検証(リナ)①


「おかえりなさい」


 第四階層へ戻った俺をカノンとリナが出迎えてくれる。


「ただいま。十分に休めたか?」

「バッチリですぅ」

「あぁ。感謝する」


 二人の返事を聞いた俺は、自室を兼ねた洞窟へと移動した。


「さてと……CPが全回復した訳だが、どっちがいいと思う?」

「どっちとは、《血の杯》と《乱数創造》ですかぁ?」

「うむ。今後の予定は、支配領域への侵略となる訳だが……侵略出来るのは眷属と眷属の配下のみ。万全を期すためにも、眷属は増やしておきたい」

「ならば、眷属を増やす……《血の杯》でいいのでは?」


 俺の言葉にリナが答える。


「単純に考えると、そうなるが……《血の杯》は消費するCPが重いので、《血の杯》を使用する配下は厳選したい。そうなると、《乱数創造》で創造した配下に《血の杯》を使用した方がいい可能性もある」

「それなら、《乱数創造》からすればいいんじゃないですかぁ?」

「そう言われれば身も蓋もないが、《乱数創造》で創造される配下はランダムだろ? 不安じゃないか?」


 《乱数創造》。いわゆる、ガチャ創造。何が創造されるのか分からないというのは、期待を煽るが、同時にランダムであるが故に、先の計算に入れづらい。


「《乱数創造》でゴミ配下が創造されたら……悲しくならないか?」

「まぁ、そういう要素も含めて乱数ですからねぇ」


 ちなみに、カノンの説明によれば《乱数創造》で創造される配下は……自分の創造ランク(俺の場合はB)の範囲内で、他の種族が創造出来る配下を含めた全ての配下がランダムで創造される。また、低確率だが……ユニーク配下と言うべきレアな配下が創造される可能性もあるらしい。


 大当たりは、ユニーク配下。当たりは、俺では創造出来ない他の種族が創造出来るBランク相当の配下。ハズレは、スライムやラットなどの低ランク且つ俺が創造出来る配下となる。


 CP600を消費してスライムが創造されたら、俺は本気で泣くかもしれない。


「まぁ、悩んでいる時間も勿体ないか」


 1分悩めば1のCPが無駄になり、10分悩めば10のCPが無駄になる。


 俺は意を決して、スマートフォンを操作――《乱数創造》をタップした。


 地面に光り輝く五芒星が出現――光の中から大柄な人影が姿を現した。


「#&$%#!!」


 現れた人影は、俺の理解出来ない言語を叫ぶ。


 鬼?


 光が収束し、全貌を露わにした人影は、身の丈2メートル超の逞しい体つきは全身が赤く染まっており、頭から1本の角を生やした魔物であった。


「『うぉぉおおお! 超絶がんばるぜっ!』だ、そうですぅ」


 カノンが丁寧に通訳してくれる。


「んで、アレの正体は?」


 俺は、カノンに尋ねる。スマートフォンの配下の項目を参照すれば知ることは出来るが、カノンから聞いた方が詳細を把握出来る。


「オーガさんですねぇ。ランクはC。鬼種が創造出来る魔物ですね。腕力に優れて、進化も出来る鬼種の魔王の主戦力ですぅ」

「ほぉ。ちなみに、創造するのに必要なCPは?」

「160ですぅ。でも鬼種だと消費するCPは半分なので、実質80ですねぇ」


 600ものCPを消費して160のCPで創造出来る配下を創造か……。そもそも、ユニーク配下以外は、全て損をしてしまうのではないか? 魔王(吸血種)である俺が創造出来る、最もCPが高い配下で――ダンピールのCP120だ。吸血種の特権で半分になっているとしても240だ。


 どう考えても損する仕組みじゃないか?


