vs金沢の勇者様御一行①
魔王になってから100日目。
俺は迫り来る勇者たちの襲撃に備え、日々の精進に励んでいた。
「ってか、人類ズルくね? 【カオス】は圧倒的に不利だろ」
「急にどうしたんですかぁ?」
俺は日課である、ネットニュースの閲覧を終えて、愚痴を溢す。
「うぇーいwww氏のSNSを見たか? あいつのレベル、もう13だぜ?」
「うぇーいwww氏って『白銀の勇者』ですかぁ? シオンさんだって、先日レベルが4に上がったじゃないですかぁ」
こまめにSNSを更新してくれるうぇーいwww氏は、常に自分のレベルと支配領域の攻略進捗を教えてくれる。
「いやいや、ダブルスコアどころの差じゃねーよ……3倍以上も離されているぞ」
「まぁ、人類はレベルが上がりやすいですからぁ」
「ちなみに、カノンのレベルは?」
カノンにレベルを尋ねると、カノンはさっと俺から視線を逸らす。
――スカートを捲し上げろ。
「きゃー!? えっ!? ちょ、ちょっと……言います! 言いますからぁ!」
カノンは赤面しながらスカートを捲り上げ、叫び声を上げる。
「で、いくつよ?」
「シオンさんなら、自分で配下のレベルは確認出来るのに――」
――スカートを捲し上げろ。
「って、言います! 9です! 9ですぅ! って、ちょっと、命令を解除して下さいよぉ」
カノンはスカートを捲り上げたまま、レベルを告げて喚き散らす。
「俺の倍以上かよ……」
あっさりとレベルを配下に抜かれた事実に、俺は軽く落ち込む。
「それは、シオンさんが私をこき使った結果……ではなく、魔王と言う種族はレベルが上がりづらいからしょうがないですよぉ」
「まぁ、それは分かるが……。カノンと俺は倒した敵の数は同じくらいだろ? 不公平を感じないか?」
「そうは言いますが、私も人類も……レベルが上がったときに貰えるBPは1ですよぉ。シオンさんは魔王だから5も増えるじゃないですかぁ」
そう考えると、俺のレベルは人類に換算すると20相当になるのか?
「言われてみれば、そうだな。レベル以外の成長要素もあるしな」
俺は気分が良くなった。
「あ!? 特殊能力ですかぁ? シオンさんは槍技のランクは幾つになったのですかぁ?」
「Eだな」
槍技と言った、武器関連の特殊能力は鍛えることで成長する事が最近分かった。
修練を重ねた結果、俺は誰かの能力を『吸収』しなくても、『槍技(E)』の特殊能力を習得していた。
「Eランクですかぁ。Cランクになったら新たな特殊能力を習得するみたいですよぉ」
「は? そうなのか?」
「はい。言ってませんでしたぁ?」
自称軍師。俺曰く『検索ツール』のカノンは知識がBと非常に高かった。今回のように、ふとした事から、俺の知らない知識をポロっと漏らすことが多々あった。
「言ってねーよ。まぁ、いいや。うぇーいwww氏のSNSによると、現在挑んでいる支配領域の解放も目処が立ったらしい」
うぇーいwww氏たち――金沢市公認の勇者様御一行は今までに3つの支配領域を解放した実績があった。
「と言うことは、つまり……」
カノンは生唾を呑み込み、緊張した面持ちで呟く。
「そろそろ、勇者様御一行が俺の支配領域に侵入して来るってことだな」
勇者様御一行は、最初に解放した支配領域を除いた3つの支配領域を解放した時――俺の支配領域の解放を宣言していたのであった。
出来れば、彼らが侵入してくる前にレベルを5に上げたかったが……無理かな?
