水縹❀理緒

ーーー


海に思いを馳せた

そんな女の話を、聞いてくれるだろうか


なに、怖い類いじゃない

ただの、人生の話だよ



私が、小学5年生の頃だった

親同士仲が悪くてね

いつも、家に帰らずに川に寄っていた


田舎に住んでるから、

ゲームセンターなんて物とか、

お金も友達も居なかったから

1人で何かするしかなかった


山の奥に、小さい川があって

私はそこで、いつもテストの答案用紙を破って

流してた

いけない事だよ

でも、その時はどうでもよかった


誰かが、気づいてくれるかなって

淡い期待をのせてたから


ん?あぁ、怒られなかったよ

気づいてくれた人は居たけどね


……そうだね

どうして怒ってこなかったんだろう



あれは…8月の、蝉の音が1番五月蝿い日だった


いつも通り、川に寄って、プリントを破いていた

その時にね、目が合ったんだ


虚ろな目をした、女の人

彼女は、私の方へ歩み寄って

頬を撫でてくれた

『アナタも、1人なの?』って


お互いにね、話をしたんだ

家の事、学校の事、自分の事…

そうしたら、不思議な事に

全部、彼女とお揃いだった


だから、話もしやすかったんだ

嘘のような、本当の話だよ


彼女とはね、未来の話が多かった

私は、その時何も夢なんて持ってなかったから

『宇宙飛行士になって、月へ行ってやる!』

とか巫山戯た事を言ったんだけど

彼女は真面目にこう言うんだ


『私は海になりたい』って


なんで?って思うだろ?

だから聞いたよ

そうしたら


『色々な魚が居て、沢山の土地に繋がっていて

世界の始まりの場所だから』


そう言った


最初は「ふぅん」ってなった

だけどその時の彼女の眼は、光を宿していて

川の流れる先を見つめてた


今にも、飛び込んでしまいそうな勢いでね



あれから、彼女とは会ってない

田舎だったんだけどね、災害がおこってさ


そう。全部持っていかれてしまったんだ


……今いるココは

私と彼女が初めて出会った川の…あった場所だ

さら地になってるけどね


……そうだね

彼女が今どうしてるかは分からない

多分きっと、ここに来ないってことは

そういう事だと思う


私?

あはは、今は教師やってるけどね

本当は旅にでも出たかったんだよ


窮屈な場所は、お互い好きじゃなくてね


……夢なんてあの頃なかったけど

今はあるから

なんとか生きてるだけ


叶うまで…迎えに来てくれるまで

ここに居るかな


さて、話はお終いだ

今度は君の番ね


こーんな

挫折や絶望を沢山経験してきた

元不登校生徒の私でよければ

いつでも相談乗るから


あぁ……

知りたい?


別にたいしたモノじゃないよ

私はね…




『海になりたい』



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

水縹❀理緒 @riorayuuuuuru071

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る