第15話「特別試験」
遥々馬車で一週間かけて『ガーレスト学園』へ受験しに向かったアリーシャ一同。エミリーとルークは、それぞれ専門科の魔法科と武術科へ。
アリーシャはというと……。
「良いかお前ら! この特別科を受ける者はざっと数えて二百人ほどいるが、合格するのはその内二十人だ! それほどこの特別科は難関だ。が、もし合格して卒業出来れば、その後の人生は安泰されたも同然。精精励めっ!! 」
まるで恫喝かと思うほど大きな声でかつをいれる筋骨粒々の男。緑色の髪で隻眼のその男は、特別科の担任だと言う話だ。
試験会場のちょうど真ん中辺りに座るアリーシャ。
周りから聞こえてくる話からすると、あの男の名は"アレキサンダー"という元SSランク冒険者だそうだ。
確かにその名は、本にも出てくるほど有名だった。本によれば、誰一人として帰って来なかった難攻不落のダンジョンを、たった三人のパーティーで攻略したとか。
素手でドラゴンを倒したとか、中には眉唾物の話もあるが、凄い人物なんだという事は分かる。
そんな人物が世界一の学園で教鞭を取っているのは少し不思議だ。まあ聞くに、アレキサンダー先生は、この学園ーーそれも特別科の卒業生という話。
そんな話を聞けば、繋がりのある学園に恩を返すために教鞭を取っているのかなんて想像も出来る。
(なんか先生って感じじゃないけど、卒業生だけあって恩義でもあるのかな? 後輩の育成が恩返しとか?)
実際にアリーシャもそんな想像をしていた。
「そろそろ試験を始める。特別科の試験内容は三つーーまず総合科と同じ筆記試験。二つ目は魔法科と同じ魔法適正と魔力量を図る魔力試験。これは実際に魔法も見せて貰う。最後に武術科と同じ実戦形式の実技試験だ。相手は勿論俺だ。よろしくな。因みに質問は受付ない」
質問したくて手を挙げていた受験生達は、凄むアレキサンダーの顔面に下ろす手は早かった。
(こわっ! 特別科ってもの凄くスパルタなんだろうな……)
「では、全員に問題が配られたら試験を始める。なお、問題を全部解いて納得が行ったら即座に筆記試験の会場を出て次の会場で待機していろ。解くスピードも、勿論見ているからな」
アレキサンダー先生の説明が終わると、白い制服に身を包んだこの学園の上級生らしき者達が問題を配っていく。
全員に問題が行き渡り、上級者達の手が上がる。
それを確認したアレキサンダー先生の、
「始めっっ!!」
という怒号にも似た開始の合図で試験は始まった。
問題をめくり一通り目を通すアリーシャ。学園に行きたいと思った日からこの世界の事は毎日勉強してきた。
数学以外は全く未知の世界だったが、持ち前の記憶力と探求心でスポンジのように知識を吸収してきた経緯がある。その努力と才能は、当然いかされていた。
(全部分かる! 後は字の間違いがないように丁寧に解くだけ!)
スラスラと羽ペンを動かすアリーシャ。会場全体も、筆記試験独特のペンを走らせる音が響いてた。
それから数分後。
(でーきた♪ 間違いがないか見直しもしたしそろそろ出よう……)
問題を解き終わり会場を見渡したアリーシャだったが、未だ会場を後にした受験生はいない。
(一番目とか目立ってやだな……もう少し様子見よ)
恥ずかしがりな性格が出たのか、一番目に出ていく事を躊躇ったアリーシャは、しばらく様子を見る事にした。
更に数分後、ポツポツと試験会場を後にする者が出始めていた。一番最初に会場を後にしたのは、真っ赤な髪をした目付きが鋭い美少年だった。
少し間を置いて二番目に会場を後にした受験生は、ピンク色の髪をツインテールで結んだ凛々しい顔つきの美少女。
その後受験生達は、数分置きに会場を出て行っていた。
そして十番目以降になった頃合いで、ようやくアリーシャも腰を上げ会場を後にする。
アレキサンダー先生の、睨むような視線から逃げるように……。
(こわい~っっ!)
