第29話「いざレクリエーションへ」

 愛狼ルンルン脱走事件から明けて次の日。


 新しくマホ研に加わったミケを連れたアリーシャ達は、それぞれ個別にウィッチ先生の指導を受けていた。


「最初はアリーシャちゃんね♪ 一通り基礎は教えて応用も出来るようになったみたいだから次は複合技ね♪」

「複合ですか? それって、水と炎を混ぜて爆発させる的な?」


「そうそう! 良く知っているじゃない♪ もしかして何か出来るの?」

「うーん、そうですね……」


 顎に手を置き考えるアリーシャ。一つ思い当たる事と言えば、特別試験でやってみた"アレ"ぐらいだった。


「ウィッチ先生は、どこか怪我してたり病気だったりします?」

「うーん、特に無いわね。強いて言えば、胸が大きくて肩が凝る事ぐらいかしら♪ でも、どうしてそんな事?」


(けっ、胸が大きくて良かったですねっ!)


 ちょっとイラッとしたアリーシャだったが、とりあえず試験でアレをした時の事を思い出す事にした。


(あの時は確か……水晶体と角膜を修復するイメージをしたよね。なら、肩凝りなら温めればほぐれるかな?)


 試験の時のアレとは、アレキサンダー先生の目を治した事だ。その時の事を思い出したアリーシャは、ウィッチ先生に向かって肩凝りを治すイメージをした。


「女神の微笑みを受ける我の手よ。痛みに苦しむ者を癒したまえ! ヒール!」


 それっぽい事を言いながら。


「あら? ……凄い! 凄いわよアリーシャちゃん! 肩凝りが治ったわ♪ やっぱり私の目に狂いはなかった! まさか複合魔術の最高峰である"治癒"魔術が使えるなんて! 賢者でさえも習得出来る人が限られてるのよ!」

「ああ、そうなんですね……」


 興奮を抑えきれないウィッチ先生とは対称的に、アリーシャは今一嬉しくない様子だった。


(なんで治ったのかしら……)


 何故治癒魔術が使えるのか。

 自分でもちんぷんかんぷんだったのだ。


 その後、自分の指導が終わったアリーシャは、仲間の元を回る事にした。


「聞いてアリーシャちゃん! 私、自分の声で付与魔術をかけられるようになったの!」

「なにそれ凄い!」


 ニャベールの公女様であるマオは、周囲の者に魔術を伴った声を聞かせる事で、"バフ"――所謂、付与魔術をかける事が出来るようになっていた。


 まだ周囲の防御力がデコピンが痛くない程度に上がる微妙な効果だが、これから鍛えれば更に凄いバフをかけられるかもしれないというウィッチ先生のお墨付きだ。


(ふふーん。これはライブに使えるな。歌を聞かせてメロメロにさせればファン拡大! アイドル界は、アリーシャプロデューサーの天下よ!)


 などと妄想するアリーシャは、次の仲間の元へ向かう。


「見て下さいアリーシャ様! 私、ラブデインの力をコントロールする事に成功しました!」

「凄いじゃんエミリー♪」


 魔法や魔術とは少し違うエミリーの力をコントロールさせるには少し手間取ったようだが、力をコントロールする点においては魔術も聖魔法も同じである。


 ウィッチ先生の指導で力のコントロールを体得したエミリーは、今後も頼りになる従者だ。


(ラブデインて雷よね? 雷は電気よね? て事は、電気を蓄える物があれば家電を作って貰って便利道具が使えるかも♪)


