第32話「王女様覚醒致す」

(私は護って貰ってばっかりで良いの? なにか出来る事はないの? こんな所で死んだら……)


 そんな自問を繰り返すアリーシャ。

 危険な事があればエミリーとルークが護ってくれる。

 ただの従者と王女様ならそれで良いのかもしれない。


 しかし、アリーシャと二人はそんな柔な関係でもなかった。互いを信頼し、言いたい事を言い合う。


 それは、学園に来てより深まった親愛なる関係。

 深く強い絆を持つ《ずっ友》なのだ。


「こんな所で死んだら……ピクニックが台無しじゃない!!」

「アリーシャ様?」

「どうしたの師匠?」


「エミリーとルークは私と牛退治よ!」

「了解しました!」

「師匠と僕達ならやれる」


 突如覚醒したアリーシャにも動じる事なく、阿吽の呼吸を見せるエミリーとルーク。


 アリーシャの予期せぬ行動など、二人は慣れっこなのだ。そして、それは信頼の証でもある。


「みんな私の作戦聞いてくれる?」


 特別科生徒達に問いかけるアリーシャ。


 出る杭は打たれる。


 去年一昨年の特別科かなら、突拍子もない生徒の言う事など聞く者はいなかった。


 だが、うちの王女様アリーシャ=ベルゼウスは違う。


 スイフトの件で皆の信頼を勝ち取り、サンドイッチでみんなの胃袋を掴んだアリーシャの言葉は、一段と重味を増していたのだ。


「言ってみてアリーシャちゃん!」

「この状況を乗り切れるならなんでもするわ!」

「アリーシャの言う事なら俺様も聞こう」

「仕方ないわね……ひとまず冷戦よ」


 みなアリーシャの言葉に耳を傾ける。


 アリーシャが好きなバロンは勿論の事、復讐を誓うレイラでさえ、今は言う事を聞くと言っていた。


「ありがとうみんな! ふーっ」


 自分の言葉に耳を傾けてくれた生徒達に礼を言ったアリーシャは、一呼吸置いて作戦を伝える。


「魔術組は森のゴブリン達を各個狙撃撃破! 武術組はオーガと交戦して足止め出来る!?」

「おうよ! 俺様に任せとけ! 俺様は最高30体のオーガを一度に倒した男だ!」


「分かった……期待してるねバロン!」

「きたきたーっっ! 闘志が燃え滾ってきたぜー!」


 アリーシャに期待され、初めて名前を呼び捨てされたバロンの胸は熱く燃え上がる。


「レイラは魔術組を率いて指示をお願い出来る?」

「当たり前じゃない。私ほどの適任者がいるのかしら」


 こんな状況でも自尊心を隠すことなくアピールするレイラ。お高く止まり過ぎた結果、友達は「0」だ。


「だよね! 頼りになる友達がいて良かった! でも、怪我しないでね? 世界一の美貌が傷ついちゃうから♪」

「わ、分かってるわよ! さあ、みんな! 良く狙って狙撃しなさい!」


 初めて"友達"と呼ばれ、世界一の美貌だと言われたレイラの胸は高鳴る。


「あんたも、気をつけなさいよね……」

「うん♪ 心配してくれてありがとね! そういうレイラは、好きだよ♪」


 ここで悪役令嬢レイラ=アンバウスは初めて"デレ"た。

 そして、


(好きってなによ!? あれ、私……なぜドキドキしているのかしら? もしかして……違う! 違うわ! 私が好きなのはバロン様よ……ね?)


 レイラは、新たな恋心を抱いていた。


「私達は豚と牛退治に行ってくる! じゃあ、みんな……ミッションスタートよ!」

「「おうっっ!!」」


 アリーシャの掛け声でスタートした魔人掃討作戦。

 果たして、この局面を無事に乗り越える事が出来るか。

 それは、アリーシャの華奢なその手にかかっていた。


「エミリー! ラブファイア出力最大! 私は水爆をその上から落とすから!」

「了解しました!」


 片方の手首を抑え、もう一方の手のひらから蒼く燃える炎の塊を捻り出していくエミリー。


 出力最大となれば発射時の余波もかかるため、ルークはその背中を支え余波に備える。


 そしてアリーシャも、マホ研で指導して貰ったおかげか、魔術のイメージがスムーズに出来ていた。


 身の丈五メートルはあろかという怪物ミノタウロスとオークの集団の頭上には、丸い水の塊がどんどん大きくなっていた。


「私の合図で発射してエミリー!」

「もちのろんです! しっかり支えてくれよルーク!」

「言われなくてもだ」


 三人の絆が試される状況。

 その固い絆は、壁を破壊しようとしていた。


「エミリー! 発射!!」

「了解です! いけっっ!! ギカントラブファイアッッー!!」

「ぐっっ! 絶対支えるっっ!!!!」


 林道いっぱいに広がった炎が壁に向かって放たれる。

 そして、着弾の瞬間にアリーシャの言霊が轟く。


「合体技! エレメンタルバーストッッ!!」


 燃え盛る炎と冷やかな水がぶつかった瞬間――


 バゴオオオオーンンッッ!!


 大地を抉るような爆発が、視界を覆った。



 一方その頃。


 一足先に花畑で待機するアレキサンダー先生は、幻想的に淡く光る花達に囲まれ思案していた。


(今頃、ミノタウロスと出くわしたか? 死人は出したくないが、無闇に突っ込む馬鹿は要らんのも事実。さて、一体何人生き残るかな? 戦略的撤退も、時には必要だと理解する事を祈るか)


「よし!! 落ち込んでやっくるであろ生徒のために、BBQの準備でもしておくか! きっと腹が減っているだろからな!! ガハッハッハッハ!」


 果たしてこの準備が報われるのか。

 思惑通りの展開なのか。

 その答えは、すぐに分かるだろう……。

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