吸収


 『吸収』の検証を開始する。


 『吸収』の発動方法は至極簡単であった。


 その方法とは、相手の生命――血を吸う、であった。


 『吸収』の効果は――対象の生命を吸うことで、対象の能力を吸収する。


 これって、アレか?


 俗に言う俺TUEEEE系の主人公のチートスキル――強奪?


 配下でも試せるよな?


 俺は眼前に居並ぶ配下に視線を移す。


 スライム、ラット、バット、ウルフ、ブラックウルフ、ゴブリン、ゴブリンアーチャー、ゴブリンファイター、コボルト、コボルトファイター、コボルトナイト、オーク、ダークエルフ、ジャイアントバット、グール、ライカンスロープ。


 計16種類の配下。


 16種類以上の能力ゲット?


 誰から吸収しようかな……。


 俺は期待に胸を膨らませて、ゆっくりと配下を吟味する。


 弱い方から順番でいいかな? 心理的に、得られる能力はどんどん強くなった方がいいしな。


 俺は、緑色の水溜まり――スライムの前へとゆっくりと進む。


 ――!?


 こいつって血あるの?


 いや、説明によると生命を吸えばいいはず……つまりは、この水溜まりを啜れと?


 スライムは後回しだな。俺はラットの前へと移動する。


 ………………。


 目の前には、くすんだ灰色の巨大なネズミが、つぶらな瞳で俺を見上げる。


 これを噛めと?


 その後、バット、ウルフ、ゴブリン、コボルトと……配下達に視線を移していく。


 こいつらの血を吸う――噛むのは、精神的に難易度が高くないか?


 魔王となり、人々の記憶の全て失った。その副作用により、罪悪感とよばれる感情も失った。


 しかし、それ以外の感情は人間の頃と、そこまで変わっていない。


 本能で理解している『吸収』の仕様によれば、直接対象から生命を吸う必要がある。例えば、剣で切ってその血を啜るとかはNGだ。


 魔王になったら、罪悪感を消失するのならば、吸血鬼になったら血を求めるみたいな感情は同時に植え付けられなかったのだろうか。


 シャッ!


 気合いを入れて、俺は女性のダークエルフを抱き寄せ、艶めかしい首筋に鋭く尖った犬歯を突き立てた。


 ――吸収!


 口の中に芳醇な深い甘みが染み渡り、やがて喉から胃へと流し込まれたダークエルフの生命(血液)が、体中へと広がっていく。


「マ、マスター……、こ、これ以上は……」


 そして、耳元に聞こえる妖艶な呟き声が聞こえた。


 ――!?


 俺は抱き寄せたダークエルフへと視線を移す。


俺の腕の中には、声の主――ダークエルフが黒い肌を紅潮させ、身悶えていた。


「今のは……お前の声なのか?」

「はい。私の声となります。マスター、申し訳ございません」


 言葉を投げかけると、恥ずかしそうに目を逸らすダークエルフから返事が返ってきた。


「お、俺の言葉が届いているのか……?」

「はい、届いております。マスターのお言葉は届いております」


 ダークエルフの返答を聞いて、俺は混乱に襲われる。


「何が起きた……?」

「わ、わかりません。ただ、マスターに血が吸われてから、マスターのお言葉が理解出来るようになりました」


 俺のすぐ耳元で返答したダークエルフの吐息が、俺の耳をくすぐる。


「……っと!? す、すまん!?」


 俺は今の状況――ダークエルフを抱き寄せたままの状態に気付き、慌てて手を離し、ダークエルフを解放する。


「汚れた我が身……。失礼致しました」


 俺から突き放された形となったダークエルフは、悲しげな表情を一瞬浮かべると、すぐにいつもの凜々しい佇まいで、頭を下げる。


「い、いや、汚れたとか……そういう訳じゃ無くて……」


 俺はしどろもどろに言い訳を重ね、逃避をするようにスマートフォンを操作する。


 名前:シオン

 適正:カオス

 種族:魔王(吸血種)

 LV:3

 CP:267

 肉体:C(D)

 魔力:C(D)

 知識:E

 創造:C

 錬成:B

 BP:2

 特殊能力:魔王

      支配領域創造

      配下創造

      アイテム錬成

      闇の帳

      ダークアロー

      ダークインダクション

      吸血鬼

      吸収

      言語 (エルフ)

      炎魔法(初級)

      イーグルアロー

      血の杯

      契約コントラクト


 ――!


