情報操作②
匿名掲示板のとあるスレッドは新たな情報に勢いが増していた。
7 名無しの冒険者 ID:fdewsah
金沢の稼ぎ場で階段が発見されたらしいな
8 名無しの冒険者 ID:sergbxb
>7
mjk。誰か攻略したのか?
9 名無しの冒険者 ID:fdewsah
それがいきなり出現したらしいぞw入口付近にwww
10 名無しの冒険者 ID:seoffur
は? 入口付近?w
ウソ乙w
11 名無しの冒険者 ID:fdewsah
マジだってw
12 名無しの冒険者 ID:csxfrev
誰か登ったのか?
13 名無しの冒険者 ID:fdewsah
登りじゃなくて、下りらしい
14 名無しの冒険者 ID:sdgresx
その情報俺も知ってる。
ちな、地下には黒鉄の剣よりも強い装備品があるらしい
15 名無しの冒険者 ID:skdeiwsj
>14
ソースは?
16 名無しの冒険者 ID:sdgresx
知り合いの冒険者
17 名無しの冒険者 ID:lewaogj
知り合いの冒険者www
証拠画像希望
スレッドは、いい感じに荒れていた。ちなみに、14と16は俺の書き込みだ。
まだ、残念ながら地下の宝箱に辿り着いた人類はいないが、実際に黒鉄シリーズよりも上位の装備品――シルバースピアを1本仕込んである。
この装備品はいかにもリア充でSNSが好きそうな人類に贈呈する予定だ。
そして、今回の拡張のポイントは――階段の位置であった。
階段は最奥に設置するのがダンジョンのセオリーだが、俺は敢えて入口のすぐ側に設置した。
理由は、高レベルの人類が1層目の配下の命を無駄に刈り取らずに、誘引するためだ。
恐らくだが、レベルが高い人類の方が経験値が高い。
後ろに控えているダークエルフ達の経験値を稼がせるためにも、棲み分けを明確化し、低レベル者には今まで通りの安全な稼ぎ場、高レベル者にはすぐに向かえる稼ぎ場を提供するのが狙いであった。
その後も巧みな情報操作(自作自演による書き込み)が功を奏して、少数ではあるが、レベル3を超えた人類も、俺の支配領域への侵略を始めたのであった。
2層目は、序盤から配置してある配下がウルフとゴブリンだ。
人類もレベル3になれば、戦いに慣れている。中途半端な戦力では、あっさりと経験値を贈呈するだけとなってしまう。
集団戦の得意なウルフとゴブリンに序盤は体力を削らせ、最後は精鋭部隊でトドメを刺すのが今回のコンセプトだ。
俺は何度もトライ&エラーを繰り返し、適切な生存率を保てるように、配置する配下の数と種類と装備の調整を試みた。
難しいな……。
調整は想像以上に困難を極めた。その要因は、人類の強さだ。
人類のレベルが1→2、或いは2→3へと成長すると、ステータス上どれほど強くなるかは不明だが、プレイヤースキルと言うべきか、或いは精神的成長と言うべきか、人類はステータス以上に強くなっていた。
具体的には、配下(モンスター)を倒すのに躊躇が無くなった。攻撃が様になった――戦闘慣れしていたのだ。
結局は、フル装備のコボルトや、新規戦力のダークエルフ、そして虎の子とも言うべき反則ゴブリンを毎回投入する羽目になってしまった。
結局は死闘を繰り返し、人類の生存率が50%未満と危険水準に達してしまった。
やばいな……。このままだと『稼ぎ場』扱いされなくなるぞ。
ネットで掻き集めた情報によると、政府或いは大企業が後ろ盾となった――通称『ガチ勢』或いは『勇者』、『英雄』と呼ばれる厄介な人類集団が存在していた。
彼らは『人類存続』と言う崇高な使命の元、各地の不可侵地帯の解放――ダンジョンの攻略に全力を捧げるエリート集団だ。『稼ぎ場』認定されているダンジョンであれば、世論も手伝って、ターゲットとされる事はないのだが……。
『ガチ勢』が来たら困るな……。
と、不安に苛まれていたが、ひょんな出来事から、その不安は払拭された。
その出来事とは、待望のリア充っぽい若者の侵入者にシルバースピアを贈呈したのだ。
「うぇーいwww」と調子に乗る若者12名の侵入を知った俺は、配下に手を抜くように指示。選ばれし若者達は見事に宝箱へと辿り着きシルバースピアを手に入れたのだ。
若者たちは、シルバースピアを入手すると即座に撤退。
そして、俺の支配領域の入口にて、白銀に輝く槍を天に掲げ、自慢気にSNSを投稿してくれたのだ。
宝箱からランクCの装備品が出現したのは初めてらしく、若者は狂喜乱舞。世間は若者が投稿した写真を連日ニュースに取り上げた。
若者が入手したシルバースピアの威力は凄まじく、レベルが2であった若者は、あっとういう間にレベル4へと成長。改めて装備の重要性を世に示したのであった。
ってか、あの「うぇーいwww」氏、レベル2だったのかよ。
――!?
レベルが2?
俺はとある作戦を思いついた。
現状、人類の最高レベル保持者のレベルは11。但し、その者は海外の人類だ。日本であるならば、政府がバックアップしている『ガチ勢』のエースで8。地元の勇者レベルであれば6が最高だった。
現在、俺の支配領域には「うえーいwww」氏の恩恵もあり、満員御礼状態であったが、シルバースピアを狙った、高レベルの人類も時々侵入していた。
高レベルの人類はとにかく厄介であった。具体的に言えば、CPが大赤字だった。
ゴブリンもウルフも紙くずの様に斬り捨てられ、何とか対抗できるのがフル装備のコボルト。シルバーシリーズをフル装備しているコボルトを同人数用意すれば、有利に戦いを進められるが、倒されたら失われたCPが果てしなく大きくなる。
可能であるならば、俺の支配領域に侵入してくる人類はレベル3以下が望ましい。
そこで、俺はせっせと情報操作の準備を始める。
具体的には、侵入してきた人類のレベルに合わせて、設置した宝箱の中身を変更したのだ。侵入してきたレベル2の人類にシルバースピアを贈呈。レベル3であっても、黒鉄シリーズの装備を贈呈。レベル4の人類には鉄シリーズの装備を、そしてレベル5を超えた人類には木刀を贈呈した。
当然、全ての侵入者に贈呈するのではなく、あくまで装備品は大当たりとして乱数は調整した。
加えて、匿名掲示板を駆使しての情報操作。
『金沢の『稼ぎ場』の宝箱は、レベルが低いと良品になって、レベルが高いとゴミになるらしいぞ』
最初は信憑性が薄く、ネタ扱いされたが、木刀を入手したレベル5の人類が怒りのコメントをSNSに投稿。逆にシルバースピアを入手したラッキーボーイが喜びのコメントをSNSに投稿したことにより、俺の捏造は真実味を帯びた。
結果として、『稼ぎ場を保護する会』の大きな働きも加わり、俺の支配領域に侵入する人類はレベル3以下が主体となったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます