外伝 佐山莉奈⑤
支配領域に初めて挑んだ日。出口君たちの命を失い、ランクDの武器――黒鉄の剣を入手してから、私を取り巻く環境は大きく変化した。
最初は、支援してくれる企業は3社だった。しかし、日を追うごとに支援してくれる企業、団体は増えてゆき、いつしか政府――金沢市役所公認の『解放者』になっていた。
人々からの期待は重かった。でも、同時に私の気持ちを昂ぶらせた。
ネットで検索すると、私の過去――剣道の大会での成績と共に、氏名や出身学校、それに数多の写真がヒットした。
レベルが5になると、金沢市全面バックアップの元、選抜メンバーへと選出された。
選抜されたメンバーは全部で7人。
レベル6の戦士。銀色に輝くランクCの武器『シルバースピア』を扱う――
レベル5の冒険者。的確な指示で、味方を指揮するリーダー――安藤 英也。
レベル5の戦士。大柄な体を駆使して仲間を守る盾――
レベル5の魔法使い。紅蓮の炎を操る――
レベル5の僧侶。傷ついた仲間を癒すエキスパート――香山 沙織。
レベル5の冒険者。将来を期待された弓道部のエース――
そして、レベル5の戦士である、私――佐山 莉那。
以上のメンバーが金沢市から選抜されたメンバーであった。
選抜メンバーの数が、支配領域に挑める最大人数である12人ではないのには、幾つか理由があった。
一つは連携。訓練を重ねれば別かも知れないが、12人の人間が連携を成すことは、容易ではなかった。検証を重ねた結果、バランス良く戦闘が出来る人数が前衛3人。後衛4人の7人だった。
一つは効率。検証が終えた研究の中に、『人数と経験値の相互関係』がある。要は、パーティー人数が少ない方が、一人当たりが得られる経験値が増えると言う説だった。
一つはバックアップ。この理由が一番重要だった。この世界には当たり前だが、無限インベントリのようなアイテムボックスは存在しない。食事にしても、予備の装備にしても、医薬品にしても……持ち込む必要性が生じる。しかし、それらの荷物を抱えて魔物と戦闘をするのは、厳しかった。そこで、アイテム持ち役兼回復役のバックアッパーの存在が重要視された。
選抜メンバー7人と、入替で参加するバックアッパー5人で、私たちは支配領域に侵入する日々を続けた。
こうして、私たちは金沢市を代表する『解放者』となり、私は『双璧の勇者』、或いは『黒剣の勇者』として、名を馳せたのであった。
◆
選抜メンバーで支配領域の解放活動を開始してから20日目。
いよいよ、金沢市で初となる支配領域の解放が目前に迫っていた。
一緒にパーティーを組む仲間たちは、戦力的には申し分なかった。魔物を倒すことに躊躇が無く、技術も格段に向上していた。しかし、人間性は、相容れない部分は多々あった……。
私と同じく『双璧の勇者』にして『白銀の勇者』――宮本 将門。肩までかかる髪は男性にしては長いと思う。本人曰く、海で傷んだと言う髪質も、自然なパーマに見えなくもない。顔立ちも今時の整った部類だろう。性格は……チャラかった。『双璧の勇者』と同一視されるのに、嫌悪感を抱くほどにチャラかった。口癖は「うぇーいwww」。これで、年齢は私よりも4つも上の22歳だ。信じられない。
次いで、牧野 雄也。初めて挑んだ支配領域から共にする仲間だ。こいつも先輩だが、先輩呼びする気を一切起こさせない。これも、ある種の才能だろうか? 宮本と波長が合うのか、この二人が揃う前衛は、ストレスが加速する環境だった。
安藤先輩。非常にクレバーな、パーティーの頭脳だ。時折、冷酷すぎる判断をする時があるが、宮本、牧野ペアと比べたら、頼れる仲間だった。
香山 沙織。彼女は私の友人だ。6年以上もの時を共に過ごした友人だ。彼女は私をトラブルに巻き込む達人だった。
ある日、スポンサーでもある企業が主催するパーティーに参加した時、今後の目的を聞かれ、沙織が「私の……私たちの友人を奪った支配領域……大学付近にある支配領域を解放するのが目的です!」と、宣言。その後、私の顔を見て「ね? 莉那!」と言い放った。
後日ネットやニュースでは、沙織の発言は知名度が高かった私の発言として置き換えられた。私は世間体を気にするあまり、訂正も出来ずに……メディアの誘導に流されてしまった。結果として、私は友人を奪った支配領域の解放を目指す悲劇のヒロインと化してしまった。
戦力的には頼りになり、人間性には信用が置けない仲間たちと共に支配領域の解放活動を開始してから20日目――私たちは魔王と称される敵が待ち構える、支配領域の最奥へと辿り着いたのであった。
支配領域の最奥に待っていたのは、不健康そうな30代後半の男性だった。
男性は、道中で倒したコボルトが身に着けていたものと同じ鉄製の鎧を纏っており、手には鉄製の剣を握っていた。
「何だよ……何だよ……何でだよ……どうして……どうして……俺なんだ? ……俺が何かしたのか?」
これが魔王?
