ターゲットは……俺??


 新たに創造した3体の配下を確認する。


 1体目はジャイアントバット。バットよりもサイズが一回り以上大きい、想像通りの配下であった。


 2体目はグール。ボロボロの布きれを纏った体格の良い腐った死体? ゾンビとグールの違いって何だ? 常に「ヴォォェェォォォ」と呻いており、意思の疎通を図るのは無理そうだ。武器を装備出来るか試すために、様々な種類の武器を渡してみたが、どれも振り回すだけ、もしくは受け取りすらしないという様であった。


 3匹目はライカンスロープ。見た目が一番驚いた配下だ。なぜなら、見た目は普通の人間だったからだ。中肉中背。身長は170cm程だろうか。よく見れば、体毛が濃く、耳も少し犬の耳の形に似ていた。これが『獣憑きの呪われた種』の所以なのだろうか。


 俺は期待を込めてライカンスロープに話しかける。


「は、は、は、初めまひて。ま、魔王のシオンです」


 思いっきり噛んだ。ここ二ヶ月、誰とも会話をしていないのだ。噛むのも仕方が無いだろ? 更には、俺の属性は孤高ぼっちだからな。


「####」


 ガッデム!


 返事をするライカンスロープの言葉は、ダークエルフの時と同じく1つも理解出来なかった。


 よくある創作の展開であれば、主人公には自動翻訳機能が備わっているのに……。


 なぜ、こういう時だけはリアル志向なのだろう。と俺は黒幕に怨嗟を抱くのであった。



 結局、話し相手が出来なかった俺は、これからやるべき事をスマートフォンのメモに纏めることにした。


 1.BPの振り分け


 2.血の杯の創造条件の確認


 3.配下の性能確認


 4.眷属の創造


 5.新たな特殊能力の確認


 取り急ぎやるべき事は、この5点だろうか。


 俺はそれらを早急にする必要があった。なぜなら、大きな変化が2つ訪れたから。


 1つは、レベルアップ。


 1つは――人類による支配領域の解放であった。



  ◇



 三日前。1つのニュースが世界を駆け巡った。アメリカのニューヨークにある支配領域が、世界で初めて解放されたのだ。その二時間後にヨーロッパでも、支配領域が解放。


 そのニュースを皮切りに、世界各地で支配領域を解放したとのニュースが飛び交った。


 二日前。ついに日本でも、横浜の地にて支配領域が解放された。


 これらのニュースは人類に多大な希望と勇気を与えた。


 その後、偶然なのか、シンクロニシティと言うべきなのか、国内の各地で支配領域の解放が相次いだ。


 そして、昨日。ついに金沢の地でも1つの支配領域が解放されたのだ。


 金沢の支配領域を解放したのは、18歳~24歳の元学生の集団。


 リーダーである眼鏡を掛けた生徒会長のような青年を筆頭に、双璧の勇者と呼ばれている――黒鉄の剣を扱う少女とシルバースピアを扱うどこかチャラい青年。他にも炎の魔法を扱う少女。癒やしの能力に優れた少女。弓の扱いに秀でた少年など、多彩な人材が揃っていた。


 別々のパーティーを組んでいた彼らであったが、とあるダンジョンで強力な武器を手に入れた事をきっかけに、急成長。金沢市が全面的にバックアップした『ガチ勢』となり、パーティーを組むに至ったのであった。


 ってか、このとあるダンジョンって……俺の支配領域だよな?


 リーダーと双璧の勇者の一人は、俺の支配領域へ自衛隊の次に侵入してきた、言わばデビュー戦の相手だよな? もう一人の勇者は、「うぇーいwww」氏だろ?


 無関係を装いたいが、双璧の勇者である少女――佐山さやま 莉那りな氏が、なぜか、俺の支配領域の解放を宣言してるんだよな。ちなみに、「うぇーいwww」氏は、好感度狙いなのか、「『稼ぎ場』は皆の為に残しましょう!」と言ってくれている。


 その結果、世論は『稼ぎ場』である俺の支配領域を保全する流れだったが……金沢市で唯一の支配領域の解放者にして、勇者とまで呼ばれる少女の発言力は大きく、金沢市は市が指定した3つの支配領域を解放したら、俺の支配領域を解放してもいいと許可を出したのだ。


 結果として、俺は早急な戦力強化が求められる事態に陥ったのだ。


 3つの支配領域を解放するのに、費やす期間はどのくらいだ?


 インターネット上には、支配領域を攻略する日々をブログで公開している、素敵な人類が多数存在した。海外のブログであってもブラウザの翻訳機能を使えば、読むことは可能だ。


 今のところスタンダードな攻略方法は、マッピングをしながら慎重に、何度も侵入と撤退を繰り返す方法だ。特に休憩所の場所を把握するのが、攻略のポイントらしい。


 ってか、休憩所の存在までバレてるのかよ。


 また、人類のたゆまぬ努力の賜物により、全ての支配領域は形こそ違えど、全てがおよそ6k㎡であることも露呈されていた。


 最速の支配領域の解放が、攻略を開始してから14日か。攻略された中で最長となるのは32日だ。


 6k㎡の支配領域を解放するのに最速で14日間。日数を掛けすぎてるようにも感じるが、侵略されている魔王も必死だ。支配領域の内部は迷路のように入り組んでいるし、自分の命を狙う死の刃がそこまで迫っていると知れば、CPが枯渇するまで配下を創造するだろう。また、侵入者である人類も怪我をすれば治療が必要になり、死んでしまえば、そこで終了だ。結果として、それくらいの日数が必要となるのだ。


 それ以外にも得られた情報として、SNS大好きな「うぇーいwww」氏のレベルは8。肉体がE 魔力がF 知識がG であると言うことも把握出来た。


 支配領域を解放するのに最速で14日か。ちなみに、金沢の『ガチ勢』は18日で支配領域を解放していた。


 単純に3つの支配領域を解放するから、18日*3で54日。って事はないな。レベルも上がっているし、何より一度解放したという経験がある。しかも、次に解放する支配領域が解放した1つ目の支配領域よりも難易度が高い補償もない。


 そうなると……支配領域を解放するのに費やす期間は10日前後か? もう少し早まるケースも十分にある? 待てよ? 1つの支配領域を解放したら、少しは休養するよな?


 俺は『ガチ勢』が攻めてくるまでの猶予を必死に考察する。


 とりあえず、『ガチ勢』が攻めてくるまでの猶予は30日と想定。それまでにレベルを5まで成長させるプランを練るか。


 俺はスマートフォンを操作して、やるべき事リストその1――BPの振り分けを始めるのであった。

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