第1話



 6月に入り――

 そろそろ雨の日が多くなるのかなぁ。

 春彦から聞いた転入生の話よりも。俺は、そっちの方が気になっていた。

 だから少し驚いた。担任の先生と一緒に入ってきた存在に。

 ナチュラルピンクの長い頭髪に桜色の瞳。とんでもない美少女だった。

 真新しい制服がよく似合っている。

 きっと目を奪われるとはこういう事なのだろう。

 一瞬で、同族だと分かった。


「平魚リアンです。今日からよろしくお願いします」


 ペコリとお辞儀をした。無難な挨拶で、この場を乗り切ろうとしているみたいである。

 はっきり言って、つまらねぇ。


「おいおい! せっかくおもしれ―名前なんだからさぁ。ここは、魚座の方からやって来たエイリアンですってなくらいのネタ披露しろや!」


 クラス中がざわめいた。

 いきなり俺が、声を荒げた事もそうだろうが、なによりもリアンの瞳から零れ落ちた涙による影響が大きいだろう。


 って! いきなり泣いてんじゃねぇ!


「おい! 本宮ちょっとこい!」


 担任の教師に、つらを貸せとばかりに睨まれて廊下に連れ出された。


「お前なぁ。高2にもなって言っていいことと悪い事の分別もつかないのか⁉」

  

 俺か? やっぱ俺が悪いんか?

 俺なりに、気を使ったのが逆効果だったんか?

 あんな程度の冗談軽く流せねぇで、この先上手くやっていけるとはおもえねぇぞ。


「大丈夫なんか、アイツ」


 怒られてるのもすっかり忘れ思わず本音が出ていた。


「先生は、お前の頭の方が大丈夫なのか知りたいくらいだ!」

「あ、スイマセンでした。もうしません」

「本当だろうな!?」

「はい、きちんと仲良く出来るようにします」


 怒られた理由もそうならば、反省の言葉も小学生レベルである。

 教室に戻ると皆の視線が痛かった。特に女子……

 クラス委員の高山さんを中心にリアンを慰めているようだ。


 ち、近寄りづれ~。


 でも、ここで謝っとかないと後でもっとめんどくさい事になりそうだし。

 まるで、射殺されそうな視線の中――やや強引に押し入る形でリアンの前に立つ。


「悪かった、昼飯おごるから許してくれ」


 あちらこちらから、「え、あの貧乏人でケチの本宮が」とかなんとか聞こえてくる。

 んなこと言われなくてもわかってるわ!

 俺だって、相当な覚悟決めて口走ってるんだよ!


「こちらこそ、驚かせてしまって申し訳ありません。それと、貴方に物を恵んでもらう理由もありませんので、お気になさらないでください」


 いかにもご丁寧にってな感じで頭を下げていらっしゃるが、はっきり言ってうそくせ~。めちゃくちゃ猫かぶってんじゃん!


「いやいやいや、頼むから、おごらせてくれ。じゃないと俺の立場がないっていうか、マジ居場所がなくなるっつーか。頼むから空気読んで、俺の願い聞き入れてくれ!」


 パチンと両手を合わせて拝んでみた。


「は~~~。つまりこの場を収めるには貴方の案に乗る方が無難と判断してよろしいのですね?」

「その通りだ! 頼む!」


 リアンは、深いため息をついてから「分かりました」と言ってくれた。


 その後、席についたリアンに対し春彦を中心とする男子メンバーが猛アタックをしかけていた。



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