花吹雪
あんちゅー
恋焦がれて、舞う花びら
その時、大きく首を振った。
強い風が吹いて舞う散った花びらの数だけ私は今夜涙を流すだろう。
あなたは私に会ったその日に言ったよね。
「綺麗な声をしているね」って。
私は何より嬉しかった。
いつも自分が嫌いだった。
何をやっても人に劣った。
私を見ると腹が立つって、クラスのあの子は私に言った。
私の命に意味はあるのか、幼い私は考えて、見つからないから涙を流した。
憧れ抱いたその夢を知られ、みんなが私を笑っていたのを、今でも時折思い出す。
無謀な夢を見るのはやめなよ、彼女は私にそう言った。
何より悔しかったのは言い返せない自分自身に。
学校裏に呼び出された時、慣れない私は胸が弾んだ。
けれど、それは面白おかしな冗談だったと、後から誰かに聞かされた。
いつもからかわれるばかり。
何も信じれないものばかり。
毎日毎日言われた言葉。
あなたは可愛くないからさ。
一言一言、いちいち私の胸を刺す。
もうどうでもいいやって思った地元の最後の冬を私はいつまでも忘れない。
誰も私を知らない場所へ、行ってみたいと進んだ先で隣あった人こそあなた。
吹きすさぶ風はまだまだ冷たく、桃色桜が葉桜に変わり、ようやくクラスになれた頃。
あなたはいつも気持ちよさそうに眠ってた。
起きるととろんと瞼が数度ぱちぱち瞬き繰り返す。
むにゃむにゃぼんやり虚ろったあと、もう一眠りするあなた。
みんなは呆れて笑っていたよ。
私は不思議で見つめていたの。
入学式の新品スーツを着込んだあなた、緊張に負けてふらつく私をそっと支えてくれてありがとう。
何よりすっごく嬉しかった。
ありがとうって言った私に優しい瞳であなたは言った。
あなたと最初の大事な思い出。
気付けばいつも隣にいたの。
なんでかわかんなかったけど。
多分楽しかったのかな?
あなたは本当はどうだった?
私はすっごく楽しかった。
それでもこんな私じゃダメだと自分磨きに余念なく、あなたに相応しくなりたいと。
あなたは最後まで気がついていない、ちょっとは私変わったよね?
あなたは将来何をするの?
そんな風に聞いたことがあったよね。
あなたはその時すっと背筋を伸ばして言っていた。
誰かが幸せになることを。
実は優しいあなたの事が少しだけ心配になったんだ。
楽しかったよ4年間。
あなたはいつも笑ってた。
授業は寝てばっかりなのに、成績も良くないはずなのに、誰よりあなたは笑ってたよね。
聞いたよ明日飛行機に乗るの。
あてもないのに遠くへ行くの。
ほんといつも突拍子もなく、とんでもないことを言うよね、でもね。
それでもあなたはやり遂げるんだと私はちゃんと分かってる。
戻ってくるのはいつになるの?
分からないなと首を振る。
向こうでずっと生きていくの?
分からないやとまた首を。
誰かが困ってたら駆けつけるんだ?
そのために俺は行くんだ。
そっか凄いねやっぱりあなたは。
でもね、それなら一つだけ。
私が困ってるって言えばあなたは、ここに残ってくれますか?
あなたは静かに俯いて少し首を横に振る。
分かっていたから大丈夫。
気にしないでと手を振った。
あなたが居ないと悲しくて
あなたが居ないと寂しくて
あなたが居ないと辛くって
私は何もやる気が起きず、学校になんて行かなくなった。
憧れの人を見失ったら目標までもが遠のいて。
私はダメだと思えてしまった。
雪が積もった街を歩く、手を繋いだ男女の笑い声が、容易にあの日を思いだす。
10代の頃、夢の跡。
クラスのあの子に言われた言葉。
クラスのみんなに笑われた記憶。
私はあなたが居ないとダメだって、思い知った冬の夜。
何年過ぎても変わらない、思い出すのはあなたの横顔。
気力なく働く私。
目標がとうに霧散した私。
心震わせ泣いてた頃から涙はすっかり枯れおちて。
私はただただ生きていた。
朝出かけると風が強くて、今日は休もうと思い立った。
電話をかけて休みを取って、だけどどうにも外に出たい。
まだまだ寒いのに、桜は強く咲いていた。
想像よりも逞しい桃色の花は強かだ。
あなたの好きな所に来てさ、久々に来たと思い出す。
あの頃はいつもここに来てたよね、思い出
浸るのも控えめに満開の桜が風に舞う。
木陰に見えた寝転ぶ姿。
ほんの少し逞しくなった、あなたは私の目を見て言った。
「久しぶり、結婚しよう」
唐突な所が相変わらずな、私はあなたを待っていた。
私は大きく首を振る。
「喜んで」
花吹雪 あんちゅー @hisack
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