彼が彼女に贈った歌は後に死を招く曲として扱われた。

影神

優しい音色


物語や書物というのは作者の私情が入り交じっていて、


それらを受け取る側に押し付けるようなモノでしかない事を


私は少なからず感じる事がある。




だが、対照的に絵や曲は見る者や聴く者によって


感じる事が様々なモノだと私は思う。






そんな事を君に言うと彼女は






『貴方は貴方の考え方があっていいと思うわ




そんな貴女が、私は好きよ』






そう、髪を靡かせながら彼女は言う。






私は小さい頃から身体が弱かった。




「男のくせに」




「弱っちい」




「女みてえ」






とか、




ざらじゃなかった。






別に生まれつき何かの病気だった訳じゃない。




今の医学ではわからないだけなのかもしれないけど、




至って"普通"だった。






「だが普通ではなかった。」






彼女は気付いたら居た。




いつからか、




そんなことも考える事もないぐらい




当たり前のようにそこにいた。






私の部屋の窓辺。






遠くに樹が生えてて。




季節毎に変わる景色に、彼女は言葉を放つ。






そんな当たり前の様で、奇跡のような時間は、


ずっとは続かないような気がしていた。






優しくも華やかな彼女との時間は儚かった。






私の特技はピアノ。




特技といっても、唯一出来る事がそれだけだった。




誰かに習った事もなければ、譜面が詠める訳でもない。






ただ、想う様に、指先で奏でる。






曲なのかわからないそれを奏でると、


彼女は心地良さそうに目を瞑る。






世界は戦争の真っ只中だった。




時代が良ければ、彼女は私と暮らす事も出来ただろうか。






私に戦下への招集が掛かった。




だが、私は身体が弱かった為、




戦力にはならない事を告げ、返送した。






世間では役立たずだった。




いや、恥知らずでしかなかった。






人を殺めるのを前提に先陣する行為に、


何の名誉があるのだろうか、、






いや、皆、家族や愛する人を守る為に行った。






"殺すのではなく、守る為の戦いだったのだ。"






「私は愛する君を守ろうとする事すらできない。」






彼女は遠くへと避難するらしい。




もうすぐここも戦禍になる。




夜には空襲が止まないだろう。






彼女が最後に僕の部屋に来た時、


僕の隣に座ると、優しい口付けをしてくれた。






『また逢えますように』






と。






彼女には無事で居て欲しい。






また、傍に居て欲しい。






たわいもない話をして、風景を眺めながら、


いくつもの季節を共に過ごしたい。






去り際に香る彼女の香りは、


僕に安らぎをもたらしてくれた。






僕は筆を動かした。




君への想いと、彼女への愛を綴って。






「もう、逢えないのかもしれない、、」






そんな感情を押し殺すかの様に、ピアノを奏でる。






綴り、演奏し、想い、苦しみ、願う。






近くに爆撃が墜ちたみたいだ。




私は残りが少ないことを察する。






きっと私の音を鳴らしても、


爆撃に掻き消され、存在すら出来ないだろう。






その日は沢山の轟音と共に、


優しくも儚い音色が木霊した。






街は跡形も無く崩壊し、見る影もなかった。






彼が彼女に贈った歌は、街が壊れる時に流れた、


忌々しい負の協奏曲として語られた。







































































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彼が彼女に贈った歌は後に死を招く曲として扱われた。 影神 @kagegami

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