「ったく、面倒くせーな」
俺は想像以上にハイペースで支配領域を解放する勇者様御一行に恨み言を呟きながら、今出来ること――侵入している人類の撃退に自ら出向くのであった。
◆
最近は侵入してきた人類の内、5組に1組は全滅させていた。
その不幸な人類とは――俺が直接相手した人類だ。
基本的に、俺の姿を確認した人類を生かして帰すつもりはない。ネットで容易に情報が拡散される、現代社会では少しの情報漏洩が命取りに繋がるからだ。
ネットの海に広がる情報を拾い集めれば、魔王(吸血種)の弱点もすでに露呈していた。どこぞのアホな魔王(吸血種)が、日中に屋外のフィールドで人類と戦い、討ち果てたのだ。
何で、屋外で戦闘するんだよ。大人しく、引き籠もってろよ……。挙げ句に、吸血鬼と人類に推測され、メジャーな弱点とされる銀製品による武器の検証も実行されていた。
俺の支配領域に侵入してきた人類は、5組に1組が全滅する。全滅を逃れた人類であっても、生存率はトータルで見れば70%だ。実にリスキーな挑戦とも言える。しかし、かつては日本でも戦国時代では、死に対する価値観が非常に低かったらしい。コワレテしまった今の世界も……死の価値はデフレスパイラルなのかも知れない。
っと、そろそろ侵入者のお出ましか。
俺の待ち受けていた3階層へ続く、階段の前に侵入者が姿を現した。
配下には手加減するように命じていたので、侵入した12名全てが無事であった。
「ようこそ。俺の支配領域へ」
俺は【闇の帳】を解除して、姿を現し侵入者に挨拶をする。意味はない。ただの演出だ。
「「「――!?」」」
突然姿を現した謎の人物に、戸惑う侵入者たち。
「そして――サヨウナラ」
――ダークアロー!
俺が振り上げた手を振り下ろすと同時に出現した無数の闇の弓矢が侵入者に降り注ぐと、同時に背後で弓を構えていた配下たちが弓矢の雨を降らせる。
俺の支配領域を訪れる侵入者は、基本稼ぎ目的だ。本気で解放しようとは考えていないし、ネットにあげられた情報を信じて、経験値を稼ぎに、あわよくば高ランクのアイテムを狙って侵入してくる。
そんな連中の前に、突然情報には無かった敵が現れたらどうなる? 予測していない数の敵に襲われたらどうなる?
答えは――目の前に広がる惨劇だった。
「うわぁぁあああ!?」
「な、何が起きた!?」
「誰……あいつは誰なの!?」
恐慌状態、或いは運悪くそのまま朽ち果てる侵入者たち。
俺は利き手に馴染んだ淡い青の輝きを放つ槍――ミスリルの槍を構えて、先頭に立った侵入者へと疾駆する。狙った獲物は恐慌状態に陥りながらも、本能で盾を構えるが、無慈悲にもミスリルの槍は盾ごと獲物を貫いた。
正気に戻るまでに、半数は削りたいな。
俺は次なる獲物を求めて、ミスリルの槍を構えるのであった。
10分後。
11人の侵入者が物言わぬ亡骸となって地に横たわる。
俺は、一人残された女性の侵入者へと近付く。
「助かりたいか?」
俺は尻餅をついて、震える女性の侵入者を見下ろして声を掛ける。
「助かりたいなら、この杯に入った――」
「いや……いやぁぁぁあああ!?」
っと、危ねーな。
俺は振りほどかれ、落下しそうになった【血の杯】をキャッチする。中身が零れてしまっては、CP500が無に帰する。
「助かりた――」
「いやぁぁぁああああ!?」
無理だな……。
俺は泣き叫ぶ女性を、ミスリルの槍で貫いた。
今回も失敗か。人類の眷属化は想像以上に困難を極めた。
【血の杯】を全て飲み干すって、無理じゃね?
俺は【血の杯】をキャンセルし、CPへと還元。配下たちに、侵入者の持ち物を剥ぎ取っておけと命じて、自室へと戻るのであった。
◆
三日後の深夜。
うぇーいwww氏はご丁寧にも、支配領域の休憩所から「明日支配領域を解放するぜ!」と、素敵な投稿をSNSに載せてくれた。
いよいよ明日か。1日休息をすると考えても、明後日には侵入してくるな。
結局、レベルは4のままであった。
うぇーいwww氏は敵として存在する限り便利だな。出来れば殺したくはないが、侵入してきたらしょうがないか。
俺は、どうでもいいことを考えながら、迎え撃つ準備を始める。
――クロエ。遠征は終了だ。戻ってこい。
全ての戦力を揃えるために、遠征に出していた眷属を呼び戻す。仕様上、返事はないが、恐らく伝わっているだろう。距離的に、6時間もあれば戻ってくるはずだ。
続いて、配下の種類と数を確認。CPを計算して、幾つかのアイテムを錬成する。
「シオンさん。いよいよですね」
「そうだな」
緊張した面持ちのカノンに返事を返し、勇者様御一行を迎え撃つ準備を整えるのであった。
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