後日談/2
後日談/2-①
草原に立っている宗一郎に向かって、森から飛び出してくる大型のサヴェッジボア。濁音まみれの鳴き声を上げながら、ヨダレを撒き散らして突進してくるイノシシを、宗一郎は冷静に迎撃する。
「おら、よっと!」
気合一声、すれ違いざまに下顎から突き上がる牙を根元から断ち、ついで口端から前足付け根近くまで一気に裂いた。
「ブギィィィア!!」
汚い鳴き声を上げるサヴェッジボアは、しかし魔物らしくそのまま大きくUターンをかまして再び宗一郎へ突進する。
が。
「そっち行くぞォ!」
「はーい!」
月夜の返事と、返事の代わりに有雨はギチリと新品のナックルグローブをはめ直した。
サヴェッジボアの追撃に対し前蹴りを顔面に入れて強引に止め、さらに回し蹴りに派生して月夜たちのところへ飛ばす。
あとは彼女らがさっさと倒すだろう。
「センパイ、追加来る!」
「ああ分かってる!」
紅や黄に色づき始めている木の葉の隙間から飛び出してくる鳥形モンスター、アグレスフラッターに小石を投げて挑発。鋭いくちばしを宗一郎に向けて加速、突進してくるところに切っ先を合わせ、振り下ろし袈裟斬り。
斜め下方向に向かって急降下していたアグレスフラッターは、見事にタイミングを合わせられさらに下方向に打ち下ろされる。
くちばしの半分から先を叩き切られ、力の方向を乱されて一瞬だけ空中に止まり浮かせられる。
「【
無様に浮かせられ動きを止められた瞬間に、魔力で構成されたイバラの鞭がさらにアグレスフラッターを拘束する。
「【
待機状態にしておいた大地系魔導を解放し、地面から突き上げる多数の岩の柱に腹から打たれたアグレスフラッターは、そのまま吹き飛んで絶命。
撒き散らされる血と臓物に引き寄せられたか、真っ赤な毛皮を持ち常に興奮状態にあるクマの魔物、アングリーベアが突進してくる。
構え、睨み据える。
それだけで極度に威圧されたアングリーベアは宗一郎を真っ先に消すべき敵だと判断、宗一郎へと進路を固定した。そのまま勢いに任せ、幾度も敵を葬ってきた爪を振り上げた瞬間、派手に上空へ吹っ飛ばされる。
「高く上げ過ぎだ、バカモン」
涼やかな有雨の文句。
六メートル以上の高さで姿勢を反転させた有雨は、死刑を言い渡す執行人の如く、長い足で満月のような美しい真円を描いた。
蹴打とは思えぬ鮮やかな一撃で吹き飛ばされたクマの頭蓋が、ごしゃり、と遥香が出した岩の塔に衝突して砕ける。
「おぉ疲れーい」
「お疲れさん。大漁だったな」
刃に付着した血を払い納刀し、鞘ごと肩に乗せながら、しかし戦闘態勢は崩さずに周囲に散らばる打倒済みのモンスターの群れを見渡した宗一郎は、縁志からの労いを受けながら呆れていた。
「でもま、なかなかだったんじゃないか?」
ショートソードについた血糊を拭き取りながら、先ほどの戦闘を評価する縁志。だがそこへ、少々不満そうな有雨が口を挟む。
「まだまだ力み過ぎだ。イノシシを投げた場所が悪い。打ち上げたクマも勢いをつけすぎだ。もう少し力を抜け」
叱咤激励を受けて、うっす、と敬礼してみせる宗一郎。平民は上官に逆らえないのである。
「わたしはすごくやりやすかったけど……」
「いやあ、でもあれはちょっと俺が蹴り飛ばし過ぎちったって自分で分かってたからさ。でもフォローサンキュ」
月夜がフォローを入れるが、しかしその意見は採用されず。宗一郎も有雨の意見を受け入れているため、月夜にはフォローに対する礼を述べた。
「それにしても、ずいぶん多かったな」
襲ってきた魔物の数はおよそ三十。
星降り祭の効果で、現在でもマグナパテル国内にはかなりの冒険者がいる。街の外に出る必要がある依頼をこなせる赤銅級以上の冒険者もそれなりにいるはずなのだが、この辺りの魔物の駆除はまだ大して終わっていないようだ。
「連携の練習するにはちょうどいい数だったけどな。一番最初のころよりはだいぶ良くなってんじゃない?」
「うん、それは感じる。宗一郎くん、最後のほうはモンスターが同時に襲ってきても普通に対処できてたもんね」
「月夜さんと遥香もすごかったよ。渡したモンスター、地面に落ちる前にはもう倒してるとかザラだったもんな」
お互いに成長を感じ取り、その部分を褒め合う一同。
宗一郎たちは現在、ラヴァンドラ村という小さな農村から出された、モンスター駆除の依頼を受けてこの場所へと着ている。森から魔物がよく顔を出すようになって畑が荒らされ気味だから駆除してほしい、というものだった。
村よりも畑の面積のほうが大きいため、複数個所に対応できるようにと宗一郎たち以外にも同じ依頼を受けた冒険者が他に数組ほどおり、挨拶はすでに済ませてある。
「んじゃ、適当に素材とか回収して村に戻ろうぜ。リサも首長くして待ってるだろうし」
「はーい」
「りょうかいでーす」
討伐した魔物の残骸から、比較的無事な物や討伐証明部位の回収を始める宗一郎たち。
預かった笛を吹く遥香。
すると村の方向から数名の若者が姿を現した。
「うわ、すっげえ……」
「まだ三十分も経ってないのに、もうこんなに倒しちまったのか」
素材として使えそうな魔物だけを選抜し、村への運搬を手伝ってもらう。
振り返れば、広大なラベンダー畑。
すでに収穫は終えているために紫色の花弁はないが、それでも景色は雄大だ。
血の臭いに気分を悪くしないように、緩やかな風を村の外のほうへと飛ばしながら、宗一郎たちは倒した魔物の回収を進める。
村に並ぶ家々の煙突からは、夕焼けを彩るように白い煙が幾本も立ち昇っていた。
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