「で、あなた何者ですか?」なんてインタビューする相手に言えないから

茶碗蒸し

1話完結


「かわりに行ってきてくれる?ごめんね」

この一言で、急いでここにきた。


 『わたしの仕事』を担当する先輩にいつも憧れていたし、いつかやりたいと思っていた。願いがつうじたのかは分からないがその日は突然きた。

 その先輩がかき鍋に当たってしまったらしく急遽1人でインタビューを担当することになったのだ。



(大丈夫、落ちつけ、落ちつけ)

 手のひらに「人」を書いてインタビューを受けてくれる人を待つことにした。


(今日どんな人くるんだろう)

 『わたしの仕事』の雑誌のインタビューではあるものの、急遽お願いされたのでどんな人のインタビューをするのか知らなかった。


(ま、でもこの雑誌に出るくらいの人だからすごい人だろうな)

 そのため会えばすぐにわかるだろうと調べず待つことにした。


 それから15分後ぐらいだろうか、手のひらに「人」が書ききれなくなったタイミングで彼女は入ってきた。


「とくもとです、お願いします」


「とくもと様、今日はインタビューを受けていただきありがとうございます」


「こちらこそいつかインタビュー受けたいと思ってました」


「よかったです、お願いします」 


「はい」


「この仕事をしたいと思ったのはいつからですか?」


「小学生くらいの時です」


「なるほど」

(小学生が憧れるのはなんだろう、先生?おまわりさん?とか)


「なんでその時なりたいと思ったんですか?」


「すごい声が出ててカッコ良かったからですかね」


「なるほど」

(声?歌手か?)


「歌声は」


「歌声?ではないですよ」


「歌声のように通る声という事です」


「そういう事ですか、さすがにそこまでじゃないですよ」


(セーフ、歌声じゃないのか)


「その仕事は勉強はしま……」


「すごくしました、寝る間も惜しんで勉強しました」


「あの仕事難しいと聞きます」

(勉強すごいするとなると国家試験系か?)


「難しい仕事なのにそれでも頑張りたいと思ったのはどうしてですか?」


「人を救いたいと思いました、ヒーローになりたかったんです」


(救うって事は医者か?)


「人の生き死にかかわりますもんね」


「医者のように生死はさすがにかかわらないです。ただ、人生を変えてしまう事はありますね」


(あぶな、医者じゃないのか、人生を変える?)


「人生を変えてしまうという意味すごくわかります」


「そうなんです、私の一言で変わってしまうんです」

 

「その通りだと思います」

(そうか裁判官だな、確かめよう)


「平等が大切ですもんね」


「そうなんです、どんな圧力にも屈しない事が大切です」


(当たり!裁判官か、声も出すもんね)


「素敵です、並大抵の努力じゃできないですよね、本当立派な職業だと思います」


「ありがとうございます」


「ではこの後は、一旦仕事してるところを写真撮らせていただいてから仕事についてさらに詳しくインタビューさせてください」


「分かりました」


(なんとかここまできた、あとは裁判所行って写真撮って戻って軽くインタビューだな)


とくもとさんに連れられ地下鉄のホームにきた。


(裁判官も電車で移動なんだ、庶民的だな)


「では見ててくださいね」


「へ?」  


 そう言うととくもとさんは電車に乗った。そのためとくもとさんの後ろから慌てて飛び乗った。


プシューー

「とびらが閉まります、ご注意ください」


ドンドンドンドン

自分の存在をアピールするための足音がしてきた。


 その直後、座席に座ろうとしていた女子高生は弾き飛ばされた。

 次の瞬間迫力満点のお尻がその座席を独占した。


ピピピピピーー

とくもとさんが笛を吹いた。


「学生が座ろうとしてたところ、あなた無理矢理お尻をねじ込みました。今回はこの座席は女子学生のものとなります」


「なによ、いいじゃないもう」


「そんな事言ってもダメですよ」


「どけばいいんでしょ、どけば」

去っていくおばさん。


「ありがとうございます」

女子高生は嬉しそうな笑顔でとくもとさんに言った。


(とくもとさんカッコいいな、さすが裁判官)


 その後はなぜか先程のインタビューをした場所に戻ってきた。


(裁判所の許可取りとかそういうのでダメだったのかな)


「どうでしたか?」


「カッコいいです!正義感があふれてました」


「ありがとうございます、では仕事を見ていただいたので続きのインタビューですよね」


「え?仕事?」


「はい、もう1回した方がいいですか?」


(え?裁判官ジョークなの?)


「とくもとさんのお仕事は……」


「はい、電車の席奪い合い審判です」


「電車の席奪い合い審判の仕事姿ステキでした」

(なにそれ?ふざけてるの?何それ?)


「その仕事内容を詳しく教えてください」


「座ろうと思ったのにすごい勢いできたおばさんに席を取られる、その理不尽さに対応するべくできた仕事です」


「理不尽に対応というところがポイントですよね」

(知らない、知らない仕事なんですけど!)


「この仕事で多くの方が救われてます」


「そうですよね、皆が知ってる仕事で……」


「はい、みんな何回か見たことがあるだろうし、救われたという方もいると思います」


「私も救われました、まさにヒーロー」

(皆知ってるの?ウソでしょ?初耳だよ)


「そう言ってもらえて嬉しいです」


「ところで圧力とは今回の場合はどういった事でしょうか?」


「もちろん先程のおばさんの圧です。それでも我々は負けてはいけません」


「そうですよね、圧力に屈しない姿カッコいいです」

(その圧力かい!まぎらわしい)


「最後の質問よろしいですか」


「はい」


「人生を変えてしまうというのは今回の場合だとどんなところでしょうか?」


「はい、この学生は座ってのんびり帰れるところを吊革につかまり立って帰ったら次の日は疲れて学校に行き友人と喧嘩してしまうかもしれません」


「なるほど」

(ヘ?笑わせようとしてる?)


「または授業中寝て先生に怒られるかもしれません」


「そうですね」

(とくもとジョークか?)


「もしかしたら体育の時間思うように早く走れないという事もあるかもしれません」


「たしかに」

(笑った方がいいのか?笑うべきか?)


「こんな風に大きな弊害がおき人生をかえてしまう事になりかねないという事です」


「そのとおりだと思います!わかりやすい説明ありがとうございます」

(なわけあるか!ジョーク炸裂!)


「では最後にこの仕事を目指す方にメッセージをお願いします」


「この仕事は簡単ではありません、しかしだからこそ皆に感謝される仕事です!

一緒にヒーローになりましょう」


「未来のヒーローが増えるといいですね、ありがとうございました」


とくもとさんがやりきった顔で帰っていった。


「電車の席奪い合い審判ってなんだよ、知らないよ、エイプリルフールじゃないよね?」

念のためカレンダーで11月なのを確認した。


「これからはどんな忙しくても、急遽でも、ギリギリに頼まれた仕事でもインタビューする人の事をちゃんと調べてからやるぞ」

変な疲れでいっぱいになって1人叫んだ。


「ドッキリじゃないよね?」

呟きしばらくしてもその様子がないので

静かに部屋を後にした。


おしまい


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「で、あなた何者ですか?」なんてインタビューする相手に言えないから 茶碗蒸し @tokitamagohan

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