検証


 心を鬼にする――心から魔王になろうと決意した俺は、様々な検証を実施した。


 まずは、消費CP1のスライム10体 VS 消費CP10のコボルト1体の勝負だ。


 数か? 質か?


 結果としては、コボルトが全身の毛に火傷を負いながらも辛勝した。


 その後も検証は続く、消費CP5のゴブリン2体とコボルト1体なら?


 連携の取れるコボルトを3体に増やすと、戦力はどれくらい高まる?


 そして、道具を扱えると説明にある、ゴブリンとコボルトはどの武器を扱える?


 まずは戦力の把握だ。己の戦力もわからずに作戦は立てられない。


 様々な検証をした結果、連携を取れる魔物は単純に足し算以上に強くなるということがわかった。


 連携が取れないスライムが10体とコボルト1体が争っても、コボルトが勝利するが、連携の取れるウルフ3体(合計CP9)とコボルトが争うと、ウルフが勝利を収めた。


 ならば、オールウルフの軍勢が有利と思いきや、互いに連携の取れるウルフ10体とコボルト3体ではコボルト3体に軍配が上がった。


 また、ゴブリンは斧と弓矢の扱いに長け、コボルトは剣と槍と盾が扱いに長けた。


 特に剣と盾を装備したコボルトは、目を見張る戦闘力を有していた。


 そして、CP効率度外視で考えれば、最強の配下はゴブリンであることもわかった。


 あの『反則ゴブリン』を使えば、早々に負けることは無いだろう。


 また、初期段階であれば装備を固めたコボルトに防衛を任せれば、早々に負けることもないだろう。


 単純に今の戦力で防衛を考えるのであれば、スライムを10体創造するよりも、コボルト1体を創造したほうが効率はよかった。


 コボルトで固めれば、最初の何も知らない状態で侵略してきた【ロウ】――人類は撃退出来る。しかし――その後が続くだろうか?


 人類には、攻め入る支配領域の選択肢が推定60ある。


 中には、創造にBPを割り振っていない魔王の支配領域もあるだろう。そうなると、その支配領域に出現する魔物は、強くてもゴブリンだ。


 魔王だけでなく、人類にもレベルという概念があるならば、フル装備のコボルトが徘徊する支配領域は後回しにして、倒せる敵が徘徊する支配領域を選択するだろう。


 そして、レベルが上がってから格上の支配領域を侵略する。


 こちらから攻められない以上、その状態に陥れば詰みだ。


 ある程度倒せる配下を配置し、深奥まで至らなくてもメリット――宝物があると思わせる必要が生じる。


 小さい頃に、何で魔王はいきなり勇者を倒さないんだ? LV1の勇者を襲えば楽勝じゃないか! と、思っていた時期もあった。しかし、ゲームの中の魔王も今の俺と同じ心境だったのだろうか?


 支配領域の防衛というよりも、支配領域――ダンジョン経営をしている気分になる。


 配下の配置は非常に重要な要素であった。


 それ以外にも、考えることは山積みだ。


 二日間に及ぶ実験の結果、現在3体のコボルト、5体のゴブリン、3体のウルフ、それに鉄シリーズの武器が一式に防具が一式、シルバーシリーズの剣と槍と盾が残っており、擬似的平和が終わるまでに使用出来るCPは6910だ。


 最強戦力である、オールシルバーシリーズ――剣+盾+兜+胸当てのコボルトを1体創造するには、410CPも消費してしまう。


 17体創ったら、それで終了だ。


 どの武器を幾つ錬成し、どの配下を何体創造するのか?


 検証は終わった。今後は1CPも無駄には出来ない。


 俺はスマートフォンのメモアプリを駆使して、作戦を考えるのであった。



  ◆



 魔王になってから15日が経過した。


 丁度折り返し地点だ。


 魔王生活15日目。感想を一言で表すならば――ヒマ! であった。


 時間は無駄に出来ない!(キリッ)と考えていた時期もあったが、CPの待ち時間がとにかくヒマだった。


 例えるなら、経営シミュレーションゲームをしている自宅引きこもり。しかも、その経営シミュレーションゲームはスタミナ制で課金も出来ないので、スタミナ回復まで待ち続けるしかない、と言えば伝わるだろうか?


 一応、空き時間は弓の練習をしたり、剣の素振りをしたり、槍を突いてみたり、効果があるのか不明だけど、筋トレもしてみた。


 しかし、相手がいなければ、模範となる人もいない。弓に関しては、何となく命中率上達したかな? 程度に体感出来るが、その他は上達しているのかも不明であった。


 また、新たに得た重要な知識もある。


 一つは魔王は不眠不休で活動出来ること。そして、飲食を採らなくても衰弱しないことだ。


 これは、とあるソースから入手した情報であり、実体験から確証に至った知識だ。


 そして、大きな誤算も生じた。


 その大きな誤算とは、俺に様々な情報を与えてくれた、とあるソース――インターネット上の匿名掲示板が大きく関わっていた。


 その誤算とは――。


 1 名無しの冒険者 ID:wertyui

俺、魔王になったけど何か質問ある?


 2 名無しの冒険者 ID:ihsfhoa

>1にお薬出しておきますね。


 3 名無しの冒険者 ID:iwrihfn

>1にお薬出しておきますね。


 4 名無しの冒険者 ID:ldkrisn

>2-3 ケコーンおめでとうwww


5 名無しの冒険者 ID:iwrihfn

>4 ありがとうwww


6 名無しの冒険者 ID:wertyui

 いや、マジで魔王www 6k㎡の大地主だしwww


7 名無しの冒険者 ID:gaheuand

 >6 魔王が6k㎡ってしょぼくね?w


 8 名無しの冒険者 ID:wertyui

 今から拡大するしwww


 ~中略~


 296 名無しの冒険者 ID:wertyui

 >272 は? マジふざけんな? 俺の支配領域に来いよ! ○してやるよ


 300 名無しの冒険者 ID:wkeidhrb

 >296 通報しました。


 という感じで、どこぞのアホ魔王が俺達のアドバンテージであるはずの、事前情報を漏らしたのだ。


 最初はネタ扱いされていたが、自称魔王の数は徐々に増え、話に統合性もあることから、一部の間で不可侵地帯は魔王が支配しているとの噂に真実味が帯びてきたのだ。


 ってか、支配領域が6k㎡とか……本物だよな? 他にも、スライムとかウルフとかの単語も出てるし……魔王ってアホが多いのか?


 お陰で、図らずも他の魔王の情報が幾つか入り、【真核】は要冷凍じゃないことがわかったり、【創造】を【C】以上にすると、人語が話せるダークエルフを配下に出来ることがわかった。


 ちなみに【真核】は『魔王が集まるスレッド』というふざけたスレッドから、自宅にある一番セキュリティの高い場所に収められることがわかった。


 ちなみに、そのスレッドの内容は――。


 203 名無しの冒険者 ID:wertyui

 そういえば真核鍵付きの机の引き出しに入っててワロタwww


 205 名無しの冒険者 ID:feuairf

 >203 そういう重要な情報を書くなバカ


 207 名無しの冒険者 ID:skeidun

 こっちは金庫だったわwww


 213 名無しの冒険者 ID:ndheuai

 こっちは冷凍庫だぞwww


 215 名無しの冒険者 ID:mkakjua

 >213 俺もw あれって要冷凍じゃないのかwww


 という感じで、恐らく非常に重要な【真核】の場所も漏洩された。


 こうして、ファンタジーと現代が入り乱れる、不可思議な魔王生活を送るのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る