vs魔王カンタ④


 敵の数は6体。シオンを通じてカノンから得た情報によればランクBのオーガジェネラル2体にランクCのオーガファイター4体。対して、私たちの戦力はレイラ(ダンピール)、フローラ(リリム)、ガイ(ウェアウルフ)、アイアン(リビングメイル)、レッド(オーガウォリアー)、ダクエル(ダークエルフ)に私を加えた眷属7人と、ダンピール3体、リリム3体、ウェアウルフ3体、ダークエルフ3体、リビングメイル3体。


 数では私たちが勝っているが、敵はBランクが2体。


私を含めた眷属の仲間たちであれば、Bランクと戦っても引けを取らない。とは言え、油断は禁物。戦場では、油断した者から死へと誘われる。


 ――遠距離攻撃を扱える者は、オーガジェネラルを一斉射撃!


 ――アイアンはオーガジェネラル1体を食い止めろ! リビングメイルは3体がかりで残ったオーガジェネラルを食い止めろ!


 ――リナ、ガイ、レッド、それとウェアウルフはランクCのオーガを1匹ずつ仕留めろ!


 矢継ぎ早にシオンの命令が、脳内に下され――全員が一つの意思の従い、即座に行動を起こした。


 私は、同じ命令を下された仲間と視線を交差させ、それぞれの相対する鬼を確認。


 ガイは向かって左の鬼に向かい、3匹のウェアウルフは向かって右の鬼に、レッドは獰猛な笑みを浮かべながら正面の鬼へと歩みを進め、私は残された鬼目指して疾駆した。


 私と相対した鬼は、手に黒く光る無骨な大剣を手にしていた。


 黒鉄の大剣か……。私が勇者と呼ばれていた頃に愛用していた剣とはサイズは違うが、懐かしいな。


「#$%&#!」


 鬼は咆哮と共に、大剣を振り下ろしてきた。


 鬼種の最大の特徴はその力。流石にシオンに下賜された手甲と言えど、その力から繰り出される大剣を受け止める気にはならない。


 私は軽く後ろへ跳躍し、振り下ろされた大剣を回避。がら空きになった胴へ、愛剣――ダーインスレイブの刺突を繰り出した。


 鬼の動きはここ半年、嫌と言うほど近くで見てきた。目の前の鬼の動きは、残念ながら私が見続けてきた鬼――レッドの劣化版と言わざるを得ない。


 その後も、鬼が繰り出す力任せな攻撃を回避し、着実にダメージを与え続けた。


 ――《スラッシュ》!


 気合いの息吹と共に放った鋭い斬撃が、鬼の首を斬り飛ばしたのは戦闘開始から3分が経過した頃であった。


 1体の鬼を倒した私は周囲を見回し、状況を確認する。


 目ざといガイは私に先を越された事に顔を歪め、レッドは露骨に「てめえ! 早く死ねよ! 負けたじゃねーか!」と目の前の鬼に八つ当たりをしている。


 あの2人は放っておいても問題ないだろう。3体のウェアウルフも、素早さで鬼を翻弄している。アイアンはレイラとフローラの援護を受けながら、オーガジェネラルの攻撃を耐え忍び……もう1体のオーガジェネラルと相対している3体のリビングメイルは、1体が半壊状態へと陥っていた。


 フォローすべきはあそこか。


 私は一心不乱にリビングメイルへ金棒を振り下ろす鬼将軍(オーガジェネラル)の背後へ回り込む。


 ――《スラッシュ》!


「――ッ!? あぁん? 何で人類が混ざってんだよ!」


 鬼将軍は顔だけを振り向き、背後から斬り付けた私に憎しみの視線をぶつける。


 敵も眷属……。ただでさえ手強いランクBの魔物だが、脅威度はそれ以上だ。私は、手にした愛剣を強く握り締める。


 敵の挙動に合わせて剣を構えていると、3体のリビングメイルが盾を打ち鳴らし……鬼将軍からのヘイトを集める。


「クソがッ! うざってぇブリキ共がぁぁぁあああ!」


 シオンの命令か? シオンは私の命を優先する余り、他の仲間……特に眷属以外の仲間を使い捨てにする傾向が強い。


 出来ることなら、これ以上仲間の死は見たくない。ならば、私に出来ることは――目の前の鬼将軍を1秒でも早く葬ることだ。


 私はリビングメイルを執拗に攻撃する鬼将軍へ、攻撃を続けるのであった。



  ◆



 30分後。


 3体の仲間がその命を散らし……全ての敵を葬り去ることが出来た。


 眷属は全員無事だった。命を散らしたのは、リビングメイル、ダークエルフ、ウェアウルフ。全員が眷属を守る盾となって、その命を散らした。


 シオン曰く『命は平等? アホか。命にも優先順位は存在する』


 私も全ての命と平等とは思ってはいない。しかし、守れる命は救いたい。と思うのは偽善なのだろうか。


 私はもっと強くなりたい。せめて、手の届く仲間の命は救えるように……。


 感傷に浸る間もなくシオンから命令が下された。


 ――ウェアウルフ。支配領域の内部を索敵せよ。


 シオンの命令に従い2体のウェアウルフが支配領域の内部へと侵入する。


 ――魔王は不在。各自、支配領域への侵攻を再開。進める場所まで侵攻せよ。


 私たちはシオンの命令に従い、支配領域への侵攻を再開したのであった。



  ◇



(シオン視点)


「オーガジェネラル強かったな」

「力もる事ながら、頑丈でしたねぇ」


 先程の戦いの様子をカノンと2人で話し合う。


「レッドもいずれはオーガジェネラルになれるのか?」

「うーん、どうでしょう? レッドさんはジェネラルよりも、ブレイバーに進化すると思いますよぉ」


 カノン曰く、配下の進化先は任意に選ぶことが出来ず、それまでの経験が反映されるらしい。非常に分かりやすい例を挙げると、弓を多用するゴブリンはゴブリンアーチャーへと進化し、斧を多用するゴブリンはゴブリンファイターへと進化する。


 指揮する立場にある場合は、攻守に優れたジェネラル系へと進化し、脳筋――攻撃一辺倒だと、ブレイバー系へと進化するらしい。


 レッドは……脳筋系だな。


 オーガジェネラルが配下に欲しいとは言え、レッドに指揮を委ねるのは愚策としか言い様がない。せめて、もう1体オーガの配下が存在すれば……。


「《乱数創造》でオーガをもう一度、創造出来る可能性はどれくらいだと思う?」

「うーん……1%未満じゃないですかぁ?」

「オーガ攻めて来ないかな……」

「攻めて来ても、《血の杯》を飲み干させるのは無理じゃないですかぁ?」

「ギリギリまで痛めつければ……」

「オーガなら死ぬまで抵抗してくるイメージですぅ」

「……だな」


 俺はカノンと不毛な会話を繰り返している間も、リナたちは支配領域の侵攻を順調に進め、別働隊のクロエたちも順調に俺の命令をこなしていくのであった。


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