その目は何かを見透かしているようだった。
もしかしたら、アリーシャが問題を早く解いたのにも関わらず、様子を見ていた事も見透かされているのかもしれない……。
会場を出たアリーシャは、我慢していたお花つみを終わらせた後、魔法試験となる次の会場を目指していた。
(それにしても、まさか特別科を受ける事になるなんて……もし入学出来ても凄く大変なんだろうな……)
先の事を考えると不安ばかりつのる。元はと言えば、格式高い学園の受験を決め、特別科を勝手に選択していた誰かのせいだ。
ガーレスト学園に入らなければ国連に加盟出来ないのは分かる。だが、特別科を選択した意味が分からない。
どうせベルゼウス王あたりが『私の娘なら特別な所に!』なんて盛り上がり決めたのだろうとアリーシャは推測していた。
(帰ったら暫く口きかないんだからっ!)
プンスカしながら次の会場の扉を開けたアリーシャ。
筆記試験の会場より二倍ほど広く、何もない殺風景な会場には、先に出ていた受験生がポツポツといるだけだった。
その中で、二番目に筆記試験の会場を出て行ったピンク髪のツインテールをした美少女と目が合ってしまった。
「貴女どこの国のかた?」
「あっ、えーと、ベルゼウス国から来ました!」
「ふーん、聞いた事ないわね」
「小さい国なので……でも、自然豊で良い所ですよ♪」
「ふっ、要するに田舎って事よね。因みに私はタイゼル共和国の伯爵令嬢"レイラ=アンバウス"よ」
(あっ、ちょっと苦手なタイプだ……)
タイゼル共和国と言えば大国の一つで、アンバウスはその中でも歴史にちょくちょく名を残す由緒ある家系だった。
歴史を網羅したアリーシャもそれは分かったが、まさに察して誉めろと言わんばかりの態度で接してくる女性は苦手だった。
だから少し意地悪な返しをしたくなってしまったのだ。
「ご丁寧にありがとうございます。申し遅れましたーー私、ベルゼウス王国第一王女のアリーシャ=ベルゼウスと申します。タイゼル共和国という大国の伯爵令嬢様とお会いできて光栄でございます♪ 帰ったらお父様に自慢しておきますね♪ 片田舎のブドウ農家から成り上がったアンバウス家のご令嬢とお話出来たと♪」
アンバウス家がブドウ農家だったという事実はもう二百年以上前の事。歴史の本にもその事実は中々載っていない。
アリーシャはたまたま古い文献に短く載っていた事を思いだし、少し意地悪をするつもりで話題に出してしまった。
「貴女王女様だったのですか!? それより、なんでそんな古い話を知っているのよっ!」
王女様だった事や、今や家族しか知らない家の事情を知っていたアリーシャに驚くレイラ。
ただ驚くだけなら良かったのかも知れない。その後いくらでもカバーして褒めておけば、まだレイラとの関係は平行に保てていた筈だったのだ。
それがまさか、予想外の伏兵が存在していたとは思いもしていなかった。
「なんだ、アンバウス家はブドウ作って成り上がったのかよ。どうりで毎年要らないほどワインを送ってくる訳だ。どうせなら、ブドウ=アンバウスにでもしたらどうだ?」
「バ、バロン様っ! そ、その、ブドウを作っていたというのはもう何百年も前の事なのでっっーー
「あ? もういいよ。ブドウ農家には用はねえ。所で、アリーシャ王女だと言ったな?」
「は、はい!」
横から口を出してきたのは、一番最初に筆記試験の会場を後にした赤い髪の目付きが悪い美少年。
レイラがバロン様と呼んだ所を見ると、二人は知り合いだったようだ。それにしても口が悪い。またしてもアリーシャの苦手なタイプだった。
「俺様はタイゼル共和国、第三王子のバロン=タイゼル様だ。お前、中々可愛い面をしているな! どうだ? 第三婦人ぐらいだったらしてやるぞ? まあ、田舎の王女なら第三ぐらいで十分だろ」
(うわ~っ、まれにみる俺様系! こういう人ってホントにいるんだ……正直嫌い)
「あの~、私、お花つみにいって来ます!」
「おいっ! ちょっと待てよ! ……ちっ」
「あの、バロン様!」
「ワイン女は話しかけんな。ブドウ臭くなっちまうだろ」
「……」
面倒な男に捕まっては大変だと、別に催してはいないが、お花つみに行くと言って逃げたしてしまったアリーシャ。
その姿を、憎悪に満ちた瞳で睨む者がいた。
(あの女のせいでバロン様にっっ!! 王女だかなんだか知らないけど、この屈辱……絶対に許さないっっ!!)
恨みとは、知らぬまに生まれているものなのかもしれない……。
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