僕等の約束

亜月 氷空

僕等の約束

 そいつが突然学校に来なくなったのは、文化祭も終わり、生徒たちが二学期の中間テストに向けて慌ただしく準備を始めた頃だった。

 そいつはもともとたまに学校を休んだり早退したりする奴だったから、クラスメートも大してそいつのことを心配しなかった。いつも半日か一日ほどどこかへ行ってしまい、翌日にはまた学校に来ているのだ。

 成績は悪くはない方、友達はだいぶ少ないが人と話さないわけではない。授業態度もたまに居眠りするくらい、人に危害を与えた、ケンカがあったなどのうわさも聞いたことがない。「たまに授業にでてこない」というだけで、そいつはごく普通の生徒だったと思う。

 だからみんな、こう思った。

―――明日になれば、また登校してくるだろう。

 しかしその時だけは、いつもとは状況が違った。



一日、二日、一週間経っても、そいつは学校には来なかった。

そしてそれが、クラスが全員で揃った、最後の日になった。


                  ※


 今日であいつが来なくなってからちょうど一か月になる。

……そろそろ授業出席しないと単位やばいんじゃないか?

 なんてのんきなことを考えながら、僕はふと窓際の一番後ろ、彼の席を眺めた。

正直、僕とあいつはそこまで仲がいいわけではない。同じ班になったこともあるし、何回か会話はしている。しかし、胸を張って「友達だ!」と言えるほどの付き合いではなかった。

 こんな僕が心配するのは、少しおかしいだろうか。

 いや、そんなことはない、と僕は自分を否定する。なにも知らされないまま、一か月も休んでいるのだ。先生も特に何も言ってこないし、ただ「今日も休みだそうだ」と朝のショートホームルームで連絡されるだけ。理由も、いつ戻ってくるのかも、僕たちは何も知らなかった。

 なぜ何も教えてくれないのだろう。何か事情があるんだろうか。クラスメートに言えなくて、一か月も休むような理由が。彼だって、大事なクラスの仲間だ。仲間を心配して、何が悪い―――

 そのまま色々と考えていると、ガララッと音がして教室の前の扉が開かれる。そして、朝のホームルームが始まった。

「えー今日も、木崎が休み、だな」

 まただ。また今日も、あいつは来ないらしい。そろそろ、理由くらい教えてくれたっていいんじゃないか。

 先生、と手を挙げて、半分身を乗り出すようにして聞く。

「木崎はどうして学校に来ないんですか。あいつは今、何をしているんですか」

 一部では不登校なんじゃないかと囁かれていたが、いじめなんかがあったのなら僕が気づいていたはずだ。これでも人の感情の機微には聡いし、情報にも通じている。しかしあいつには、学校に来なくなる理由が思いつかなかった。

 先生は一瞬迷ったような表情を見せた後、おもむろに口を開くと言った。

「……ちょっと一身上の都合、ってやつだ。いつ戻ってくるかはわからない。詳しくは言えないことになってるんだ」

 教室が静まり返る。こんなの、何かを隠していることはバレバレだ。途端に周囲がざわめきだした。

 ―――なあ、あいつって、いじめられてはなかったよな。

 ―――理由を知られたくないって、どういうこと?

 ―――どうせ、またすぐ帰ってくるんじゃないの?

いつ戻ってくるかわからない、ということは、少なくともどこかにはいるはずだ。ここ一か月のニュースでは、このあたりの学生が事件や事故に巻き込まれた、という報道はなかった。軽いけがなら一か月も休まないし、日本にいない、とかだったら秘密にする理由がわからない。いじめはないし、虐待もまずないだろう。もう高校生だし、そんな様子も見られなかった。だとすると―――

