フリーター職業訓練校生。ギャルの弟子になる

麗玲

第1章 情報収集・見学・試験と面接対策

第1話 フリーター八瑠気有造。職業訓練受講を考える。

 俺は八瑠気有造やるきあるぞう。29歳。フリーターだ。


 法京大学文学部社会学科を卒業したのは就職氷河期待っただ中、やりたい仕事も無く、只漠然と本が好きだと言うだけの理由で狭き門である出版業界の仕事を探していた。


 当然採用されることも無く大学を卒業してしまい、止むを得ずフリーターとして生計を立てていた。


 経験した職種は主に軽作業と言うのは名ばかりの重作業や、仕分けなどは安い上にきつい作業は割に合わなかった。他にデーター入力、携帯電話の検査、コンビニエンスストアの店員等、様々なバイトを渡り歩いた。


 中でも年賀状作成のバイトは一番自分に合っていると思った。


 Adobe Photoshopという画像編集ソフトを弄って画像を加工するのは面白かったので、Photoshopを勉強しながら関連のアルバイトを経験して、ステップアップしながらDTPデザイナーを目指そうと思った。


 だが、現実は甘くなかった。


 子供用の写真撮影で知られている写真スタジオで契約社員として画像修正の仕事をやっていたが、繊細な色彩の修正が出来ず、毎回上司から怒られていた。


 色覚異常が原因だった。


 勿論、色覚異常について自分で把握していなかった訳では無いが、年賀状のバイトでは大して問題にならなかったので何とかなると思っていたが、より高度な仕事を求められる写真スタジオでは問題になるのは当たり前だった。


 折角「自分に合った職業」とやらへの道が開けたと思ったのも束の間、先天性の障害によってあっさりと道を閉ざされてしまったのだ。


 こうして俺は目標を失い、ダラダラと誰でも出来るような仕事のアルバイトを続けていたが、気付けば29歳の誕生日を迎えていた。


 もう就職氷河期世代だのやりたい職業が見つからないだのを言い訳に出来る年齢ではなくなっていた。


 よく言われている様に30歳までに正社員の経験が無ければ一生フリーターを続けなければならなくなるのだろうか?


 焦った俺は同じような悩みを持つ人の多くがそうする様に職業安定所に足を運んだ。



 ◇



「そうですね……。29歳の方で未経験で事務職希望と言うと正直難しいと思います」


 フリーター歴が長い割には職業安定所には始めて来たが、中は政府が公表している失業率の発表が信じがたいほど人で溢れていた。


 俺はそんな中30分程待たされた挙句、ようやく相談の運びとなったが、職員からにべもなく告げられた言葉は厳しいものだった。


「そうですか……では、如何すれば良いでしょうかね?」


「もしご都合が宜しければ職業訓練を受講されるのは如何でしょうか? 失礼ですが八瑠気様はパソコンをお持ちでしょうか?」


「ハイ。持っています」


「パソコンを使ったお仕事のご経験はありますでしょうか?」


 俺は写真加工のアルバイトの苦い経験を思い出した。


「ええ。Photoshopなら使った事がありますがWordとかExcelとかを使った仕事の経験は殆ど無いですね」


 携帯電話の動作テストのアルバイトでExcelを使用して簡単なチェックをしたことがあるが、あれだけでExcelを使えるなどとても口にする事は出来なかった。


「さようでございますか。パソコンについて全くの初心者ではないのでしたら、おススメの科目があります。……こちらをご覧ください」


 そう言って職員は職業訓練のパンフレットを取り出した。


「どんな科目がありますかね?」


 実は待って居る時に自分でも同じパンフレットを見ていたが、正直興味を持てる科目はあまりなかった。


 ただ漠然と営業は嫌なので事務職に就きたい、事務職に就くにはパソコンにも精通しないと駄目だと考えていたから、何かパソコンと関連する科目を受講したいと思っていた。


 俺は身を乗り出してパンフレットを覗こうとすると、親切にも職員がページを開いて俺に見せてくれた。


「先ず、事務系のお仕事への就職を目指す方の為の科目は幾つかあります。医療事務科、財務管理事務科、OAソフト管理科、それにパソコン実践科などがありますが、八瑠気様におススメなのはOAソフト管理科となります」


 OAソフト管理って何じゃそりゃ?


 どんな内容か想像もつかないがOAソフトと言うぐらいだから何か事務と関係あるのか?


「OAソフト管理科ですか……どんな内容か分からないのですが、他の科だと駄目なんですか?」


「ハイ。例えば医療事務科は事実上女性の方限定ですし、財務管理事務科は日本商工会議所簿記検定3級相当の知識をお持ちの方が受講対象です。八瑠気様は該当の資格をお持ちですか?」


「……昔勉強しましたがもう忘れました」


 大学生の時に簿記3級は合格したけれど、何年も前の事だから記憶は綺麗にデリートされている。


 恥ずかしかったので職安に提出した履歴の資格欄には書かなかったのだ。


「ところで別の科目……例えばパソコン実践科というのはどんな内容ですか?」


「こちらは主に初心者の方を対象にパソコンの使い方からワードやエクセルを学習するカリキュラムになっています。ですが、パソコンをお使いになられていて、パソコンの仕事のご経験もある八瑠気様はもっと上の内容を学習された方が良いかと存じます」


「それがOAソフト管理科だという事でしょうか?」


「ハイ。OAソフト管理科のカリキュラムではパソコン実践科で学ぶような内容の他、簿記3級、会計ソフト、ホームページの作成、データベース、PCハードウェアの知識、セキュリティ、ネットワーク管理など幅広く学習することが出来ます。職業選択の幅を広げる為にも是非ともこちらをおススメ致します」


 成程……何も事務職にこだわる事は無いという事か。

 でも何と無く難しそうだけれど大丈夫だろうか?


「色々やるみたいですけど、授業の難易度は高いのですか?」


「職業訓練校の試験に合格するレベルでしたら問題ありません。訓練生の中にはご高齢の方も居られますから」


 高齢者でも出来るカリキュラムなら何とかなるかな?


 俺は決意を固めて職員の人に聞いた。


「分かりました。では、OAソフト管理科に応募する方法を教えてください」


「ハイ。八瑠気様は、受講開始日から遡って1年以内に公共職業訓練及び求職者支援訓練の実践コースを受講したことがない為、受講資格は有しております――」


 このようにして引き続き職員に職業訓練の案内を受け、話が終わると資料や必要な書類を貰った。

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