第136話 教頭の思惑
「皆さん、すみません。シェイルは、まだこの国に来て日が浅いので……きっと初めての環境に戸惑っているのでしょう。どうか許してあげてください」
ウィルヴァはシェイルの代わりに謝って見せる。
来たばかりとかそんなノリじゃないと思う。
あからさまに俺に対して敵意を向けた態度と言動。
俺もさっきから、彼女が初対面のような気がしない。
どこか胸の奥で引っ掛かっているんだよな……。
ウィルヴァの丁寧な謝罪に、アリシア達は怒りを抑え頷く。
一方のシェイルは不貞腐れたまま、さりげなくウィルヴァに寄り添い、他のパーティ女子達に「アンタのせいで揉めているんだろ! 自重しろ!」と指摘されている。
その有様を妹のユエルが瞼を痙攣させて眺めており、初めて彼女が怖いと思った。
エドアール教頭が咳払いをして、場は一気に静まり返る。
「それじゃ本題に入ろう。こうして『
「林間実習ですか?」
俺が聞き返す。
「そうだよ。一学期は『上級竜』除けの結界が施された『神精樹の森』で1泊2日程度だったけど、今回はミルロード王国の領地でも、まだ結界を施されていない危険区域での場所で2泊3日の実習と考えている」
「危険区域? つまり放置されている場所ってことですか?」
「流石、クロック君、察しがいいね。そういう所だよ」
さらりと言ってのける、エドアール教頭。
「一学年の生徒達、全員の参加なのでしょうか?」
「うむ、ウィルヴァ君も相変わらず賢明だね。実はこの
なんだって?
俺達パーティとウィルヴァ達パーティの二組だけだと?
「つまり俺達が競い合うために用意された舞台っというわけですか?」
「そういうわけだ、クロック君。まぁ、別に私が用意したわけじゃない。一応はミルロード王国の領土だが外れにあり、ずっと放置していた区域さ……当然、一般の生徒じゃ実習させるわけにはいかない。ただ、今のキミ達が例年通りに『神精樹の森』で競い合っても物足りないとも思っている」
確かに、前回で
また
「……お言葉ですが、教頭先生。流石に危険区域での実習は教師として認めるわけにはいきません」
エドアール教頭の背後で待機していた、学年主任のスコット先生が難色を示し進言してきた。
確かに学生が実習する範疇は超えている。
事実上、軍さえ入ったことのない
エドアール教頭は「うむ」と頷いて見せた。
「スコット先生の仰ることも最もです。ですが、クロック君パーティもウィルヴァ君パーティも全員がS級の冒険者ばかりではありませんか? しかもSR級のスキル能力者ばかりだ。彼らのどちらかに『
つまり、俺とウィルヴァの実力を見極めるための第一ステージってわけだ。
――面白れぇ。
思わず湧き立つ衝動に駆られる。
ついに、対等な条件で競い合うことが出来るか。
しかも誰にも邪魔が入らない、俺達だけの戦い。
――聖戦だ。
この日をどんなに待ちかねていたことか……。
俺は自分のパーティ達の顔を見据える。
全員が力強く頷いてくれた。
ウィルヴァを除く、奴のパーティ女子達のスキル能力は未知数だ。
見たところ、ポンコツなのはシェイルだけで他の子達は相当戦い慣れした油断ならない雰囲気を感じる。
おまけに全員がウィルヴァを立てているから、奴中心で結束力も高いだろう。
だけどパーティの結束力なら、俺達だって負けてはいない。
いや、こちらこそ未来では活躍していた本物の勇者パーティなんだ。
したがって勝負は、俺の舵取り次第ってことになる。
だからこそ尚更、俺の真価が問われるに違いない。
未来じゃ万年
「――俺はやります! 誰にも邪魔されず、彼と……ウィルヴァと正々堂々と競えるのなら危険区域だろうと文句ありません!」
そう力強く言い切った。
俺の返答に、ウィルヴァも頷く。
「僕も同じです! 僕もクロウ君に全身全霊を懸けて挑みたいです!」
まさか、未来の勇者様に全身全霊を懸けられる日が来るとは……なんとも身体がムズ痒くなってしまうじゃないか。
だが嬉しいぜ。
また、以前のようにおこぼれで勝っても意味がないからな。
俺とウィルヴァのやる気に、エドアール教頭はフッと微笑む。
「私の見込んだ通りだね。二人共、実に良い返事だ。安心してほしい。実習の当日は、全騎士団長のカストロフ伯爵の騎士団も待機させておくからね。万一のトラブルのための監視役兼救援役として……伯爵には既に依頼し了承も得られている」
つまり、カストロフ伯爵率いる騎士団が見守っている中で、俺達が勝負するってのか?
