祝勝会(vs魔王カンタ)


 《分割》された全ての支配領域の統合が無事に終わった。


 【擬似的平和】の状況を利用して《転移装置》にて全ての眷属と主要な配下を第一支配領域の最奥へと集合させた。


 雰囲気重視で創造した【お立ち台】の上に立ち、集まった配下たちの顔を見回す。


「……コホン。これより、魔王カンタの支配領域侵攻の成功を祝して祝勝会を行う」


 咳払いを一つして、祝勝会の開催を宣言した。


 こういう行事はアニメや映画で見て憧れてはいたが……いざ、自分がやる立場になると緊張するな。


「宴を始める前に、まずは授与式を執り行う。呼ばれた者は前に出よ」

「「「はっ!」」」


 授与式。これこそが、祝勝会を開催した真の目的であった。


 明日から始まる魔王アリサの支配領域への侵攻。勝率を上げるためのポイントは――個の力の底上げ。


 とは言え、レベルを上げることは一朝一夕では成し得ない。ならば、即席で出来る個の力の底上げは――強力なアイテムの授与だ。


 普通に渡してもよかったが、折角なので授与式という形式を成してみた。


 高ランクのアイテムは、リナたちが魔王カンタの支配領域を侵攻しているときに錬成していた。錬成可能な最高峰のアイテムを錬成する為に必要なCPは1500。それらは全部で10種類存在しており、全てがユニークアイテムであった。他にも錬成済みのダーインスレイブを含めて15種類のユニークアイテムが存在しており、全てが錬成済みであった。


「リナ!」

「うむ」


 名前を呼ばれたリナが俺の前へと進み出る。


「リナにはランクBの軽鎧――『戦乙女の鎧』と、ランクCの兜――『魔性の仮面』を授与する」

「謹んで貰い受ける……って、これは何だ?」


 あおをベースに白銀で縁取られた機動性を重視しながらも耐久性に優れた鎧を受け取った後、黒を基調とした目の部分のみを保護した――いわゆるベネチアンマスク調の『魔性の仮面』を受け取ったリナは首を傾げる。


「『魔性の仮面』だが? 錬成するのにCP700も消費した逸品だぞ?」

「いや、逸品なのはいいが……なぜこの形なのだ?」

「明日から侵攻予定の魔王アリサの支配領域は、現在も人類に攻め立てられているのは知っているよな?」

「それは知っている」

「顔バレしたらまずくないか――元『黒剣の勇者』様?」


 リナは今まで人類と鉢合わせにならないように行動を制限していた。しかし、魔王アリサの支配領域は多くの人類が侵攻中だ。身バレして、リナの動きが鈍るのは避けたい。


「な、なるほど……。配慮に感謝する」


 俺の意図を理解したリナは頭を下げて、元いた場所へと戻る。


 俺としては、『魔性の仮面』よりもCP1500を消費したユニークアイテムの『戦乙女の鎧』に関心を持って欲しかったのだが……。


 何だかんだでリナは稀少且つ重要な配下だ。カノンと同じく代わりはいない。授与したアイテムは最高峰のアイテムを選択したのであった。


「続いてレイラ!」

「はっ!」


 名前を呼ばれたレイラが俺の前へと進み出る。


「レイラにはランクBの武器――『冥府の鞭』と、ランクCの防具一式を授与する!」

「はっ! ありがたき幸せ!」


 『冥府の鞭』は闇のように深い黒を基調とした鞭だ。闇属性を強化する能力が備わっているCP1500を消費して錬成したユニークアイテムだ。


 その後も、フローラにランクBの杖『クリムゾンスタッフ』を、レッドにランクBの鈍器『ヴァジュラ』を、アイアンにランクBの盾『レクイエムシールド』を、クロエにランクBの弓『イチイバル』を、ブルーにランクBの片手斧『ウィンドクリーヴァー』を授与した。


 ガイ、ダクエル、シルバー、ホープにもユニークアイテムではないが、扱えるアイテムの中で最高ランクのモノを授与。他にも、クロエたちと共に武者修行に出掛けた配下4体と、唯一生き残ったリナたちの配下であるダンピールにもアイテムを授与した。


 ちなみに、俺が錬成出来る最高峰の槍――『ゲイボルグ』と、最高峰の服――『混沌の衣』と、最高峰の指輪――『クリムゾンの指輪』は俺が装備していた。


 これで出し惜しみはなしの最高戦力が完成した。


 後は英気を養ってもらい、明日から始まる侵攻の成功を祈るのみだ。


「これにて授与式を終了とする。それでは、宴を開催する」


 俺はジンジャエールで満たされたグラスを片手に、配下を見回す。


 配下たちはカノンが事前に用意した、それぞれの好みのドリンクで満たされたグラスを手にする。


「魔王カンタの支配領域侵攻の成功を祝して……そして、明日から始まる魔王アリサの支配領域侵攻の成功を祈願して――乾杯!」

「「「乾杯!」」」


 ささやかながらの宴が開催されたのであった。



 ◆



「だーかーらー……ヒック!? シオンはぁ……もっと配下を労うべきなの!」


 誰だ! リナに酒を飲ませた奴は!


「そうだぁ! そうだぁ! 今こそ声高々に環境改革を掲げましょおぉ!」


 カノン? お前は自ら酒に手を出したな?


「そうっす! オイラも常々お頭の――ゲフッ!?」


 創造された配下の中で唯一忠誠心に疑問を感じさせるブルーがリナとカノンに賛同しようとするが、クロエに腹パンされて踞る。


「下郎が! マスターは! マスターは! 三陸世界一の支配者だ!」

「流石はクロエ姉様! 私もシオン様こそがこの世界で唯一にして無二の支配者であると、確信しております!」


 よく見るとクロエの目がいつもに増して狂信的になっており、そこにもう1人の狂信者のレイラが加わり、場は混沌と化す。


「カッカッカッ! 旦那、もっと飲みましょうぜ!」

「酒臭い……寄るな!」


 一升瓶を片手に、陽気になったレッドが俺に絡んでくる。


「そこの鬼! 主に対して無礼ぞ!」

「あん? 犬っころ? やんのか? てめぇ?」


 レッドの態度に怒りを露わにしたシルバーがレッドを叱咤し、レッドは据わった目でシルバーを睨み付けて、一触即発の状態になる。


「お前たち! 争いは――」

「――《ファイヤーボール》! 不敬者が!」

「――《アイスバレット》! 身の程を弁えよ!」


 レッドとシルバーを仲裁しようとしたが、いち早く俺の行動に気付いたクロエがシルバーに炎球を飛ばし、レイラがレッドに氷の弾丸を放つ。


 混沌と化した宴の中、俺は配下たちへ酒の供給は今後二度としないと心の中で誓った。



 翌日。


 二日酔いで使い物にならない配下の姿を確認。魔王アリサの支配領域への侵攻は1日先延ばしとなったのであった。

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