 頭の中を様々な選択肢が駆け巡り、そして一つの大きな可能性にたどり着いた。

―――病気だ。それも、生死にかかわる重いもの。

 そして、このあたりで最も大きな病院は……

「東央大学病院……」

呟くように言うと、先生が驚いたようにこちらを見たのが分かった。

「そこなんですね?」

返事を待たず、僕は教室を飛び出して外へ向かっていた。先生の制止の声が聞こえた気がしたが、そんなものは気にしない。校舎を駆け抜け、外に出て東央大学病院へと向かう。

なぜとっさに飛び出してしまったのかは自分でもよくわからない。

 思えばいつもどこかへ消えてしまうのも、体が弱かったせいなのかもしれない。

そういえば、いつも長袖で分かりにくかったが、折れそうなくらい細いやつだった。

クラスメートに言いたくないのも、少し分かる気がする。

しばらく走って病院にたどり着くと、転がるように受付に飛び込んだ。息を整えながら、そこにいた看護師らしき人に話しかける。

「ここの病院のっ、きざき、木崎誠っていう高校生のお見舞いにきたんですけどっ!」

「木崎様ですか。少々お待ちください。こちらの面会用紙に記入をお願いします」

 いきなり飛び込んできた僕に少し驚きながらも、看護師さんは丁寧に応対してくれた。

 差し出された用紙に、ペンを動かすのももどかしく必要事項を記入する。

「あちらの107号室になります」

「ありがとうございますっ!」

 手早くお礼を言うと、教えてもらった107号室に飛び込む。

 勢いよく扉を開けるとそこには、大きく目を見開いてこっちを見ているあいつが、ベッドの上に座っていた。


                  ※


 一人でいることが多くなったのは、いつ頃からだっただろう。

 気付くと俺には、友達と呼べる奴が極端に少なくなっていた。

 たまに話しかけてくる奴はいる。隣の席の人などであれば少しくらいは話す。しかし、はっきりと「友達だ!」と言えるような奴はほとんどいなかった。

 もともとのコミュ障と病気であまり外に出られない体、目立ちたくないというこの性格のせいではあるのだが、昔から一人だったために一人でいることにすっかり慣れてしまい、あまり改善しようとは思わなかった。

 そんな俺であるから、当然休み時間に一緒に遊ぶ相手などいない。特にやることもなく、かといって勉強するのも気が乗らないので、俺はいつからか人間観察をするようになった。

 あいつは今日は機嫌がいいな。何かいいことがあったんだろうか。

 こいつはなんだか落ち込んでいる。テストの点数でも悪かったんだろうか。

 ただ見ているだけではあるのだが、クラスメートたちの色々な表情が見れたようでそれなりに楽しかった。もちろん、相手には気づかれないように注意して。

 そんな遊びを続けていたある日、俺は一人のクラスメートのことが気になった。

 茅野朝陽。活発な感じで、誰とでもすぐに仲良くなれるクラスのムードメーカー的存在。頭がよく、なんでもそつなくこなす。常に明るく話しやすい雰囲気があり、友達はかなり多い。そんな、俺とはほぼ正反対な奴。

 最初は、キラキラして眩しい存在、というだけだった。しかし何日か見ていると、俺はこいつのある違和感に気が付いた。

 こいつ、一回も本音で喋っていない。

 正確には、自分の感情を表に出したことがない、と言った方がいいだろうか。嘘をついているわけではないのだが、常に明るく振る舞って、みんなが盛り上がる話題で周囲を沸かせ、本当の自分を押し殺しているような印象を受けたのだ。自分と人との間に、見えない、でも絶対に越えさせない一線を引いているように見えた。

 もしかして、こいつも一人なんだろうか。

 そう思うとなんだか急に親近感がわいてきたが、元来コミュ障の俺にあんなにキラキラした人種に話しかける勇気なんてあるはずもない。そうでなくても、「あなたも一人なんですか、観察してたら気付きました」なんて言えるわけがなく。

