vs魔王カンタ⑤
魔王カンタの支配領域の侵略を再開してから10日目。
私たちは最奥層である7階層へと辿り着いた。
敵の数は徐々に減っていき、今では餓鬼の姿を見ることは無くなった。経験上、低ランクの魔物が減っているのは、相手のゆとりが無くなった証拠。
魔王カンタは、この支配領域を捨て去る可能性もあれば――【真核】を守護する為に、最奥に待ち構えているケースもある。私たちは周囲を警戒しながら、ゆっくりとした足取りで支配領域の最奥を目指した。
2回の休憩を挟み15時間後。
荒れ果てた荒野の中、大きな岩が道を塞ぎ、幾度も遠回りを余儀なくされた7階層を進んでいると、切り開かれた空間へと辿り着いた。
ここが最奥の地か。
切り開かれた空間の奥には、粗末な小屋が見える。【真核】はあの小屋の中だろう。
小屋へと急ぎたい気持ちもあるが、小屋へと辿り着くには……目の前に立ち塞がった無数の鬼共を倒す必要があるようだ。
立ち塞がる鬼の数は――50体は優に超えている。ランクBのオーガジェネラル。オーガブレイバーの姿も数体確認出来る。
どうする……? 立ち塞がる鬼の群れに私は選択を迫られるのであった。
◇
(シオン視点)
リナたちの前に立ち塞がるのは50体を超える鬼の群れ。
スマートフォンの画面越しであっても、リナたちの緊張は伝わってくる。
このまま突っ込ませるのは愚策だな。守り手の最大のメリットは数の制限がないことだ。個の質はリナたちが上だろうが、正面からかち合えば何人もの配下が死ぬだろう。
鬼たちは魔王カンタの指示だろうか? 殺意の含んだ視線だけをリナたちに送り、その場からは一歩も動かない。
少し戻れば……大きな岩に囲まれた小道があったな。
まずは、相手の利点から奪うか。
一部の配下を残して、リナたちに小道まで引き下がるように命令を下す。
続いて残した配下――ダクエルと2体のダークエルフに命令を下す。
――手前のオーガを射貫け!
ダクエルたちは弓を引き絞り鋼の矢を、手前のオーガ目掛けて放った。
3本の鋼の矢がオーガの胴体に突き刺さる。
さて、どう出る?
ゲームならこの行動は――『釣り』と呼ばれる行為だ。集団の中から1匹だけを釣り出す行為。しかし、この世界は現実だ。オーガはAIで動く訳ではないし、俺と同じく
ベストは弓矢で射貫かれた1匹だけが攻めて来るパターン、もしくはその場で待機し続けてそのまま弓矢を受け続けるパターン。その可能性は0に等しいだろうな。
全員が一斉に攻めて来るのが最悪のパターンだが、こちらから攻めて四方を囲まれる状況になるよりはかなりマシだ。どうせ、全て倒すのだからな。
魔王カンタの選んだ選択は――20体ほどのオーガが弓を放ったダクエルたちに迫り来る。ダクエルたちは素早く、配下の待つ小道へと移動する。
半分を差し向けた? 中途半端だな。全員を差し向けて【真核】を奪われるのを警戒したのか?
