配下の成長


 カノンと2人がかりで魔王アリサの情報を収集した結果……ある程度のステータスが予測出来た。


 魔王アリサ――妖精種。レベル9。支配領域の数12。最大CP2100。1時間毎にCP210回復。肉体【?】 魔力【B】 知識【?】 創造【B】 錬成【B】。


 主力配下:ゴブリンジェネラル。ランクB。創造CP100。ハイピクシー。ランクB。創造CP120。


 戦力は、ほぼ互角かよ……。


「カノン、妖精種って創造出来る配下のバランスいいな」

「ですねぇ」


 肉体系のゴブリンに、魔力系のピクシー。ゴブリン系統は多様性が高いのもポイントだ。妖精種は全体的に耐久性が低いと言う弱点もあったが、錬成したアイテムで補えるし、ゴブリンジェネラルは名前的に耐久性が高そうだった。


「知識特化じゃなかったら、妖精種って強いな」

「はぅ……。私の古傷を全力でえぐりますかぁ……」


 カノンを弄っても、状況は好転しない。


 真剣に魔王アリサの戦力を分析するか。


 魔王アリサの今までの印象は……数に物言わせた、圧倒的な物量戦略だ。


 ゴブリン系統は総じて創造CPが軽い。更には、支配領域の外へ連れ出すための消費LPも軽かった。吸血種特有の配下――例えばダンピール、ウェアウルフ、リリム、リビングメイルであれば、消費するLPは20。同種族の眷属の配下であれば半分の10となる。量産型として活用しているグールでさえ、消費するLPは10だ。対して、ゴブリンの消費するLPは1。ゴブリンファイターやゴブリンアーチャーであっても消費するLPは2だ。


 つまり、ゴブリンの眷属を1体作れば、10匹のゴブリンを支配領域の外に連れ出せる。


 魔王アリサはこの特性を利用して、大量のゴブリンを敵対する支配領域に送り込んだ。【特殊制限】で魔物の侵入を24体に制限されていても、中で倒されたら即座に1体を補充。周辺の低レベルの魔王よりも先行して動いた結果、総CPに勝った魔王アリサは瞬く間に周辺の支配領域を支配していった。


 逆に言えば、総CPが勝る俺から見れば……脅威として捉えてはいなかった。しかし、侵攻する立場となれば話は別だった。


 妖精種である魔王アリサは、ゴブリンを僅かCP5で創造出来る。1時間で42体ものゴブリンを創造出来る。更に魔法が得意なピクシーやナジャなどの魔物が絡むと、無傷で倒すのは厳しくなる。


 とは言え、【創造】がCだったら、個の力で押し切れたんだよな。


 ここに来て、創造がBへと成長。更には錬成までBへと成長したのが想定外だった……。


 頭の中で様々なシミュレーションを組み立てる。


 ――!


 ひょっとしたら、勝てる可能性は高い?