魔王と思われし男性は、小さな声で怨嗟を呟き、落ち着きなく周囲を見回している。
「うわぁぁぁあああ!?」
魔王は急に叫び声をあげたかと思えば、無数の風の刃を出現させた。
「な!? 散開! 散開だ!」
安藤先輩の声に合わせて、私たちは左右に転倒する。
「――え?」
「――?」
反応が遅れた二人のバックアッパーの男女が、風の刃に切り裂かれる。
「何だ!? この威力は! 冴えないおっさんに見えても……魔王かよ!」
ユウヤは以前拾った鉄の盾を構えて、魔王へと突撃する。
「マサカドさん! 佐山さん! 二人も続いてくれ!」
安藤先輩の指示に従って、私とマサカドも魔王へと武器を振り上げて迫る。
「うぇーいwww おっさん、加齢臭がきついぜ! ――《一閃突き》!」
「――《スラッシュ》!」
マサカドの疾風の如く素早い刺突で態勢を崩した所を、私は特殊能力――《スラッシュ》にて斬撃を浴びせる。
「いてぇ……いてぇよぉぉぉおお!?」
魔王ががむしゃらに手にした鉄の剣を振り回す。
技術も何もない軌道だが、魔王の力は凄まじく、刃を交えた私は後方へと吹き飛ばされた。
見た目に惑わされてはいけない。
目の前の男性――魔王は、今まで敵対した中で一番の強敵であった。
◆
1時間後。
魔王が私、ユウヤ、マサカドに集中している隙を見計らって、安藤先輩が不自然に存在していた洗濯機の中から白銀に輝く球体――【真核】を発見。短剣を一突きすると、【真核】は破壊された。
「な……き、貴様……な、何を……」
【真核】が破壊されると、魔王は胸を押さえて苦しみ、やがて全身が闇の粒子となって霧散した。
「成功でしょうか……?」
安藤先輩は、震える声で霧散した魔王が存在していた空間を見つめる。
「うぇーいwww 俺達の――」
マサカドが勝利の雄叫びを上げようとした、その時。
地面が激しく揺れ動いたのを感知したと同時に、私の意識は暗転。
気付けば、目に映るのは支配領域に侵される前の変わらぬ街並み。私たちは、住宅地の真ん中に転移していのであった。
「解放出来たの……?」
私は誰に言う訳でもなく、一人呟きます。
「た、多分……?」
そんな私の独白に、沙織が答えます。
「解放したんだ……。僕たちは支配領域を解放したんだぁぁあああ!」
「うぇーいwww」
「やったぜ!」
安藤先輩が珍しく感情を爆発させると、マサカドとユウヤが続けて歓喜。遅れて、私、沙織、瑠璃子、江守先輩も喜びの感情を爆発させるのでした。
◆
金沢市で初となる支配領域を解放してから、私たちの名声は増々高まった。
企業、政府、有志と、様々な団体から支援を受けた私たちは、次々と支配領域へと侵入。妖精の魔王をあと一歩のところで逃がすなどの失敗もあったが、最初の支配領域を解放してから43日後。私たちは金沢市で4つ目となる支配領域の解放に成功したのであった。
翌日。
沙織が宣言したのに、いつしか私の宣言へと入れ替えられた目標――初めて侵入した支配領域の解放へと乗り出すのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます