第33話

もう少しで第一章が終わります。今回入れて二話なので連続で投稿いたしますのでよろしくおねがいします。

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 自宅まで送ってもらったら、須藤は父さんを駅まで送っていってから学校に出勤していくことになっている。

 そういうことで父さんも横浜の自宅に帰る。母さんも心配だしな。




「どうせ私などいても邪魔なだけだろ? 週一回の通院の時にはちゃんと来るからね。無理はしないこと。じゃあ、ももちゃん、漣をよろしくね」


「はい! 任せてください!」

 萌々花はフンスッと気合を入れて胸を張っている。心強いです。



 父さんと須藤を玄関で見送り、ホット一息する。久しぶりに帰ってきた我が家。帰宅できてよかったよかった。


「リモート授業は三限目からでいいよな、萌々花」

 振り返ると、ぽすんと萌々花が胸に飛び込んできてギュッと抱きしめられた。


 グスン……


「れぇん……よがったよ……漣が死んじゃったら……わたひ……わたし……帰ってきてよかったぁぁぁ~ わぁ~ん」



「ずっと病院でも気丈に振る舞ってくれていたんだな。ごめんよ」

 張っていた気が緩んだせいで我慢が出来なくなったんだな。


「謝っちゃ、やだ」

「うん。ありがとう」


「……うん」

 俺も涙ぐみながら玄関でしばらく無言で抱き合った。俺は肘でちょっと触っていたぐらいだけど……早く治して抱きしめたい。




「ごめんね。また泣いちゃった……これじゃお父さんに顔向けできないよ」


「萌々花の泣き虫は今に始まったことじゃないから平気だよ。寧ろ心配掛けた俺のほうが顔向けできないもんな」


 萌々花も目を腫らしてしまったので、午前中の授業は受けないことにした。授業は録画もされているようなので今日中なら後からでも大丈夫なようだ。


 日をまたぐと上書きされるようなのでそこだけ気をつけるように先生に注意を受けた。そういうところは佐藤先生も先生なのだなと思う。


「萌々花、のどが渇いたから何か飲むものをくれないかな?」

「ん、分かった」


 久しぶりの帰宅なので、帰りがけにスーパーマーケットに寄ってもらって色々と萌々花に買い出しをお願いしておいた。


「麦茶でいいかな? ペットボトルのだけど」

「うん! それでいいよ。お願い!」


 俺の両腕はガッチリと網脂もうしの様な模様の3Dプリンタで作られた樹脂ギプスで固定されている。『昔は石膏を使っていてゴチゴチで大変だったんだからそれよりは相当マシだよ』と医師も言っていたけど確かにな。樹脂包帯型も通気性悪そうで痒くなりそうだし……


 その腕をアームリーダーで肩に掛けたバンドで吊り下げて支えている。

 両側からなので首に負担はかかるし、そもそも首を吊り紐で締めているようで苦しい。


『なんとかならないかな?』ってぼそっとつぶやいたら、萌々花がカスタマイズしてくれるそうだ。マジありがたい。なんせシャツ一枚まともに一人では着られないんだもんな。


 その両腕をテーブルにドンッと置いた真ん中にコップを置いてもらって、ストローを差してチューチュー吸って飲む。普段なら行儀が悪いと叱られるような飲み方だが流石に今は誰も叱らないだろう。


「はい。漣、おまたせ……んっ」


 丁度冷蔵庫のある台所に背を向けていたので不意打ちだった。言い訳じゃないよ?


「ん‼……コクン⁉ ぷはぁ~」


 口移しでお茶を一口。


「えへへ~ おいしい? ねえ、漣。美味しかった?」

 どういう意味で聞いているのかな? お茶そのもの? それとも……


「おいひかったのれ……もう一口ちょうらい」

 美味しすぎて呂律が回らないよ!


「もうっ、漣たら! 仕方ないなぁ~」

 真っ赤な顔して嬉しそうに言ってるくせに!何が仕方ないだよ~ 多分俺の顔も真っ赤だとは思うけどね!


 病院だと何時誰が突然来るか分からないからこんなに熱烈にキスを交わすことはなかった。

 とは言っても! 言ってもぉ~ 熱烈すぎ! もうとっくに口の中のお茶は飲み干したのに萌々花が離れてくれないし、なんなら俺の頭を押さえて更に強く舌を絡ませてくる!!


 長いような短いような官能的なときを味わってから萌々花が離れる。


「どうしたのさ、萌々花」

「だって……最初のはわざとだけど……そうしたら……もう、何か心の奥底から漣への愛しさが溢れ出てきちゃって……我慢できなかったんだよ。えへへ」


 この事件を通して俺達二人の仲はより深まった。深まったどころではないかもしれいくら位に強固になったと言っても過言ではないかも?

 代償は俺の両腕と幾つかの怪我だし、それでさえ名誉の負傷を受けたと思えば誇りさえ感じる。


「萌々花……俺も同じ気持ちだよ」

 さっきは泣きながら抱きしめ合ったけど、今度は笑いながら抱き合えた。



 ★+。。。+★+。。。+★+。。。+★+。。。+★



 午後から授業に参加する。


 どうも参加をすると教室側でも分かるようで、やんややんやと騒がれた。


 いつもの四人以外ではそんなに交流もなかったはずだけど、みんな心配してくれていたようだ。ありがたい。


「どうも。お騒がせしました。取り敢えず俺も萌々花も無事です。来週末には週二~三日は通学する予定です。みんな、よかったら、ヘルプよろしくお願いします」


「おう! 任せとけ! ところで鈴原さんもそこにいるのか?」

 任せろって、お前誰だよ? えっと……井上くんだっけ? 柔道部の。


「いるよ⁉ なんだし? ちゃんと漣の面倒を見てるし!」

 萌々花、その設定はだ生きてんだ。面倒見てるまでは言うことないのに! 画面の向こう側が大盛りあがりになっているじゃないか⁉


 こっちはだらけた格好だし、部屋には俺のと萌々花の荷物や服があちこちに見えちゃうからカメラは不使用。使えとの要望には断固拒否でよろしくです。


 その後はあの時一緒だった大桑さんが大泣きしながらカメラの前に来たり、話したことない奴らまで大騒ぎですごかった。先生ごめんなさい。授業の邪魔をしました。


 先生が気持ちは分かるがいい加減にしろと一喝して落ち着いた後は普通に授業が行われた。

 久しぶりの授業にちょっと感動してしまった。少しだけ日常を感じてしまったからかな?


 衝撃的な事件が校内で発生し、警察の実況見分やショックを受けた生徒に対するケアなどで授業が遅れていたようで、この分なら早々に遅れを取り戻せそう。


「大丈夫そうだな、萌々花」

「…………ぅん」


 萌々花は大丈夫じゃなさそうだな……時間はあるし、また二人で勉強すればいいか。


 萌々花は先日長らく世話になった喫茶店のアルバイトを辞めてきた。店主もそろそろ潮時と思っていたらしく、お店をたたむそうだ。あのコーヒーはもう飲めないのかと思うと寂しいな。

 正式には学校で出会ってはいるが、俺の中では萌々花との出会いはあの喫茶店だった。腕が治ったら一度お礼の挨拶にでも行きたいものだ。



 午後の授業が終わった後はオンタイムで受けられなかった午前中の授業を受ける。授業動画の再生履歴で出席にしてくれる破格の扱いにちょっとだけ


「この異常に良い破格の待遇ってやっぱり、さと――」


「!! 萌々花! 触れなくていいことには触れなくて良いんだぞ? そういう事も世の中にはあるんだ。あるんだよ、きっと」


「あ、ああ……はい、そうするね」


 例の書類を確保できたことのお礼的な意味合いがありそうなことを須藤がre:inで書き込んでいたからそうなんだと思うけど口にはしない。

 その須藤のメッセージは削除したけど、佐藤先生に対して有効な対策かどうかはわかんない。リモートでアプリ削除できちゃうスキルの持ち主だもんな……



 さて、プロジェクターにPCを繋いで授業風景を見ていると本当に教室にいるみたいで楽しい。

 学校が楽しいなんて思ったのは、久しぶりだな。この高校に来て本当に良かった。


 なんて言ったものの、そのまま授業を全部見ていたらそれなりに時間を食ってしまうので、重要そうなところ以外は一五〇パーセント増しの再生速度で流しました。ごめんなさい。


 ズルをしながらも一九時前には終わって、萌々花は夕飯の支度をしてくれている。なんかげっそりしていたのは気の所為か?


「ごめん、漣。途中でご飯ぐらい炊いておけばよかったよ。久しぶりの勉強で頭がオーバーヒートしていたみたい。ラノベでも読んでご飯の出来上がりを待つよ」


 萌々花はバッグの中からラノベ――うちの義妹がぼくをデレデレに……うんちゃらかんちゃら。タイトルが長すぎで読みきれん――を取り出し読み始めた。萌々花って本なんか読むんだ。へ~ 初めて知ったよ。


「お、おう。そうだよな……あ、ところで今日のおかずはなんだろう?」

「ご飯が炊ける頃に出来上がるように煮物にしちゃった。鶏肉で肉じゃがなんだけど、大丈夫かな?」


 あとは須藤が『カルシウムとタンパク質を一緒に摂れますから!』ってちょっと高級そうな豆腐を六丁も寄越してくれた。非常にありがたいがなぜに六丁も?


 鳥肉じゃがに豆腐とほうれん草のおひたし。十二分に満足いくラインナップじゃないか⁉ 早くご飯炊けないかなぁ~


「楽しみ!」

「良かった。病院のご飯はどうにも味気ないでしょ? だから今日はちょっとだけ味濃いめにしたからご飯が進むはずだよ!」


 なんだろうこの良妻感は‼


「萌々花ぁ~ これからもよろしくねぇ~」

「どしたの? 涙ぐんで……?」




 美味い上に全部あ~んで食べさせて貰って最上級に満足。


 ただ、入院中とは違い食事の用意から片付けまで萌々花にやらせてしまって、俺はソファーでだらりと食休みしているのが落ち着かない。


 だからといって萌々花の後ろに立って作業を眺めていても迷惑でしかないので仕方なくこうしているわけだけど……


「こらぁ~ またそういう顔して!」

「だってさ……」


「良いの! 漣はわたしに甘えきっていいの」

「それじゃ、やっぱり申し訳なくて……」


「大丈夫だよ。わたしは自由の利かない漣を弄んで楽しむ権利を有しているんだもん」


 弄ぶ? 何を? 権利ってなに??


「それって?」

「そのうち分かるよ。それがね……楽しみだから、漣は完全に甘えきってくれたほうが都合がいいの」


 都合が……いい?


「ふふふ。可愛い漣を独り占めできるんだから無問題なんだよ!」


 え? なに? なに? なに? なんだか怖いような期待できるような?

 萌々花さん? 目元とお口がだらしなくなっていますけど大丈夫でしょうか?



『ぱんぱらりんこん♪ ぱんぱらりんこん♪ お風呂が沸きました!』

 あれ? いつの間に萌々花は風呂を用意していたんだ?


「ん~~~~! よしっ! 漣‼ 一緒にお風呂入るわよ!」



 ナンデスッテ?



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最後までお読みいただきありがとう御座います。今回は若干短いです(混乱)

第一章のラストに向かってさあ進め!


佐藤先生がやっぱり学校の裏の主なのでしょうか?

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