第5話
俺は声がした方へと急いで向かっていた。
気付けばそうしていた。さっきまで悩んでいたのに、だ。
何故だと聞かれればこうとしか答えられない。
後悔したくなかったからだ。
確かに助けられるか分からないしそもそもの問題としてあの悲鳴がなぜ起きたものなのかも分からない。それこそ足を滑らせただけかもしれない。それならそれでいいのだけれども。それでも、あの悲鳴が助けを求めるものなのだとすれば、俺ができる限りの事はしたい。
助けようと思った時点で、やれる限りのことはする。見捨てるなんて言語道断だ。偽善と言われればそれまでな感じもするが、やりたいからやる。助けたいと思うから助ける。それが今の俺だな。
なんて考えてると悲鳴を上げたであろう女の子が見えてきた。その子は狼のような魔物におそわれていた。なんで魔物かどうかがわかったかなんてのは単純に、女の子と同じぐらいに大きくて明らかに普通の獣ではない気配を感じるからだ。
「おい犬っころ!こっちだ!」
とりあえずあの子から距離を取らせたいので、大声で煽った。(意味が通じるかは知らん)
「ガゥゥゥルゥゥゥ」
唸ってきた。これは犬って言われて怒ってるのかな?その辺はわからんが、こっちに意識は向いた。
---よし、まずはあの子に離れてもらって俺がどうにかあのオオカミもどきを潰そう。
「おい!少し離れてろ!つーか逃げてくれ!」
だが、女の子は(今更だが女の子と言えるような歳なのだろうか)首を振るばかりで動かない。
クソっ、足を怪我してる。あれじゃ動けない。もう少し離れられるか?
いや、無理そうか。仕方ない、やるか。
俺はスキルを発動した。今回はさっきと違って発動範囲は右手の辺りだ。剣をできるだけ軽くする。とは言え、まだ三十センチぐらいまでしかカバー出来ないので、剣先の部分は思いままだ。なんかテニスのラケットを思い出す。
心を落ち着かせる。目標はアイツを殺すことだ。それについて躊躇うな。話し合いの余地はない。やるぞ---
「はっ!」
痺れを切らした奴が俺に襲いかかってきた。その大きな爪と牙を存分に使ってくる。まだ若干恐ろしいがそんなことは言ってられない。相手の動きをしっかり見て、、、避ける。剣を使って逸らす。離れるの繰り返しだ。
相手の方が速さは上だ。こっちから当てることは難しいだろう。なら相手から飛び込んでもらえばいい。
ただ、長引けば長引くほど俺の方が不利になる。戦いに慣れてないからだ。実際今も、ものすごく精神を研ぎ澄ましている。流石に長くは持たないだろう。
奴は、攻撃には爪と牙しか使っていない。瀕死になればまた違うだろうから、出来れば一発で決めたい。
奴が爪を右から振り下ろしてくる。それを左にそれて避けると、通りすぎて直ぐに持ち直して次は左を使ってくる。分かってきた、コイツの攻撃はだいたいこのパターンだ。
---よし、次で合わせる。
俺はそのために一度少し距離をとる。片手剣だが両手に持ち、下に構える。干渉を直ぐに切り替えることはできるようだから、切る直前に一気に重くしよう。
---きた。
飛びかかってきた魔物に対し、俺は体を低くしながら剣を振り切った。重さを増した俺の一撃が、奴の首を捉えた。しっかり首を落とせたようだ。
感触はあった。しっかりと感じた。あまりいい感触とは言えない。だが、これがこの世界の当たり前なのだ。そう割り切るしかない。魔物に対しては慣れていかなければならないことなのだから。
ともかく俺はオオカミもどきを倒せたようだ。っと、あの子は大丈夫か?
「大丈夫だったか?」
俺は、怪我で動けなくなっている子に尋ねた。
「はい、危ないところでした」
お、今はちゃんと喋れるようだ。さっきは怖くて喋れなかったようだからな。
「それは良かった。ところで君は、、、あー、冒険者か」
俺には彼女が持っていた薬草を見て察した。俺と同じ依頼を受けたのだろう。すると運悪く、あのオオカミもどきに襲われてしまったのだろう。
「そうです。ちょっと前に登録したばっかりで、魔物を見るのすら初めてで、怖くて、、うっ、、ぅぅぅ、、」
泣かれてしまった。余程怖かったのだろう。
「とにかく無事でよかったよ。さっき足を怪我してたみたいだけど、そっちは大丈夫?」
「はい、ありがとうございます。足の怪我はちょっと酷いです。とは言っても捻ったぐらいですけど。少しすれば歩けます」
捻っただけらしい。アレに噛まれたとかじゃなくて良かった。
「あ、そういえば名前聞いてないね。俺も教えてないし。俺はカズト。歳は一応言っとくと16歳。とりあえずよろしく」
「私はイリヤです。歳は同い年ですね!うっ、、」
足の怪我が響いたみたいだ。
「っと、やっぱりまだ痛いか。んー、まだ明るいし少し待ってみるか。なにか冷やせるものがあればいいんだが」
あ、そういえばスキルで水なんかを冷やせないだろうか。ちょっといじってと、、、
出来た。冷たい水だ。若干凍っているところもある。それを前に買った水筒(動物の皮で作られている)に入れて、患部に当てる。
「あ、ありがとうございます」
「よし、とりあえずは腫れが引いたら戻ろうか」
「わかりました、すみません。迷惑をかけてしまって」
しゅんとしてる。まぁ俺も疲れたから休みたかったからちょうど良かったので気にしなくていいのだが。
ともかく俺はこの世界で初めての戦闘を無事に終えたのだった。
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