まぁ、いい。俺が出来るのはここまでだ。後は、リナたちの力を信じるとしよう。
◇
(リナ視点)
疾走するダクエルたちが私の横を駆け抜けると、ダクエルたちを追いかけるように20体を超えるオーガたちが土煙を巻き上げながら迫ってきた。
武器を振るうこと考慮すれば、巨漢のオーガは横に並べても2体。シオンの策は見事に功を奏して、鬼たちの数の利は失われた。私たちはアイアンを最前線に陣形を組み、迫り来るオーガの迎撃に備える。
レイラを始めたとした魔法を扱える仲間たちが迫り来るオーガに魔法を放つが、20を超えるオーガの勢いは止まらない。程なくして、オーガの振り下ろした金棒とアイアンの構えた盾が激しい衝突音を響かせる。
「右の鬼さんには攻撃禁止ね~――《スリープ》」
フローラの放った微睡みの靄が1体のオーガを眠りへと誘った。
私はアイアンの横からすり抜けるようにダーインスレイブを突き刺し、金棒を振り下ろしたオーガの胴体を刺突する。
「#&%――」
喚くオーガの大口の中にレイラの放った氷の弾丸が吸い込まれ、オーガの叫びは閉ざされる。私はその隙にオーガの胴体を薙ぎ払い、
作戦と連携――全てが見事に絡み合う。
負ける気がしない。
私は不思議な高揚感に包まれながら、迫り来る鬼を1匹ずつ葬り去るのであった。
3時間後。
狭い小道である以上前線に立てる人員が限られていたので、私たちは交代で休息しながら迫り来る鬼たちを迎撃し続けた。
何かがおかしい?
私は目の前のオーガを斬り捨てて、違和感を覚える。
これで何体目? 私だけでも20体は軽く葬っている――なのに、視界の先には無数の鬼たちが控えていた。
作戦は完璧だ……と思う。途中でオーガジェネラルが前線に来たときに仲間の1人である配下のウェアウルフがその命を散らしたが、戦況は私たちが常に有利な状況のはず。
休息を取りながらとは言え……鬼たちの攻撃はいつまで続くのだろうか?
視界の先に広がる鬼の群れを見つめながら、私は一抹の不安を感じるのであった。
◇
(シオン視点)
「んー? カノン。リナたちは何体の鬼を倒した?」
「数えてないので正確にはわかりませんが……ペース的に60体は倒していると思いますよぉ」
だよな? ならば、なぜ――鬼たちの数が減らない?
――ガイ。ちょっと横の岩を登れ。
命令を下されたガイは、ロッククライミングの要領で小道を形成している大きな岩をよじ登る。
なるほどな。
高所からのガイの視点を借りて、遙か先方――【真核】が収められていると思われる小屋の様子を確認した。
すると、小屋から鬼たちが出てくる様子が確認出来た。
その後も10分ほど確認すると、小屋から合計で7体の鬼が出現するのが確認出来た。
小屋からの無限ポップ? ノンノン。ここはゲームの世界じゃない。そんな設備は、少なくとも創造Bの段階では存在しない。
ならば、鬼たちの生まれる小屋の正体は?
答えは――《転移装置》。
恐らく、小屋の中に《転移装置》が設置されており、転移先は魔王カンタの本拠地。魔王カンタはせっせと、鬼たちを創造して送り続けているのだろう。
愚策だな。
「カノン。オーガを創造するのに必要なCPは?」
「鬼種の魔王なら80ですねぇ」
オーガの創造CPは80。そして、オーガが装備している金棒のCPは……80だったか。ジェネラル以外は防具を装備していないから……オーガ1体あたりのコストは160か。
クロエたちが先日支配領域を更に1つ解放したから……魔王カンタの支配する支配領域の数は7つ。魔王カンタのレベルは7。つまり、魔王カンタの最大CPは1400。1時間に140ずつ回復する。
つまり、1時間に1匹以上倒せば戦力(CP)はじり貧する計算だ。
そしてリナたちは3分に1匹のペースで鬼たちを葬っている。
つまりは、魔王カンタの戦力は加速度的に減少傾向にあり、あの小屋から出現する鬼たちは決して無限ポップなどではない。元々のストックがどれほどいたかは不明だが……このまま倒し続けたらいつかは尽き果てる。
――苦しいと思うが、そのままその場で鬼たちを駆逐し続けろ! いつかは果てる。
ゴールが見えずに不安になっているであろう配下たちに命令と同時にエールを送る。
同時に、クロエたちに重要な命令を下した。
6時間後。
死闘を制したリナたちの前に、行く手を遮る敵は誰一人として存在していなかったのであった。
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