同業者にもサービスする新井さん。
「いらっしゃいませー! 乗馬体験コースですね。ただいまチケットを発行致しますので少々お待ち下さいませ」
牧場の受付所でちょっと年上っぽい感じの女性。30歳くらいで、黒縁の眼鏡を掛けて黒髪の若干地味っぽい受付嬢だったので俺のテンションはバリ上がり。
積極的に話しかけに行く。
「結構人がいっぱいいますよね。いつもこんな感じですか?」
と訊ねて見ると、チケットを発行する機械を操作しながら、お姉さんは柔らかい笑顔を俺に向ける。
「今日は場内で様々なイベントをやっておりまして。パンフレットお持ちになりますか?」
受け取ったパンフレットには、牧場の地図に時間、エリア毎に行われる催し物が分かりやすく記載されている。
「今日の目玉イベントはやはり、ポニーレースですね!」
「ポニーレース? そんなのが行われるんですか」
「ええ! 小学生のジョッキーがポニーちゃんに乗って真剣勝負のレースを繰り広げるんです。なかなか迫力があって見ごたえありますよ。
優勝するジョッキーを的中させると、アイスクリームの無料券を差し上げていますし。ぜひご覧になっていって下さい」
「へー! それは面白そうだなあ」
「はい、チケットお待ちどうさまでした。無くさないように乗馬エリアの係員にご提示お願いします」
「どうもー」
お金を払って、乗馬チケットを頂き、お姉さんと泣く泣くバイバイ。
もらったパンフレットの地図を頼りに乗馬エリアとやらを目指していくわけですが、見渡す限りの大草原で、なんだか胸を打たれますわね。
どこまでも緑が広がっている。
遠い遠い向こうの方に小さく見える針樹林の辺りまでがこの牧場の所有地らしく、羊やアルパカが人懐っこく柵越しに寄ってきたり、ウサギ小屋があったりして、色んなところで動物と触れ合える心安らぐ場所。
見上げれば、牧場の側をさらに高いロープウェイが通っており、この先にはおさるの里という場所があって、お猿さんに餌をあげたり出来るらしい。
時間があったら行ってみようかしら。
ポニーレースまでは時間があるから、とりあえず乗馬しに行って、出店があるみたいだから何かつまんで、ポニーレースを見て、そしたらみのりん達が来るだろうから、ソフトクリームでも食べて………。
そして旅館に戻って、温泉入って、美味しい夕食を頂いて、もっかい温泉入って、ギャル美をどうにか部屋から閉め出して、布団の中でみのりんとイチャイチャする。
今日はそんな流れで行きたいと思います。
ご期待下さい。
と、思ってたら………。
「ししょー! ししょーではないですか!」
何か現れた。
聞き覚えのある女の子の声。何より俺をししょー!と呼ぶ人間は、この地球上でたった1人しかいない。
そんな風に考えながら振り返ると、特別そのお胸は揺れることなく、夏に会った頃と変わらない少し日焼けした色の顔をした、ツヤツヤのショートヘアの女の子が俺目掛けて走ってきていた。
「おー、鍋川ちゃん。久しぶり!元気してたかい?」
「元気にしてましたよー! こんな場所で会うなんて奇遇ですね!! ししょー!も鬼怒川へ温泉旅行ですか!?」
おそらく彼女は、30メートルくらいの距離をダッシュしてきたと思うが、全く息切れしていない様子を見て、さすがはプロ野球選手ですなと、俺はししょー!として少し感心した。
「そうだよ。ゆっくり温泉に浸かって、シーズンの疲れを癒そうと思ってね」
「ししょー!は大活躍でしたもんね!!1番弟子として嬉しいです!!そういえばこの前の、夜中のスポーツニュース見ましたよ!やっぱりバットコントロール部門はししょー!が1位でしたね!
わたしの予想通りでした! 平柳選手や豊田選手を押さえてダントツ1位なんて、ししょー!はやっぱりすごいです! 一生ついていきます!」
「一生は止めて下さい」
鍋川ちゃんは道路の真ん中で、もう自分の中の感情を押さえきれないといった状態。
そのくらい俺に会えたのが嬉しかったのだろうか。まるで健気になつく子犬のような真っ直ぐな瞳をキラキラさせて真っ直ぐ俺を見つめてくる。
「鍋川ちゃんも温泉に入りに来たの? ………まさか、彼氏とだったりして……」
ちょっとしたイタズラ心でそう聞いてみると彼女は、ぶおんぶおんと首を大きく横に振る。
「わたしに彼氏なんか居るわけないじゃないですかー。……チームのお疲れ様会で来たんですよ。リーグ優勝すれば、沖縄旅行だったんですけどね。……最下位だったんで、栃木県からも出れずに、鬼怒川で1泊旅行ですねー。………そういうししょー!こそ、女の子と温泉に来てたりしてるんですか?」
「う、うん。まあね……」
「ひゃー! やりますねー!! どこにいらっしゃるんですか!? 紹介して下さいよ! どんな女性ですか!?」
鍋川ちゃんは辺りをキョロキョロと見渡すが、その女の子も今は半裸でアカスリでもされている頃だろうから、ここにいるはずもなく、代わりに現れたのは、鍋川ちゃんのチームメイト達であった。
「どうしたー? 急にダッシュしたりなんかして…………あ、新井さんだ! お、お疲れ様です!!」
おケツや太ももをムチムチとさせた女の子達が10人ほどぞろぞろと現れる。
みんな俺に気付くと、ちゃんとお辞儀をしたり、被っていた帽子を取って俺に挨拶をする。
その後は、せっかくなんで写真撮りましょうと、きゃーきゃーされながら辺りを囲まれ、アルパカさんと一緒にみんなで記念撮影しました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます