。


「&#%&」


 態勢を崩した私を見て、ゴブリンジェネラルは口角を上げて、重厚な斧を振り上げる。私はダーインスレイブを正面に構えて、少しでもダメージを緩和しようと試みるが……。


「ギィィイイイ――」


 後方から飛来した弓矢が振り上げられた重厚な斧を弾き飛ばす。


「フンッ」


 振り向けば、ダクエルがつまらなそうに鼻を鳴らす。


 助かった。私は声には出さず、ダクエルに感謝をし、態勢を崩したゴブリンジェネラルの胴体へダーインスレイブを力の限り振り下ろした。


「ギィ!?」


 後方へと蹌踉よろめくゴブリンジェネラルへと、一歩踏み込み……鎧の継ぎ目――首元へとダーインスレイブを水平に一閃した。


 頭部を失ったゴブリンジェネラルの身体は、土煙を上げながら地面へと静かに倒れたのであった。


 その後はガイと共に、小賢しいハイピクシーを駆逐。


 敵の数は1体、また1体と数を減らし……最後に生き残ったミスリル装備のゴブリンジェネラルへは、全員で攻撃を仕掛け、討伐に成功したのであった。



 ◇



(シオン視点)


 ――~♪ ~♪


 スマートフォンから流れる軽快な通知音。


『リナ=シオンが【真核】を入手しました。リナ=シオンを仮の主として支配領域を《分割》しますか? 即座に《統合》しますか?』



 遅れること30分。


 ――~♪ ~♪


 スマートフォンから流れる軽快な通知音。


『クロエ=シオンが【真核】を入手しました。クロエ=シオンを仮の主として支配領域を《分割》しますか? 即座に《統合》しますか?』


 両者共に《統合》を選択。


 これで俺の支配下にある支配領域の数は29となり、魔王アリサの支配下にある支配領域の数は9となった。


 《統合》をしたことによって発生した《擬似的平和》の効果を活かして、【転移装置】を設置し、リナの部隊とクロエの部隊を俺の元へと呼び戻す。


 労いの言葉と休暇を与えたいが、状況がそれを許さない。


 人類が支配領域を解放する度に、俺は得られるはずの支配領域を失ってしまう。


 速戦即決。間を置かずに、次なる侵略の命令を下そうとしたその時――


 ――ビィ! ビィ! ビィ! ビィ! ビィ!


 聞き慣れない電子音が手元のスマートフォンから響いたのであった。

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