二度目から本気出すトラウマ劣等生の成り上がり~過去に戻され改変していくうちに未来で勇者に媚ってた筈の美少女達が何故か俺の方に懐いてきた~

沙坐麻騎

第一章 遡及たる刻

第0話 無能者




「クロウ! そっちに『竜』が向かったぞ!」


 凛とした張りのある女性の声。


 岩場で待機していた俺はビクッと反応した。

 あの声を聴いただけ体が震えてくる。


 まだ竜から発せられる咆哮の方がどんなにいいことか……。



「クソッ! なんで雑用係ポイントマンの俺がいちいち戦闘に参加しなきゃならねぇんだ!」


 どうせ奴ら・ ・に聞こえないだろうと思い、ここぞとばかり愚痴を漏らす。



 俺の名は、クロック・ロウ――21歳。 


 ミルロード王国を代表する勇者パーティに所属する雑用係ポイントマンだ。

 

 国王の命令と国の威信、いや全種族達の未来を懸けて日夜奮闘し戦っていた。




 ――この世界は古くから『竜』に支配されている。



 各大陸に古竜こと『エンシェント・ドラゴン』が出没し、眷属の竜と強力な魔物モンスターを従え、俺達のような『知的種族達』に対して猛威を振るっていた。


 知的種族とは、人族、妖精族、獣人族、妖魔族といった文化や文明を持つ種族達の総称だ。

 本来ならほとんど交わることのなく、場合によっては敵対することさえある間柄でもある。


 しかし『竜』に関しては各種族が一致団結して臨む必要があり互いに手を取り合い、一国を築きながら自分達の身をずっと守っていた。


 そして長き歴史の中、種族達は『竜狩り』を行いながら嘗ての領土を確実に取り戻しつつある。


 特に各国から、より優秀な種族達を選抜し結成された、『勇者パーティ』は『竜の討伐部隊』として最も期待される存在であった。




「――来たか!?」


 俺は岩陰から顔を覗かせ、その存在を確認する。


 全身に真っ赤な竜鱗に覆われた巨大な爬虫類を思わせる存在。

 

 エルダードラゴンこと、『レッド・ドラゴン』だ。


 背部には蝙蝠のような大きな両翼が本来なら生えているのだが、大きな穴が開けられ、所々引き千切られて痕がありボロボロの状態である。

 とても飛び立つことは不可能であるため、四つん這いで地響きを鳴らしながら移動してきた。


 しかも、このレッド・ドラゴンは全身にも相当深いダメージを負っており、その様子から『何か』から必死で逃げている様子が伺える。


 俺には察しがついているけどな……。



「くらえ!」


 タイミングを見計い、俺は岩陰から出る。

 そのまま、レッド・ドラゴンの足に向けて、両手で握るロング・ソードを突き刺した。



 ――瞬間、レッド・ドラゴンの動きがピタリ止まる。



「今です! 勇者さん!」


 俺が叫んだ瞬間、ドラゴンの長い首が激しい閃光に包まれ瞬く間に両断された。



 ドサッ!



 レッド・ドラゴンの巨大な頭部が、俺からすぐ目の前へと落ちてくる。



 グオォォォォ――ッ!



 最後の力を振り絞ったのだろうか。


 頭部だけにも関わらず、ドラゴンは大口を開けて、俺を食らおうと襲い掛かる。


「う、うわぁぁぁぁぁっ!!!」


 恐怖で絶叫する。

 もう駄目だと半分諦めかけた。


 その時、



「――何をやっておる!? バカ者がァァァァッ!!!」


 凛とした女性の声がした。

 冒頭で俺に指図した、あの声だ。


 食われそうになっているこの瞬間でさえ、あの女にびびっちまっている。

 


 ズバァァァン!



 それは一刀両断だった。


 レッド・ドラゴンの巨大な頭部をまるで果物を切るが如く、鮮やかに真っ二つにしたのだ。


 降り注ぐ鮮血の中、そのおぞましい光景に似合わない女性が両手剣ことバスタード・ソードを翳していた。


 黄金色の長い絹髪を靡かせ、藍色の瞳を持つ美しい容貌の女騎士。

 純白の鎧を各所に身につけているも、そのスタイルの良さが十分に認識できる。


 ぱっと見は如何にも貴族の淑女だが、その力強い眼差しと全体から発する雰囲気が良い意味で凛々しく、悪い意味では近寄り難く感じる。


 俺は断然、後者だけどな……。



「アリシアさん……すみません」


 気づけば地面に尻餅をついており、彼女を見上げていた。

 恐る恐る礼だけは言ってみる。


 アリシアと呼ばれた、女性はキッと鋭い瞳で俺を睨みつけた。


「いちいち手間を取らせるな、無能者め!」


 罵声を浴びせられ、俺は絶句する。

 

