行ってらっしゃいませ

勝利だギューちゃん

第1話

「いよいよだな」


わしは今、臨終の時を迎えている。

家族はいない。

わしは、家庭という物をもたなかった。


後悔はない。


今、病院も大変なので、自宅で療養しているが、虫の知らせというやつだ。


「こんばんは。お迎えに上がりました」

ドアを開けて、黒ずくめの人物が入ってくる。


「お前さんは?」

「私は、あなたたちの言葉でいう天使です」

「そうは見えない」

「今、流行っているんです。それと、私は『女性』です」

「強調するな」

「ええ」


女はややこしい。


「で、わしはいつ死ぬんじゃ」

「3時間後です。」

「死因は?」

「ご存知でしょ?」


訊いてみただけ。


「まあ、あがりなさい。って、もうあがってるか」

「何か、出来ることはないですか?」

「じゃあ、酒でも飲もうや」

「仕事中ですので」

「わしも酒は飲めん。ウーロン茶ならいいじゃろ」

「それなら・・・」


わしは、黒ずくめの天使と差しで、茶を酌み交わした。


「最近の、天使とやらは、皆、黒いのか?」

「ええ、若い女性の天使では、流行りなんですよ」

「変わってるな」

「ちなみに、あちらさんは白い服が流行っています」

「あちらさん?」

「死神」


あっ、そう・・・


「ねえ、おじいさん」

「どうした?若いの」

「未練はない?」

「ない」


そう言える。


「女性に訊くのは失礼じゃが」

「何ですか?」

「おいくつなんじゃ」

「160センチ。48キロ、上から85・59・84」

「サイズではなく、年齢じゃ」

「人間の歳だと、21歳です」


若いな・・・

当たり前だが・・・


「ところで・・・どうして、お前さんがわしのところに?」

「若い方は、死に抵抗するんです。なので、ベテランの天使でないと務まりません」

「なるほど」

「でも、ご年配の方は、覚悟ができていますので・・・私でも務まります」

「そっか・・・ところで、お嬢さん」

「何ですか?おじいさん」

最初からの、疑問をぶつける。


「お嬢さんの、その恰好」

「はい」

「メイドみたいじゃな。冥土への土産だけに」


沈黙が走る。


「もしかして、本当に」

「ピンポーン。そのもじりです」


ふんぞり返る。

天使・・・真面目じゃよな?


「ちなみに、死神が白いのは、ナース?」

「はい。よくわかりましたね」

他に知らん。


「なぜ、ナースかというと・・・」

天使が言おうしたが、遮った。


なんとなくわかる。


「本当に、思い残すことはないんですか?」

「ひとつあったが、今、叶った」

「何です?」

「こうして、娘と茶を酌み交わしたかった」


その後も、他愛のない会話に花を咲かせた。

そして、わしの魂は、器からぬける。


「今更ですが、私の名前は、メイです」

「本当に今更じゃな。わしは、知っていると思うが。柳平七じゃ」

「古風ですね」

「ほっとけ」


こうして、メイに誘われ天国へと来た。


「わしは天国なんじゃな」

「ええ。最近は悪人ばかりで、地獄がいっぱいで、平七さん程度なら天国なんです」


タイミングもあるのか・・・

ややこしい。


「じゃあ、私はここまで。楽しく暮らしてください」

「メイも、元気でな」


お決まりの言葉で、送られる。


『行ってらっしゃいませ、ご主人様』


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行ってらっしゃいませ 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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