進化①


 運命の日からおよそ1ヶ月が経過。


 大きな変化が2つ訪れた。


 1つは、レベルアップ。2階層でいい感じに侵入者を撃退し続けた結果、俺のレベルは3へと成長した。


 俺はBPを振るべくスマートフォンを操作し、『世界救済プロジェクト』のアプリを立ち上げると


 ――?


 画面には見慣れぬ文章が表示されていた。


『レベルが3になりました。進化する種族を選択して下さい』


 ……進化?


 何だそれ? よく見ると、『進化』の文字だけ青色だ。


 ひょっとして? 俺は進化を青く書かれた文字をタップする。


『進化:レベルを超えた魔王は別種族へと進化出来る。進化した種族によって眷属が異なる。多くの種族は進化する為に、条件を満たす必要がある』


 まさかの説明きた!


 俺はスマートフォンを操作し、先へと進む。


『下記の種族から成りたい種族を選択して下さい。

 魔王(人種)

 魔王(鬼種)

 魔王(魔族種)

 魔王(エルフ種)

 魔王(ドワーフ種)

 魔王(スライム種)

 魔王(獣種)

 魔王(妖精種)

 魔王(吸血種)

 魔王(龍種)

 魔王(堕天種)』


 全部、魔王なのかよ。また、鬼、魔族、エルフ、龍、堕天はグレーアウトしていて選べない。


 ちなみに、進化と違い、今回は説明が表示されない。


 取説ぷりーず……。


 幸いなことに、今回は最初の『スペシャルサービス☆』と違って、バックボタンで戻ることが出来た。


 とは言えだ、『世界救済プロジェクト』のアプリを起動すると、必ず進化の項目になってしまう。つまり、進化する種族を選ばないとBPを振ることも、創造することも、錬成する事も出来ない。


 困ったな。創造出来なかったら配下の補充が出来ない。


 悩んでいる間も、人類は俺の支配領域に侵入し、配下を倒し続けている。スライムとラットのストックを考慮しても、悩めて12時間だ。


 しかも、前回のレベルアップと同様であれば、俺のCPは全快している。前回の法則と同様であれば、俺のCPは1時間に30。つまり2分に1のペースで回復している。そう考えると、1分1秒が惜しい。


 とは言え、簡単に進化先は選べない。


 さて、知っている情報から整理をしようか。


 まずは、進化の説明で気になった文章が――進化した種族によって眷属が異なる。


 眷属――支配領域を増やすポイント。


 そして、俺――魔王と配下は支配領域の外へは出られない。


 しかし、ネットニュースには支配領域の外へ出て暴れ回るモンスターの姿が度々投稿されている。


 つまり、あのネットニュースで撮影されているモンスターが眷属?


 俺は、支配領域の外で暴れ回るモンスターのニュース、動画を片っ端から検索する。


 人々を襲うウルフの群れ。人々を襲うゴブリンの群れ。人々を襲うスライムの群れ。


 多くの画像、動画に掲載されているモンスターは同一種だ。


 また例外として、ウルフとコボルトが混在した群れの画像も数点確認出来た。


 推測になるが、眷属=同一種。つまり、魔王(獣種)であればウルフとコボルト。魔王(スライム種)であればスライムを眷属に出来る?


 ゴブリンは? ……!? 俺はゴブリンを創造した時に確認した、説明を思い出す。


 ゴブリン――邪悪な妖精。にわかに信じられないが、ゴブリンは恐らく魔王(妖精種)の眷属と推測出来る。


 俺はその後も、条件を変更しながら、様々な眷属と思われる記事や画像を検索する。


 ――!?


 気になる画像が2つヒットした。


 1つは、多様種のモンスターが群れを成して、人々を襲っている画像。


 1つは、異なる種族のモンスターを率いて、人々を襲う人間の画像。


 どういうことだ?


 多様種のモンスターを眷属にする方法は?


 んー。わからん。


 俺は手持ちの配下を確認する。


 ラット、スライム、ウルフ、バット、ゴブリン、コボルト、オーク、ダークエルフ。


 進化した配下は、ゴブリンアーチャー。ゴブリンファイター。ブラックウルフ。コボルトナイト。コボルトファイター。


 今の手持ちの配下から考えるなら、魔王(獣種)がベストになる。次いで、魔王(妖精種)だろうか。


 他に考察出来る情報は何がある?