 結局気になっていても話しかけられないまま俺の病気が悪化してしまい、入院することになったのだった。

 そんな奴が、入院して一か月後に、息を切らせて俺の病室に飛び込んできた。

 全く予期していなかった出来事に目を白黒させていると、そいつはいきなりその場にへたり込んでしまった。

「お、おい! 大丈夫か!?」

「あー、なんかよくわかんないけど、顔見たら安心して力抜けちゃった」

「? それはどういう……?」

「ごめんごめん、こっちの話。ねえそれより、せっかく来ちゃったからさ、しばらくここにいてもいい? この後暇になっちゃった」

 朝陽はそう言うと、病室の中に入ってきてベッドの隣に椅子に座り、雑談を始めた。

 お前何でここに、とか、学校は、とかいろいろ聞きたいこともあったのだが、完全にこいつのペースに巻き込まれてしまった。こんな時、コミュ障というやつは実に厄介なものだ。

 朝陽が俺にしてくれたのは、本当に他愛もない話だった。学校で誰が馬鹿やって怒られた話、数学の課題が多くてやってられないって話に最近はまった曲の話など、近況報告に近い内容だ。気を使ってか分からないが、病気のことについてあまり聞かれなかったのは少しありがたかった。

 結局朝陽は面会時間ギリギリまで俺の病室でひたすら喋っていた。

 これだけ話し続けられるネタの多さに感心しつつも、もう時間だからと帰宅を促す。

「今日は来てくれてありがとな。でも、明日からはちゃんと学校行けよ?」

「あはは、大丈夫だよ。僕これでも先生には気に入られてるほうだから」

「そういう問題なのか……?」

 長く喋っていたおかげで俺もすっかり打ち解けて、かなり普通に話せるようになっていた。

「あ、あのさ、俺がここにいるってことなんだけど……」

「ああ、黙っておいた方がいいんでしょ? ごめんね、秘密っぽかったのに割り出して押しかけちゃって」

「いやいや、全然! お前とは前から話してみたいと思ってたし」

「そっか。なら良かった! あ、そうだ、今更だけど、僕のことは朝陽って呼んでよ」

「ん、分かった。俺のことは誠でいいよ。よろしく……ってのもなんか違うな」

「まあクラス一緒だしね。あのさ、誠。僕これからもここに来ていいかな」

「ああ、もちろんいつでも来いよ。俺も暇だしな」

「毎日来ても許してね?」

「毎日!? って、恋人かよ。まあいいけど」

 帰り支度を終えた朝陽がドアの方へと向かう。取手に手をかけると、そこで思い出したように振り向いた。

「君のこと、君が話したくなるまでは聞かないから。誰かに話したくなったら聞かせてよ」

 そう言い残すと、ガラガラとドアを開けて朝陽は帰っていった。

 やっぱり、こいつはつくづく良い奴なのだ。

 陰鬱なこの部屋に光が差したようだと、俺は小さく微笑んだ。


                  ※


 それからというもの、朝陽はほぼ連日、俺の病室に来るようになった。

 俺なんかの見舞いの何がそんなに楽しいのかわからないが、夕方になると部活終わりであろう格好でやってきてはしばらく喋って帰っていく。今日学校であったこと、嫌いな先生のこと、好きな子のこと。課題を持ってきて病室でやることもあった。こいつは基本的に頭がいいので、俺が言いたいことをすぐに理解してくれてとても話しやすい。俺は毎日、朝陽が来るのを楽しみにするようになった。

 

 そうして二か月ほどが過ぎたある日、いつもの定期健診の結果が出る日。俺の病室に、主治医の先生が神妙な顔をしてやってきた。

「思ったよりも症状が進行しています。正直、今の状況で君が元気に過ごしているのは奇跡に等しい」

 雰囲気から、結果が良くないのだろうという覚悟はしていた。……それでも、面と向かってはっきりと言われると、ショックはかなり大きかった。

「とにかく、最善は尽くします。早速ですが、明日から治療方法を変えましょう―――」

 先生の説明を聞きながら、このことを朝陽に話すべきか、話したら何て言うだろうか、そんなことをぼんやりと考えていた。


                  ※


 久しぶりに見た誠の顔は、驚くほどやつれていた。

 あまりまじまじと顔を見たことはなかったのだが、そんな僕でもそう断言できるほどには変わってしまっていたと思う。

 そんな様子だったから、僕はその日つい面会時間ギリギリまで居座ってしまったし、毎日来てもいい、なんてことを聞いてしまった。少しでも誠の気分転換になればと思って。

 そして宣言通りほぼ毎日行くことにしたのだが、誠は嫌な顔一つせず僕の話を聞いてくれた。それどころか、僕が行くようになってから食事の量や笑顔が増えたと、看護師さんにお礼まで言われてしまったのだ。