「まぁ、アリシアさん……そう怒らないで、今のは僕が悪かったんだ」


 今度は男の声。

 とても爽やかあり、穏やかで優しい口調だ。


 長い銀髪を後ろに束ねた優男だ。

 一見すると女性と間違わってしまうような端整な顔立ち。

 両眼の色が異なっており、右目が赤色と左目が紫色のオッドアイ。

 黄金色の鎧を纏い、片手で軽々と大型剣こと『クレイモア』が握られている。


 この男は、俺達のリーダーであり勇者パラディンでもある。


 ――ウィルヴァ・ウエストだ。


「僕がレッド・ドラゴンの首を破壊した際に誤って、クロック君の近くに落としてしまったんだから……彼だって動きを止めるのにスキルを発動中だったわけだし、逃げる余裕なんてないだろ?」


 穏やかな口調で宥める、ウィルヴァ。

 その全身がほんのりと光輝いているのがわかる。


「ウィル殿が言っていることもわからなくもない。しかし、こやつ一人の足手まといでパーティ全体が危険に晒すことにもなる。私はそこを言っている」


 さも正論っぽく言いやがる、アリシア。

 んなもん雑用係ポイントマンの俺に『竜狩り』をさせているお前らの方に問題があるだろ?


 いくら、俺にお前らと同様の『特殊スキル』があると言ったって、所詮はレアリティEエラーの外れスキルなんだぜ……。



 特殊スキルとは、各種族でごく稀に潜在的に備わった神が与えたとされる恩寵ギフトであり特殊能力である。

 

 そして、『エラー』とは五段階評価において最低ランクのスキルであり、ハズレ扱いされていた。


 だから鑑定の時、俺の特殊スキルは名前すらつけてもらえなかった。

 

 ちなみに能力効果は、剣で刺した相手の動きを数秒ほど止める能力だ。

 一応、『竜』にも適応されるもんだから、戦力扱いされてしまう。


 だが、俺なんて所詮は雑用係ポイントマンだ。


 雑用係ポイントマンの役割はあくまでパーティ内の雑用であり、はっきり言って裏方だ。

 

 野営でテントを設営したり、解体や料理をしたり、パーティ達の装備を整えたり、それが本来の役割だと思っている。


 確かに見張り番や偵察もするから、それなりに剣も扱えるが……。


 だからって、『竜狩り』をさせるなんて聞いたことがない。


 ――俺にはわかっている。


 全部、パーティ内の女達の嫌がらせだってな。




 そう考えていたら、元凶の女達が近づき揃っていた。



「やったね、ウィル! 見事、レッド・ドラゴンを斃したよ~!」


 赤みを帯びた金髪のエルフ女がはしゃいでいる。


「ああ、ディネルース。キミが両翼に大ダメージを与えてくれたおかげさ」


「けど、アタイが『竜』の動きを封じからだからね! ウィル、そこを忘れないでおくれよ!」 


 褐色肌に背のデカい巨乳女が勇ましく言い切ってくる。

 見た目は人族だが真っ白髪の頭部に三角形の両耳がついており、臀部にはモフっとした同色の尻尾が生えている。


「わかっているよ、セイラ。いつも助かっているよ」


「ですが、最後はやはり私達のリーダーであるウィルさんの活躍が一番でしょう」


 長い黒髪でクールそうな魔道衣ローブを纏った女が胡散臭そうに微笑んでいる。


「ありがとう、メルフィ。でもキミの魔法支援も中々だよ」


 どいつもこいつも、ウィルヴァばかり褒めて、俺のことなんか歯牙にもかけない。

 まぁ、いつものことだけどな。


 下手に絡まれないだけ、マシってもんだ。


 そう思いながら、俺は立ち上がりアリシアを見つめる。



 無能者か……。



 思わず拳を強く握った。






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【うんちくメモ】

※本編と重複した内容です。


■世界設定


◆ガイアティア


 物語の舞台であり、とある創造神が創生したと世界。

 表世界である『物質界』を中心に『精霊界』、『妖精界』、『神霊界』など別次元の世界が存在し、互いにバランスを保ちながら成り立っている。


 文明は中世時代に近く様々な種族が生息し、各大陸には複数の国家が存在していた。

 主に神々を信仰する宗教国家が多数あり国の柱となっている。


 各国の大半は人族を中心に他種族と共存して治められており、時には他種族や他国同士の争いが起こるも、『竜』の脅威がある故に互い手を取り合い駆逐に挑まなければならない背景がある。


 したがって『竜狩り』は何より重要される竜害駆除となった。


 また各地には魔物モンスターが蠢いており、野生の者もいれば『竜』の手駒として操られている魔物モンスターも存在する。


 ちなみに地球上の生物、馬や豚や鶏などの通常の動物もおり、それらは知的種族達と共存していることが多い。




◆歴史と世界情勢。


 各大陸ではエンシェントドラゴンが大地の6割程を支配しており竜の眷属や従える強力な魔獣を操っていた。

 目的は不明であり様々な憶測があるも、知的種族達の根絶やしにすることで、『竜』が完全に支配する世界を創るのではないかという説が有力である。


 ちなみにエンシェントドラゴンは古竜と呼ばれ、神竜族の最高位種族と伝えられていた。


 竜が支配する地域によっては他国へ行き来するのも容易ではなく、高ランクで有能な冒険者を雇うのは必然となっている。


 隣国同士の戦争や種族間同士の頻繁にあるも、上記通りの理由で『竜狩り』は何より優先されていた。






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