 俺が選べる進化先――人種、ドワーフ種、スライム種、獣種、妖精種、吸血種。


 俺が選べない進化先――鬼種、魔族種、エルフ種、龍種、堕天種。


 ――『多くの種族は進化する為に、条件を満たす必要がある』


 つまり、進化先に選べる種族は俺が条件を満たした種族となる。


 スライム種と獣種と妖精種 (=ゴブリン)は、俺がそれらの種族を配下として多用したのが条件だろうか?


 ならば、ドワーフ種と吸血種は?


 吸血種はバット(=蝙蝠)を配下としているからなのか?


 それより謎なのが、ドワーフ種だ。ドワーフなど、創造したことも、見たこともない。


 どこで条件を満たした?


 ドワーフって、アレだろ。勝手なイメージだけど、髭もじゃのマッスルな背の低いおっさんで、エルフと仲が悪くて、酒が好きで、鍛冶が得意な……――!?


 鍛冶が得意?


 鍛冶、すなわち錬成。


 ドワーフへの進化条件は錬成のステータス?


 そう考えると……進化出来ない種族、鬼種は肉体、魔族は魔力、エルフは……強引だけど知識が進化条件?


 創造は? 魔王の特権だから、いない?


 この考察が正しいと仮定すれば、進化を選んだときに表示される種族の並びも法則性があるのか?


 最初の四種族――鬼種、魔族種、エルフ種、ドワーフ種はステータスが進化条件に指定された種族。


 次に表示された種族は――配下として、多用した種族と同系統の種族。


 並び順にまで、意味があるとすれば、引っかかる点が1つ生じる。


 多用した種族と同系統の種族の並び順が、スライム種、獣種、妖精種、吸血種、龍種、堕天種と言う順番に違和感を感じる。


 配下を創造するときに、スマートフォンに表示される順番は、スライム、ラット、バット、ウルフ、ゴブリン、コボルト、オーク、ダークエルフだ。


 吸血種の条件がバットの多用であるならば、表示される順番はスライム種、吸血種、獣種、妖精種になるはずだ。


 吸血種に進化出来る条件はバットじゃない? 或いは、『世界救済プロジェクト』のアプリを作成した黒幕が、並び順を間違えた、もしくは最初は律儀に並び順を気にしていたが、途中で飽きたので、並び順に意味は無い。


 後者ならお手上げだ。俺は全く無意味な考察に時間を費やしたことになる。


 でも、前者なら?


 例えば、人種は初期種族なので除外するとして、最初の四種族(鬼、魔族、エルフ、ドワーフ)はステータスが進化条件、次の3種族(スライム、獣、妖精)は配下として多用した経験が進化条件。最後の3種族(吸血、龍、堕天)は特定の進化条件がある。


 こっちの考えの方がしっくりとくるな。


 何となくスッキリしたところで、本格的に進化先に選択する種族を考えることにした。


 候補1:スライム種。一昔前にスライムが魔王のファンタジー小説が世に溢れた。最終的にスライムが最強になるという話はゲームや、創作世界にごまんと溢れている。

 とは言え、俺は目の前の濁った水溜まりにしか見えないスライムに視線を送る。

 

 本当に最強になれるのか? せめて、見た目がもう少しキュートであれば……。


 そもそも、今はとある事情から早急な戦力増強が求められている。


 よって、スライムは却下。


 候補2:獣種。現状創造出来る配下の中では最もバリエーションが豊富だ。画像では確認出来なかったが半豚半人のオークも獣種の可能性は高い。集団戦に秀でて、コスパにも優れるウルフ。俺の最大の強みでもある錬成したアイテムを装備出来るコボルト。

 とは言え、後続のダークエルフの方が強いのが少し気になる。今後も続々と創造出来るであろう新たな配下を考えると、この選択は早熟型にならないか?


 今はとある事情から早急な戦力増強が求められているが……最終的に生き残らなければいけない。


 よって、獣種も却下。


 その後も様々な自問自答を繰り返し、進化先の種族を却下した。


 そして、残った種族が――。

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