 誠との会話は毎回とても楽しかった。こいつ実はすごく頭がいいのかもしれないと思うほどに話の理解が早く、かなり話しやすかったし、どうやら僕が他人との間に線を引いていることにも気付いていたらしく、程よい距離感を保ってくれていた。しかしいつからか誠との間の線は消え、僕にとって初めての、親友と呼びたい存在になっていた。

 ―――だから僕は、油断していた。誠はすぐに元気になるだろうと思い込んでいたのだ。それが、何の病気かもよく知らないで。


 その日は、突然にやってきた。


                  ※


 僕が誠の見舞いに行くようになってから約三か月が過ぎた、二月初旬。僕は三日間のスキー合宿を終え、翌日の休みを利用して、誠に土産話をたくさんしてやろうと意気揚々と病院に向かっていた。歩きながら、つい数日前に交わされたやりとりを思い出す。


「そういえばお前、今度学校でスキー合宿あるんだろ?」

「あー、あるね。あれ基本全員参加らしいから、三日くらいここ来れなくなるかも。そうじゃなかったら行かないでこっち来るんだけど」

「はは、いいよ別に。楽しんでこいよ。そのかわり、帰ってきたら土産話、聞かせろよ」

「もっちろん! そっちこそ、楽しみにしててよ」―――


 そうしてわくわくとしながら誠の病室にたどり着いた。

「たっだいまー誠……ってあれ……?」

いつものように返ってくるはずの声が聞こえない。「ただいまって、ここはお前の家かよ」とかいうツッコミが聞こえてくると思ったのに。

「あら、朝陽くん?」

 しばらく固まっていると、そばを通りがかった看護師さんが声をかけてきた。この三か月ですっかり顔なじみになった、誠の担当の人だった。

「あの、誠は今どこに……?」

 すると看護師さんは一瞬驚いたような顔をすると、さっと顔を曇らせた。

「君、もしかして、何も聞いてないの?」

「誠に、何かあったんですか……?」

「……あの子はもう、ここにはいないの。――――昨日、亡くなったわ」

 悲しそうな、苦しそうな表情で発せられた言葉に、今度こそ思考回路が停止した。

「二日前に容体が急変してね、そのまま……」

 何も答えることができなかった。

 そうだ、これは夢だ。こんなこと、信じられるわけがない。

「これ、君が来たら渡してくれって、誠くんから預かっていたものよ。……誠くん、最後まで君のことばっかり言ってたの……もう喋るなって言っても……っ」

 差し出されたのは、一通の手紙だった。

 看護師さんは涙が溢れるのを我慢するように少し上を向いていたが、しばらくすると僕のほうを向いて言った。

「じゃあ私は、まだ仕事があるから行くわね―――手紙、読んであげてね」

 そしてその場に一人取り残された僕は、なんとか気力を振り絞って病院のロビーまで行くと、ソファーに座って渡された手紙を開けた。


  朝陽へ

  突然手紙なんて書いてごめんな。本当は直接言いたいんだけど、うまく言える自信がないから……。

  まずは俺の病気について、言ってなかったよな。俺の病気は慢性骨髄性白血病って言って、まあいわゆる白血病だな。発見されたのが五年くらい前、小学六年生の時。俺みたいな年代にはかなり珍しいやつで、さすがにその時のショックは大きかった。でもこの病気、初期のころは学校に通いながらでも治療ができるんだ。だからずっと学校には通ってたし、普通に生活してた。たまに休んだり早退したりはしてたけどな。

