2の最終話は、鼻水ズビズビの宮森ちゃんで締めくくるという

メンチカツを一口かじって気づいた。





あっ、いらね!! 1000円札を2枚お茶碗に挟んでこの場から逃げ出したいそう思った。





もう食べたくないという感情を越えて、この場からいなくなりたいという衝動に駆られるのだと、この企画が終わったら俺はそう語りたいと思う。





「お茶のお代わりいかがですか?」





店主の奥様が冷たいほうじ茶の入ったピッチャーを持って俺の席までやってくる。




「ありがとうございます!」





俺はそうお礼を言いつつ、満腹であることを悟られないようにロースカツをバクッと頬張って、少しソースの付いた白飯をかきこむ。






「お兄さん、すごい食べっぷりだねえ! ご飯とキャベツは、お代わり自由だからどんどん食べてね!」


なんだかんだと言っても、サクッと衣の軽い美味しいトンカツなのでどんどん食べられてしまう。


自然と饒舌にもなる。


「いやあ、こんな美味いトンカツを食べたのは初めてだなあ!宇都宮1いや……北関東1と言っても言い過ぎじゃないね!」




俺がそう言うと奥様は嬉しそうに、グラスなみなみにほうじ茶を注ぐ。




「あんたぁ! 北関東1美味しいって言ってくれたわよ!」




振り返った奥様がそう言うと、店主は聞こえないふりをしながら照れたように頬を指でかいた。





「お父さん、どうたい? 北関東1のトンカツ屋だと言われた気分は? 熱した油のようにアチアチな感じになったかい!?」





俺は少しでもカロリーを消費して、腹に隙間を作ろうと、奥様に加勢するようにして、厨房に逃げるようにいなくなる店主を追いかけ回した。





お腹がいっぱいになると、人間はこうなってしまう。




新しい研究成果が誕生した。







そんな計画も進みまして、1週間くらいでだいぶお腹もぽちゃってくるくらいになりまして、これで予定通りキャンプに行けるなと手応えを感じてきた。



もちろん、食った分しっかり走り込んだり、ウエートもやってますから、しっかりと

アスリートとしての下地は作ってはいる。



チームメイトの柴ちゃんやら、桃ちゃんは他の若手選手を引き連れて、キャンプ地である沖縄で自主トレを行って、精力的にバットを振ったりしているようだ。





そんな報告を受けても、俺は焦ることなく、あくまでもマイペースで自分なりのトレーニングに勤しんでいる。




自分が野球選手であることを忘れるくらいのつもりでバットは決して手にしなかった。





そんな考えで今日もビクトリーズスタジアムでウエイトトレーニングとランニングをやりにきたのですが、バックネット裏の事務所から、宮森ちゃんが出てきたのが見えた。




1ヶ月ぶりに彼女の姿を見た。




少し離れた廊下から、よー! と、声を掛けようすると、宮森ちゃんも俺に気付いて、こちらにすごい勢いで迫ってきた。





あかん! チュー、されちゃう!





思わず目をつむって乙女顔になった俺にたいして、彼女はシュバッと素早く頭を下げた。





「あ、あらいたん! ドゥ、どぅびばでんでじだっ!!」






あらいたんじゃないです。新井さんです。






「ホントウニ、どぅびばでんでじだっ!!」




な、なにごと!


1ヶ月見ない間にどこか故障してしまったのかと思ってしまった。


結構充実して仕事に勤しんでると思っていたけど、社会人1年目でプロ野球の世界に身を置いているわけですから、もちろん大変なこともありますし。


だから、壊れてしまったのかとそう思ったのですが。


涙とか、鼻水とか、よだれとか。その他諸々の汁という汁を全てだらだら流した状態の宮森ちゃんが俺に向かって、何度も何度も頭を下げる。



一体どうしたのかと、訊ねて見ると………。





「去年の12月に、テレビの収録で使った経費の報告をしたら……自由席の新幹線に乗せるとはどういうことだと、総務部長に怒鳴られまして……」





「ああ、あの時の……」





確かにそんなことがあったなあ。




新幹線の切符を購入する時、俺はグリーン車じゃなくても、せめて指定席の方がよくね? って聞いたと思うんだけど。




宮森ちゃんが思ったよりも空いてるみたいだし、少しでも経費は節約した方がいいって、聞かなかったけなあ。




後々、この貧乳さんは球団の誰かに怒られるなと思ったけど。





「自分は一体誰の引率をしているのか考えろと言われました」




「でしょうね……。まあ、そんなに落ち込むことないよ」







別に俺は指定席でも自由席でも運転席でも何でもいいんだけど。



自由席に座っている俺を見たファンが、ビクトリーズは自分のところの選手に指定席にすら座らせないのかと、そういう風に思われてしまうからね。



一応俺はあの時言ったんだけどね。さすがに自由席はまずくないかいと。彼氏と観光や旅行に来たのなら指定席でも自由席でもパコパコ席でもいいけれどさ。



プロ野球チーム、プロ野球選手であるという自覚は常に持ちなさいというのはそういう話。それは近くにいるスタッフは職員も同じだ。




女の子を見る度に、胸の大きさをいじったり、コンビニでアイスばっかり食べたり、みのりんだから、お尻くらい大丈夫だろうとか。




そういう考えは止めなさいって話です。





球団職員の広報担当とはいえ、去年の今頃まではJDだったわけですから、いいお勉強になりますわよ。






そんな宮森ちゃんと1度バイバイして、1時間ウエートトレーニングをして飲み物を買いに戻ったら、紙コップの自販機の横のベンチに座ってまだしょげていたから、そこそこ高いご飯誘いましたわよ。





自分のところに謝りにきた女の子を慰めるために、2500円のハンバーグとイチゴパフェとアイスコーヒーをご馳走するなんて、どうかしていますわ。






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