剣なんでも屋店主、剣ヶ峰涼 4
『ダウト・スタート!』
「さあ、スタートだ。言った通り、自己紹介でもしようぜ。俺の名前、
ゲームスタート直後、富賀河が慣れた様子で自己紹介を済ませた。きっと同じような状況を相当こなしているのだろう、と
「剣ヶ峰
――あ。やばい……本名言っちゃった。
動揺を表に出さないよう、剣ヶ峰は演技を続けた。
「刀剣の『剣』に、カタカナのケを小さくした『ヶ』、峰は山の『
「ふぅ~ん……。一応、
訊いてきた割に、興味のなさそうな富賀河である。
こういった不毛そうにみえる会話でも、「ウソ」の発言が飛び出すこともあり、または飛び出さないように気を付ける必要もある――と剣ヶ峰は
「そっちの
「……あ、カオルのこと?」
剣ヶ峰のすぐ後ろ、自身のスマホを見ながら立っていた
「『ダウト』って、参加してない他人が会話に入ってもいいんだっけ?」
「オーケーだよ。『ダウト』宣言なんかはもちろんできないけどね」
「そう……。カオルは安芸島かおる。広島の『
「ふ~ん……。君みたいな
しげしげと安芸島を見つめ回した後、いかにも
――気持ち悪い目でカオルを見やがって……コイツ。
「そうそう、
イラつきを抱えながら剣ヶ峰が話題を変える。
その
「昔話? そうだな~……俺は『浦島太郎』とか好きだな」
「なるほど……『浦島太郎』のどういうところがお好きなんです?」
――少し話を広げてから、「マイライ」言うか。
「カメをいじめて竜宮城にいけるなんて、そんなやりたい放題、俺もできたらな~ってところが、さ」
富賀河のこの言葉に剣ヶ峰は
――「浦島太郎」がカメをいじめた、だって?
コイツ……明らかに「ウソ」をついた。
竜宮城のことまで言うくらいだから、富賀河がストーリーを知らないということもないはず……。
そして、俺から始めた話題だから、富賀河の「マイライ」がこの「浦島太郎がカメをいじめた」である可能性も低いだろう。
この「ウソ」は単なる「ウソ」だ。わかりやすすぎる「ウソ」。
つまりは……コイツも負けるつもりか。目的は俺と同じ、賭け金の吊り上げだろうな。
――勝たせていい気持ちにさせて、それで相手のタガを外すってのがコイツの手なわけか……。
剣ヶ峰は自身も同じことを画策していたにも関わらず、富賀河のやり口に気持ちの悪いモノを見たような気がした。
この、
「……ダウト。『トオル』。『浦島太郎がカメをいじめた』」
――いいじゃねえか。乗ってやる。お前の目の前にいる「お坊ちゃん」は、テメエの手に乗ってやるよ。
『ダウト成立! ユーウィン!』
「あっれ~ぇ……俺の勘違いだったのかな。浦島太郎ってそういう話じゃなかったっけ?」
ニタニタ顔を隠そうともせず、富賀河が残念がるフリをする。
「ええ。いじめられていたカメを助ける話ですよ」
「こりゃ、まずいな……。次もやるだろう?」
剣ヶ峰はコクン、とうなずいた。
「それじゃあさ。ちょっと条件上げるな。俺、負けちまったしよ~。『ナマニ』で行こうか」
「現金、二万ですか……」
剣ヶ峰の推察どおり、富賀河は賭け額の吊り上げをしてきた。剣ヶ峰としても望むべくの展開ではある。
「やりましょう。楽しくなってきました」
ポーン
剣ヶ峰は何の迷いもなく入室ボタンを押した。
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