  でも、三か月前くらいかな、移行期ってやつに入っちゃって、入院しなくちゃいけなくなった。何年後かに必ず悪化するものらしくて、本当はその前に治すのが大事なんだけど、どうもうまくいかなかったみたいで。お前も知ってるだろうけど、俺は学校に親しい友人なんていないし、あまり目立つのは好きじゃないから、学校の先生にはしばらく黙っていてほしいってお願いしてた。うちは母子家庭で母親は働いてるし、親戚も近くにはいないから見舞いなんてほとんど誰も来ないと思ってたのに、入院して一か月でいきなりお前が来るもんだから、本当にびっくりしたよ。

  それからは、それまでとは比べられないほど毎日が楽しかった。最初は一人で、誰にも知られないうちに死のうと思ってたし、自殺だって考えた。なのに、お前が俺を生かしたんだ。自分から関わらせないようにしておいて何だけど、来てくれて本当にうれしかったよ。感謝してる。

  でも俺は、きっともうすぐ死ぬ。お前と話すようになって元気になったのは確かだと思うけど、病気が確実に進行してるのも事実だ。移行期の次は急性転化期って言って、これになるともう助かる見込みがだいぶ少なくなる。……今日、定期検診の結果が出て、もうそこまで進行してるって言われたよ。この病気の死亡率なんてそんなに高くないっていうのに、何が悪くてここまで進行しちゃったんだろうな。

そして、この手紙をお前が読んでるってことは、俺はもう死んでいるんだろう。生きてたら渡さないつもりだからな。あとどれくらい生きられるか分からないけど、残りの時間は悔いのないように過ごしたいと思う。

短い人生だったけど、最後にお前と出会えてよかった。


 気づくと僕は、病院を飛び出して走っていた。次々浮かぶ感情は行き所をなくし、ぐるぐると頭の中で渦巻いている。


  最後に一つだけ、わがままを言ってもいいかな。

  俺はどうやら、思ったよりもお前のことが好きらしい。別に変な意味じゃないけど。

  俺が死んで何年か経った後、お前に忘れられているような存在になるのがどうしても嫌なんだ。一生忘れずに覚えていろとは言わない。でも、何年後かに、こんなこともあったなって思い出してほしいんだ。そうすれば俺は、お前の中で生き続けられるから。

  短い間だったけど、本当にありがとう。


 行く当てもなくただひたすらに走っていると、少し開けた場所に出た。それは、この地域を流れる川の河川敷だった。


  八十年後くらいに、天国でまた会おうぜ。

                        二〇一六年一月七日 木崎 誠


「誠の……っ、ばかやろーーーっ!!!!」

 川に向かって、人目もはばからず大声で叫ぶ。あいつに言ってやりたいことは山ほどあったはずなのに、頭の中がぐちゃぐちゃで、こんな言葉しか出てこない。

「何、勝手に僕の前からいなくなってんの……っ」

 涙があふれそうになって、思わずその場でしゃがみ込む。

「約束だ、バカ……今度は勝手にどっか行くなよ……っ」


「おにーちゃん、どうしたの?ないてるの?」

 声のしたほうに顔を上げると、五歳くらいの男の子が隣からこちらをのぞき込んでいた。

「へ? あー……ううん、大丈夫だよ」

「かなしいの?」

「……うん、悲しい」

「かなしいときはね、たのしいことをおもいだすんだよ! あやかおねえちゃんがいってた!」

「……そっか。そうだね。ありがとう」

 男の子につられて、自然と笑顔になる。

「おにーちゃん、わらったー!」

「誠ー、行くわよー」

「あ、おかあさんきたからいくね! おにーちゃん、ばいばい!」

 走っていく男の子を手を振って見送る。少し遠くで待っていたお母さんのもとに駆け寄ると、手をつないで歩きだした。

「……名前、一緒じゃん」

 呟いて、ふと空を見上げる。

 雲一つない青空が、そこには広がっていた。


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