検証(特殊能力)
予定が狂ったな。
一人の時は、大抵のことが予定通りに進んだが……配下が――意思を持った配下が、増えると、予期せぬ事態が増えた。
面倒だな。
一人の時間が長すぎた。人間だった頃の属性:
一人の時は気楽だった。生き延びるために必死であったが、気楽だった。誰かの予定に合わせる必要がない。全てを自分のペースで進めることが出来た。
俺とカノン。そして、俺とリナ。互いを繋ぐ関係は――主従関係だ。魔王と配下――絶対服従の命令権付きの主従関係だ。これがゲームであるならば、効率のみを求めて命令を下せばいい。ワンクリック、ワンボタンで下した命令に従うキャラクター。
しかし、現実はそうはいかない。彼女たちは、厄介なことに感情を持ち、感情が及ぼす効果は非常に大きい。だからこそ、俺は生き延びるために、感情という要素も加味した行動を起こさなくてはいけない。
俺は無知だ。カノンが居なければ、多くのことがわからないままであった。
俺は無力だ。支配領域から外へは一歩も外には出られない。眷属――リナの力を借りなければ、自身の成長もままならない。
だから、俺は生き延びるために、感情という要素を加味した行動を選択する。
魔王――管理職と言う立場は、想像以上に面倒であった。
◆
一人、時間を持て余した俺は第二支配領域に侵入してきた人類を相手に《ミストセパレーション》の実地検証をすることにした。
「クロエ、ダンピール。共に侵入者を撃退しに行くか?」
「喜んで!」
「光栄です!」
つかず離れずの距離を保ち、俺へと熱視線を送っていた二人の配下に声を掛けると、二人は即座に返事を返した。
「それじゃ、行く前に……ダンピール。《吸収》してもいいか?」
「わ、私のような半端な血で……よろしければ……」
普段はダークエルフを《吸収》した状態で、戦闘に挑むことが多いのだが、先程の模擬戦を見てダンピールも面白いと思い声を掛けると、ダンピールは白い頬を赤らめ片膝を付いた。
片膝を付かれても……逆に《吸収》しづらいのだが。
俺は上から追い被さるようにダンピールの首筋を噛み付いた。
――《吸収》
濃厚な生命が俺の体内に流れ込む。
名前:シオン
適正:カオス
種族:魔王(吸血種)
LV:5
CP:300
肉体:C(D)
魔力:C(D)
知識:E
創造:B
錬成:B
BP:2
特殊能力:魔王
吸血鬼
槍技(D)
支配領域創造
分割
転移(C)
配下創造
乱数創造
アイテム錬成
闇の帳
ダークアロー
ダークインダクション
ミストセパレーション
吸収
→言語 (人種)
→鞭技 (C)
→スネークバインド
→氷魔法(中級)
→闇魔法(中級)
血の杯
お!? 想定以上に特殊能力が増えた。しかも、魔法は中級だ。鞭技は……俺が自力で習得した槍技よりもランクは上だが……槍を育てよう。
試したい特殊能力が盛り沢山だな。
侵入者の位置は……第二支配領域の二階層中盤か。強さ的にはレベルは5前後か? 転移でサクッと行きたいが、残念ながらクールタイム中だ。
俺は2人の配下と共に、鼻歌交じりに侵入者の元へと向かうのであった。
◆
三階層から二階層へと続く階段の前までようやく辿り着いた。
アレだな……超絶イエスマンとの会話は一切楽しくないな。正直、独り言と大差がない。唯一実りがあった会話は、クロエが調査のために遠征に出掛けた時の話だろうか。その話すら、クロエは俺以外を見下す――過小評価する傾向があるので、参考にならない話も多かった。
そんな退屈な道中も、そろそろ終了だ。
耳を澄ませば……金属が擦り合う足音と、話し声が聞こえてきた。
俺はハンドサインを送り、クロエをオブジェとして置かれた岩の影への移動を命じ、俺自身は《闇の帳》で気配を消した。
「だ、誰だ!?」
先頭を歩く壮年の男性が声を上げる。
「じょ、女性……?」
「仲間とはぐれたのか?」
「バカな!? 支配領域には12人以上侵入出来ないはずだ!」
行く手の前に立ち塞がるダンピールを見て、侵入者たちが騒ぎ立てる。
「下等なる生物よ。土足にて我が主の領域に立ち入ったことを死して悔いよ」
ダンピールは侵入者へ、絶対零度の冷たい言葉を投げかける。その姿は、まさしく支配領域の主。もしくは、魔王の側近。
「ま、魔王か……」
「な、何で二階層目に魔王がいるのよ!?」
「お、落ち着け……奴は我が主と言った。つまり――」
「――《アイスアロー》!」
敵を目の前に戯言を続ける侵入者に無数の氷の弓矢が降り注ぐ。
「――な!?」
「うわぁぁぁぁ!?」
「構えろ! 敵は1人だ!」
ある者は恐慌状態に陥り、ある者は己を鼓舞して武器を構える。
――クロエ! 後方の杖を持った人類を射貫け!
俺が指示を出すと、クロエは命令(オーダー)通りに、後方の人類を射貫く。
「ぐぁ!?」
「え!? そ、そこに敵が!」
「クソッ!」
侵入者の意識はダンピールに集中し、その後岩陰から矢を放ったクロエへと分散される。
背後が、がら空きだぞ?
重装備の武器を手にした侵入者はクロエとダンピールに迫り、残された軽装備の侵入者の背後から、俺はミスリルの槍を突き刺した。
「――えっ……」
装備的にヒーラーだろうか? 槍に貫かれた女性の侵入者が地に倒れる。
「うわぁぁあああ!?」
「何で!?」
「た、助けてくれぇぇえええ!?」
後衛の残された侵入者たちは、倒れた仲間の姿と、槍を手にした俺の姿へ交互に視線を送り、恐慌状態に陥る。
「うわぁぁぁああ!」
恐慌状態に陥った侵入者の一人が、雄叫びを上げながら俺へと手にした鈍器を振り下ろす。
――《ミストセパレーション》!
俺の全身が、僅か3秒と言う短い時間ではあるが霧と化し、後方へと流れる。振り下ろされた鈍器は空を切り、俺は元いた場所から3歩ほど下がった位置で元へと戻る。
3秒か。タイミングがシビアだな。
「えっ?」
空振った鈍器の勢いに流され、前方へと体勢を崩した侵入者を迎え入れるようにミスリルの槍を突き出した。
「そ、そんな……」
胴体を貫かれた侵入者が、そのまま地に倒れる。
「ば、化け物ぉぉぉおお!? ――《ファイヤー ――」
後方に控えた侵入者の杖に炎が灯り始めるのを確認した俺は、左手を銃の形に模して、狙いを付けて念じる。
――《アイスバレット》
左手から放たれた氷の弾丸は、炎の魔法を使おうとしていた頭へと命中する。
ヘッドショットでも倒せないか。展開は早いが、威力は弱いな。
俺は新たに得た特殊能力の効果を検証しながら、一人ずつ倒してゆくのであった。
30分後。
物言わぬ12人の侵入者のなれの果てが地に横たわっていた。
ミスリルの槍で倒すと、高確率で鎧をダメにするんだよな……。穴の空いた鎧や衣服を目にして、俺は嘆息する。
その後めぼしいアイテムを剥ぎ取り、4階層への帰路へと就くのであった。
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