 家電など複雑な物を誰が作れるというのか。という事は置いておいても、別の意味でエミリーをこれからも頼りにしそうだ。


「師匠、見て下さい。五の蛇龍烈まで覚えました!」

「うんうん! これからも頑張りたまえ♪」


 ルークはマホ研には入研していないので天龍一心流の稽古に励んでいた。


 元々毎日剣に触れ体も出来ている事もあり、エミリーより覚えは良かった。ルークが師範代になる日も遠くないかもしれない。



「あ、アリーシャちゃん」

「ミケ君は何してるの?」


「僕はアリーシャちゃんみたいに魔術で何か生き物を象ってみなさいって言われた……」

「出来そう?」


「無理……アリーシャちゃんどうやってるの?」

「うーん……まず何か魔法を出すでしょ。そうしたらイメージした生き物をピャーって、魔術で作れば良いんだよ♪」


「わ、分かった。ありがとう……」

「うん♪ 頑張って♪」


 ミケはまったく分からなかった。

 天才の教えは難しいものだ。


 一通り仲間の所を回ったアリーシャは、ルンルンを迎えに行くため魔物研究室へ行くと言ってマホ研を後にした。


 さすがにマホ研に連れてくる訳にも行かないので預けていたのだ。

 正式に授業が始まれば、今後も預ける事が多くなるので手伝いの一つでもしておこうとも思っていた。


「こんにちは~♪ あ、ドリトル先生♪」

「おお、アリーシャちゃん。ルンルンを迎えに来たのかい?」


「はい♪ ついでに魔獣達のお世話も手伝わせて下さい!」

「それは助かるよ! うちの研究室は人手が足りなくてね。去年までは三人いた研究員も卒業してしまって困っていたんだ……」


「私も魔物研究室の一員として頑張りますのでよろしくお願いします♪」

「本当に助かるよ。では、さっそく地下の魔獣達のブラッシングをしてやってくれないか? 普通は仲間内で行うんだが、保護した子達は皆独りだからストレスが溜まっているんだよ」


「分かりました♪」

「ああ、頼んだよ」


(ついでにミケランジェロの事も頼むよアリーシャちゃん。あの子も独りで寂しい思いをしていたからね……)


 ドリトル先生の秘かな頼み。アリーシャなら、頼まなくてもミケを独りぼっちにはしないだろうと、敢えて言う事はなかった。


「みんな~! アリーシャのご登場だよ♪」

「ガウッガウッ♪」


 地下の草原に降りたアリーシャの一声で集まってくる魔獣達。ルンルンは勿論、臆病な小型魔獣までアリーシャには警戒せず近寄って来るのだ。


「みんな本当に可愛いな~♪」


 魔獣達に囲まれ幸せそうにブラッシングをするアリーシャ。魔獣達も気持ち良さそうにその身を預けていた。


 それから数時間後。


 日も落ちた頃、いつまでも戻って来ないアリーシャを心配した仲間達は、魔物研究室へとやって来ていた。


 因みに、ミケは一週間出入り禁止のため先に寮へ戻っている。とても行きたそうにしていたのが少し不憫だ。


「失礼しま~す。アリーシャちゃんいます?」

「おお、君達か。アリーシャちゃんならまだ地下にいるよ。あ、面白いものが見れるから君達も見て来ると良い」


 ドリトル先生にそう言われ地下へ降りた仲間達。

 そこで見たのは、とても微笑ましい光景だった。


「ふふ、アリーシャちゃん魔獣達に囲まれて寝ちゃってる♪」

「まったく愛らしいお姿だ……」

「師匠幸せそう」


 仲間が見守る中、魔獣達に囲まれ静かに寝息を充てるアリーシャ。仲間達は、しばらくその光景を眺めていた。


 そんな穏やかな一日は、平和に幕を閉じた。


 そして、平和な一日が明けた次の日。


 とうとうレクリエーション当日となった快晴の日。

 アリーシャ達は久々の教室へと足を運んでいた。


「久しぶりだな諸君っ!! まあ、一部の者はそうでもないがな」


 ギロリとアリーシャに視線を向けるアレキサンダー先生。こっち見んなっ、とも言えないアリーシャだった。


「では、お楽しみのレクリエーションへと出発しようではないか!! 向かう先だが、ここから100kmほど離れた森へピクニックに行く!! 森の中央には見た事もない花畑が広がっていて幻想的だぞ? では出発!!!!」


(なーんだ♪ 心配してた割には、本当にただのレクリエーションね♪ 場所はちょっと遠いいけど、幻想的なお花畑とか凄く楽しみ♪)


 アレキサンダー先生の掛け声で出発する特別科の生徒達。


 笑顔で浮かれているアリーシャとは違い、他の生徒の表情は堅い。何故なら――


(本当に楽しみだ特別科生徒諸君。ここから一体、何人脱落するかがな!!)


 先頭を行くアレキサンダー先生の顔が、やたら下卑ているのが垣間見えたから……。

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