ぼくらの生きる過程。ー短編集ー
立花ゆ
初恋と少女と淡い記憶の粒たち。
「わぁ、懐かしい!」
引っ越しの片付けをしている途中のこと、昔懐かし卒業アルバムを見つけた。これは、高校の時のだ。
パラパラとページをめくると昔の記憶が次々に思い出されていく。
「卒業証書、授与。」
「ーーー。」 「はい!」
「卒業おめでとう、大学でも頑張ってくださいね。」
「ありがとうございます。先生もお元気で。長生きしてくださいよ。」
校長先生と仲が良かった私、証書を貰うだけのはずが話をしてしまい、横で名前を呼んでいた担任やまわりの生徒に苦笑いされてしまったのだった。
それから、こんなこともあった。
場所は確か、桜の木の下。私は2年間お付き合いした彼と向き合っていた。
「卒業だね。大学は別々だし、しばらくは会えないかも。」
「そうだね。」
こんな気まずくなったのはいつからだろうか。まぁそんなのもうどうだっていい。私達は今日でおしまいなのだから。この散り際の桜たちのように。
別れの日には最高の場所なのかもしれない、そう思っていた。
「遠距離なんて、初めてかもな。」
「そうなんだ、私も自信ないや。」
言わなきゃ。一言伝えるんだ。ふーっと息を吐き呼吸を整える。
「さようなら、大好きでした。」
後ろを向いて走り出す。目にはたくさんの涙を浮かべながら。後ろには驚いた表情の彼が泣いていたことは、また別の話。
幸せになってね、私なんかより可愛い彼女作って。
さようなら、私の初恋。
ぱたんとアルバムを閉じる。
「まま、なにみてるの?」
「卒業アルバムだよ。高校生の時の。」
「そうぎょうあるばむ?それなぁに?」
「卒アルか、懐かしいなぁ。」
「ふふ、お母さんはね…」
あの後、旦那さんと出合って結婚した。子供もできた。三歳半、可愛くて仕方がない。そして今、私のお腹には二人目の子を授かった。特別なことは何もなくても、不自由ない幸せいっぱいの生活。
思い出は心の中に閉まっておこう、固い鍵をかけて。
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