「カノン。ユニーク配下の排出率は?」

「排出率って……ガチャじゃないんですよぉ。えっと、不明ですぅ」


 俺は軽く舌打ちをして、頭を切り替えるのであった。



 ◆



「さてと、本題に入ろうか。いよいよ、他の魔王の支配領域への侵略を開始する」

「おー!」

「うむ」


 俺は撃退した人類が所持していた、金沢市の詳細な地図を机の上に広げる。地図には、以前話し合った支配領域の情報が記載済みだ。


「隣接していない支配領域を支配した場合だが、俺は転移で移動出来るとして……カノンは移動出来ないのか?」

「シオンさんの支配領域と対象となる支配領域のあいだに第三者の支配領域が挟まっていたら、私が眷属にならないと移動は無理ですぅ」

「その言い方だと、間に第三者の支配領域が無かったら、移動出来るのか?」


 カノンの答えに疑問を覚えて、質問を続ける。


「その場合だと、条件を満たす必要はありますが、間に存在する人類の領土はシオンさんの支配領域に組み込まれるので、道を繋げれば私でも移動は出来ますよぉ」


 頼れる検索ツールが、複雑な仕様を説明してくれた。


「条件とは?」

「間に存在する人類を全員追い出すことですぅ」


 条件はハードだった。


「厳しい条件だが、やり方次第では俺の支配領域は地続きで拡大していくのか」

「そうなりますねぇ」


 カノンから聞かされた条件を念頭に、再び市内の地図へと視線を戻す。


 イメージとしては、複雑なオセロか?


 出来れば、支配領域は地続きで拡大していきたい。


 そうなると、侵略の対象となる支配領域は4つ。


 A:第一支配領域の北側に隣接する支配領域。魔王の推定レベルは3未満。

 B:第二支配領域の南側に隣接する支配領域。魔王は獣種。

 C:第一支配領域から東に500m程離れた支配領域。魔王の推定レベルは3未満。

 D:第二支配領域から北に500m程離れた支配領域。魔王は魔族種。


 □■D□■■

 ■■□A□■

 □□★☆□C

 ■□B◎□□

 □■□□■■

 ■■□■□■


 ※☆=第一支配領域。★=第二支配領域。□=人類の領域。■=支配領域。◎=大学。


「こうやって見ると、数少ないレベル3未満の魔王が俺の周辺に多いな」

「その原因は単純だ」


 地図を眺めながら呟いた俺の感想に、リナが答える。


「え? 原因あるのか?」

「シオンの支配領域は人類から『稼ぎ場』と認識されていた。侵略する支配領域を選択出来る立場であるなら、シオンの支配領域を侵略する」

「なるほど」


 俺の地道な情報操作活動は、知らずに周辺の支配領域の弱体化も引き起こしていたのか。


「これもシオンさんの計算ですかぁ?」

「どうだろうな?」


 完全に偶然であったが、俺は含みを持たせた笑みを浮かべるのであった。


「単純に考えたら、侵略する支配領域の候補はAかCだが……リナはAかC、どちらかの侵略経験は?」

「Cならばある」

「勇者様御一行であれば、解放出来たと思うか?」

「その勇者様御一行という呼び方は……」

「なら、何て呼べば?」

「そう言われると……」


 リナが回答に詰まったので、勇者様御一行と言う名称はそのまま継続することにした。


「C……正確には金沢市○○町の支配領域は出現する魔物がコボルト。装備もEランク相当だったから……恐らく可能だったと思う」


 魔物がコボルト。よって創造のランクはD。装備がEランク相当。よって錬成のランクはE。肉体か魔力に特化していても、ランクはCが限界か。


 ――俺の洞窟に来い。


 眷属たちを俺の洞窟へと呼ぶ。


 暫く待つと、クロエ、シルバー、ブルー、ホープの洞窟へと姿を現した。


「よし、模擬戦だ。リナ……ここにいる四人の眷属と順番に戦ってくれ。但し、絶対に相手を殺すなよ。お前たちもリナを殺すことは絶対に許さないからな?」

「わかった」

「畏まりました!」

「御意!」

「わかりました」

「了解っす!」


 安全を考慮して、装備はEランクのアイテムに限定。


 これで、眷属が勝利すれば、勇者様御一行よりも強いメンバーとなるので、安心して送り出せる。


 まずは、ゴブリンファイター――ブルーが、元勇者――リナと対峙するのであった。

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