「お!? シオンさん、急にニヤけたりしてどうしたのですかぁ?」

「魔王アリサ……思ったよりも弱いかも知れないぞ?」


 俺は無意識に笑みを浮かべたのだろう。カノンが声を掛けてくる。


「えっ? 弱いですかぁ……?」

「あくまで思ったよりも、だけどな」

「私の見立てでは互角ですよぉ?」

「目に見える数値上では……互角だな」


 正確には目に見えていない。あくまで収集した情報から推測した数値だ。とは言え、俺は目の前のメモに書かれた数値を過剰評価していたかも知れない。


「また、シオンさんの遠回しな表現が――キャッ!? な、何でもないですぅ」


 スカートを捲し上げながら、カノンが何やら喚いている。俺は、そんなカノンをスルーして質問を投げかける。


「レイラが創造したばかりのダンピールと戦ったら、どっちが勝つと思う?」

「それは、レイラさんですよぉ。今のレイラさんならダンピール2体と戦っても、圧勝すると思いますよぉ」


 数値上――ステータス上はレイラもダンピールだ。ランクも同じBに分類される。


 しかし、その両者が争えば――レイラが圧勝する。


 なぜならば、レイラは外見、ステータスだけでは判断出来ない経験を積んでいるから。


 経験というのは非常に大きい。


 例えば――ブルー、来い。


 ランクC。ゴブリンチェイサーのブルーを呼び寄せる。


「何すか?」


 相変わらずの軽い口調でブルーが姿を現わす。


「上物の肉を食いたくないか?」

「食いたいっす!」

「じゃあ、模擬戦だな」

「……そんなことだと思ったっす」


 ブルーは天国から地獄へ落とされたような表情を浮かべ、肩を落とす。


 俺は戦闘経験のないダンピールを呼び寄せ、ブルーとの模擬戦を命じた。


 ブルーとダンピール。武器は互いに鉄製の武器。単純に技量のみが勝負の明暗を分ける。


「模擬戦開始!」


 俺の号令に合わせてブルーが背に担いだ鉄の弓を構えて、数本の矢を射貫く。アイスバレットを放とうとしていたダンピールであったが、飛来する矢に行動を阻害される。ダンピールは魔法による攻撃を諦め、鉄刺鞭を構えてブルーへと迫る。


「っと、危ないっすね」


 ブルーは振るわれた鞭を素早い動きで回避。鉄の弓を投げ捨てると腰に差した鉄の斧を掴んで、ダンピールに攻撃を仕掛ける。その後も機動性に勝るブルーは、自身の射程――ショートレンジを維持しながら、つかず離れずの素早い動きで、小さなダメージを積み重ねる。


「隙ありっす! ――《スティール》!」


 お?


 ブルーがダンピールの鉄棘鞭を奪い取った。


 無手になったダンピールをブルーが果敢に攻め立てる。ダンピールはステータスに物を言わせた格闘で対抗するも、戦局は常にブルーが有利なまま進められる。


 ブルーはダンピールに攻撃を続けながらも、チラチラと俺に視線を投げかけてくる。その視線は――「もうオイラの勝ちでいいっすよね?」と物語っていた。


 しょうがない奴だな。


「それまで!」


 俺は模擬戦終了の合図を告げた。決着までは遠かったが、この先ダンピールが逆転することはあり得ないだろう。


 模擬戦の結果に、満足した俺はCPを3も費やした上物の肉を錬成してブルーに与えた。


「ひゃっほー! 他の仲間には内緒でお願いっす!」


 ブルーは服の下に上物の肉をそそくさと隠すと、軽い足取りで立ち去っていった。


 これで、経験がステータスを凌駕りょうがすることが証明された。


 個人戦でこの結果であるならば、集団戦は連係力も絡み力の差は更に広がるだろう。


 魔王アリサは配下を使い捨てにする物量作戦を得意としている。経験を積んだ配下は少ないだろう。


 個の力で数を圧倒する――これが魔王アリサの支配領域を侵略するポイントとなりそうだ。


 ならば、勝率を上げるために俺がすべきことは一つ――個の力の底上げだ。


「カノン。祝勝会をやるぞ」

「はーい! って……えぇぇぇぇええ!? どういう風の吹き回しですかぁ!?」


 俺の言葉を受けたカノンが大声をあげて驚く。


「ん? 祝勝会を提案してきたのはカノンだろ?」

「そ、そうですけどぉ……絶対に却下されると思っていましたぁ」


 カノンは俺をどういう風に見ているのだろうか? まぁ、実際に却下する予定だったが。


「祝勝会は支配領域を統合した……1時間後に執り行う。準備を進めろ」

「はい。でも、配下の皆さんにはシオンさんから伝達して下さいね? 私はお料理の準備をしてきますねぇ」

「うむ。必要な食材があれば……CP100未満で用意しよう」

「CPを100も!? シオンさんにしては太っ腹で――キャー!?」


 カノンは空気が読めないのではなくて、スカートを捲し上げられる命令を待っている可能性も捨てきれないな。


 俺は、空気が読めなさすぎる検索ツールカノンを見て嘆息するのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る