 ステータス画面には、3種類の特殊能力が追加されていた。


 言語 (エルフ):エルフの言語を理解する。


 炎魔法(初級):炎属性の魔法を扱える。(初級)


 イーグルアロー:飛距離が長く、精度の高い弓矢を放つ。


 

 なるほど。ダークエルフと会話が成立した意味を理解する。


 と言うことは……俺は、先程血を吸ったダークエルフとは、別の男性のダークエルフに声を掛ける。


「お前にも俺の言葉が届いているのか?」


「はい。届いております」


 俺の言葉に、男性のダークエルフが答える。


 俺は、『吸収』の思わぬ副産物に歓喜した。


 ダークエルフ以外も、『吸収』すれば言語を習得出来るのだろうか?


 俺は期待に胸を膨らませ、次なる配下――ライカンスロープ(♂)を抱き寄せる。


 いざ、実食!


 俺は犬歯をライカンスロープの首筋に突き立てる。


 ……薄味? ダークエルフと比べると、物足りない薄味が口の中に広がる。


「ん……ん……そ、創造主様……そ、それ以上は……」


 艶めかしい♂の囁く声に、俺は反射的に腕に抱えたライカンスロープを弾き飛ばす。


「……ひぐっ!?」


 ライカンスロープ(♀)が創造出来るまで、創造を繰り返すべきだったか……。俺は多少の後悔の念を抱きながら、スマートフォンを操作してステータスを確認する。


 名前:シオン

 適正:カオス

 種族:魔王(吸血種)

 LV:3

 CP:273

 肉体:C(D)

 魔力:C(D)

 知識:E

 創造:C

 錬成:B

 BP:2

 特殊能力:魔王

      支配領域創造

      配下創造

      アイテム錬成

      闇の帳

      ダークアロー

      ダークインダクション

      吸血鬼

      吸収

      言語 (ライカンスロープ)

      血の杯

      契約コントラクト


 ……え?


 吸収出来る特殊能力は、言語のみ? じゃなくて!? ダークエルフから吸収した特殊能力が消えてる!?


「おい! 俺の言葉は届いているか!」


 俺は狼狽して、ダークエルフへと大声で叫ぶ。


「は、はい。届いて――」

「お前じゃない!」


 なぜか返事をしたライカンスロープを一喝し、ダークエルフの元へと走る。


「俺の言葉は届いているのか?」

「※※※※」


 悲しそうに目を伏せるダークエルフの口からは、聞き慣れた理解不能な言葉が紡がれる。


 『吸収』した特殊能力は上書きされる……?


 俺は解き明かした『吸収』の仕様に大きく肩を落とすのであった。



  ◆



 CPが全回復するまで、残り28分。


 俺は嫌悪感を拭い去り、次々と配下の生命を『吸収』した。


 結果として――


 スライム:念話 (スライム)、液体化。

 ラット :念話 (ラット)

 バット :念話 (バット)、超音波

 ジャイアントバット:念話 (バット)、超音波

 ウルフ :念話 (ウルフ)

 ブラックウルフ:念話 (ウルフ)、統率 (ウルフ)

 ゴブリン:言語 (ゴブリン)

 ゴブリンアーチャー:言語 (ゴブリン)、弓技(F)

 ゴブリンファイター:言語 (ゴブリン)、斧技(F)

 コボルト:言語 (コボルト)

 コボルトファイター:言語 (コボルト)、剣技(F)

 コボルトナイト:言語 (コボルト)、盾技(F)

 オーク:言語 (オーク)、槍技(F)


 と、配下達からそれぞれ『吸収』出来る特殊能力を把握した。


 特殊能力の説明を簡潔にすれば、念話は話せるのではなく、感覚的に相手の感情が理解出来るという特殊能力であった。○技は、某ゲームや創作のようなスキルを習得するのではなく、何となくその武器の扱い方が本能で理解出来ると言う特殊能力であった。


 気付けば、俺のCPは上限(300)に達していた。細かい検証は後回しにして、眷属の検証へと移ることにした。


 ……グール? 奴だけは生理的に受け付けなかった。

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