しかしいくら『
元々、推薦候補が二人いるだけでも異例らしいからな。
それだけ、エドアール教頭も真剣に考え悩んでくれているってことか……。
もし万一、俺が勝つことになったら、やっぱあれだ。
エドアール教頭の言う通りに『竜撃科』のクラスに異動を考えた方がいいか……。
あくまで、ウィルヴァに勝つことが条件だけどな。
教頭の後ろで待機している、スコット先生とイザヨイ先生は「当人達がそう決めたのなら、私達がどうこう言う話じゃない」と割り切り、当日はリーゼ先生を中心に何人かの教師が見守り役と参加させるとこととした。
リーゼ先生の特殊スキル、《
非戦闘用だが、とても優れた万能スキルだ。
こうして、エドアール教頭から話を終え、新学期の挨拶は終わった。
が、
「――クロック君、すまないがキミだけ残ってくれないか? 他の者達は退席したまえ。スコット先生も含めてね」
「俺だけですか? 何か用事ですか?」
「まぁね。前回の活躍で、ゾディガー王から言伝を預かっているのだよ……私も王家の末端だからね。王家の一員として周囲に聞かせていい話じゃない」
なるほど……格式高い王家なら、些細なことでも他人に聞かせたくないものだ。
即刻、スキャンダルになるからな。
しかしゾディガー王から俺にって何の用だ?
まさか、自分が死んだら「ソフィレナ王女」を引き取ってくれって言うんじゃないだろうな?
あの姫さんも、冒険者になりたがっていたからな。
俺も面倒見るって引き受けちまったし……。
けどあくまでも、仲間として受け入れるって話だぞ。
少なくても結婚とかそういう話だけはやめてくれよ!
面倒見るって、そういう意味じゃないからな!
俺が悶々としているなか、パーティの女子達とウィルヴァ達は、スコット先生に連れられて教頭室を退出した。
エドアール教頭と二人っきりになる。
なんか急に緊張してきたんですけど……。
「――よし、下準備は成功だね。これでようやく本音で喋れるよ、クロック君」
いきなり言い出す、エドアール教頭。
ん? どういうことだ?
「あの教頭先生、本音ってどういう意味ですか? まるで今までの話はフェイクみたいな言い方に聞こえるんですけど……」
「半分は正解だよ。ゾディガー王から言伝を頼まれたっていう事実は嘘だからね」
「え? 嘘!? じゃ、じゃあ、林間実習の件も?」
「いいや、林間実習は本当にやるつりだ、クロック君。すまないが、キミにはその
「はぁ!? 次期、
あまりにも唐突なことを言うエドアール教頭に、俺は思わず嚙みつくように責め立てる。
期待いっぱいで膨らんだ風船が強引に空気を抜かれたような気分に陥った。
エドアール教頭は何も答えない。
机に両肘を立てて、両手を口元に沿えながら、赤い瞳でじっと俺を見つめている。
「……純粋で真っすぐなキミに、大人の事情に巻き込ませてしまって申し訳ない」
いきなり謝罪してくる。
もうわけがわからない……。
一体、何だって言うんだ?
「――まずは、私から事情を説明しよう、クロック君」
暗闇から渋い声が響いた。
今まで気配が無かったのに、その人物は近づいてくる。
頭部以外は鎧を纏い、金属同士が擦れ合う音を響かせながら。
俺が良く知る人物だった。
「カストロフ伯爵?」
全騎士を束ねる騎士団長にて、アリシアの親父さんだ。
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