第10話
二〇六五年三月、ニシキと俺は組織の表向きの姿として設定した、セキュリティコンサルとしての企業活動を本格的に始めることとした。主な活動は要人警護や、企業の情報セキュリティ対策のパッケージ販売だ。実質的に動くのは茂山の情報部隊や、葛野がスカウトしてきた人材で軍上がりの人材を集めた実働部隊だが、茂山には裏の仕事、SUAの内偵活動も行うよう指示していた。野村とその配下であるシンクタンクあがりの研究員集団は、SUAを合法的に解体する政治的なシナリオを練り始めた。ただ、決定的に足りなかったのは敵の組織がどんなかたちをしているか、命令系統が一切わからないことだった。茂山はSUA配下の大企業に諜報員を送り込み情報収集を行っていたが、どんな優秀な諜報員でも幹部クラスには近づくのがせいいっぱいで、情報を抜くことは困難だった。
ある晩、ニシキとアオイの三人で、とあるSUA系のチェーン店で食事をすることにした。アオイのおきにいりである、「飛鳥軒」という和食チェーンである。SUAができる前からある老舗フランチャイズであり、全国展開して二百軒以上の店舗数を誇る。そのうちギガストラクチャー内にある店舗は百軒強で、どのフロアにも必ずと言っていいほどあった。アルファ、ベータしか入ることができない比較的高級な類の店だ。
「わたしが施設にいるころ、職員が月に一回連れてってくれたんです、おいしいんですよ」
とアオイは自信ありげだった。子供向けメニューが充実しており、日曜日の夜は子供連れの家族でいっぱいだった。
俺達三人はいつもの様に同じテーブルで飯を食う。この習慣はいずれ無くなるだろう。敵が増えてくれば、このような市井の店に顔を出すわけにもいかなくなる。
「らちがあかないよ」
ニシキが鶏肉の竜田揚げをほおばりながら、いらだった様子で言った。
「茂山と野村はなにしてんの、早くSUAの親玉を素っ裸にしてギガストラクチャーの外壁に吊るしてやりたいのに」
ニシキはSUAへの憎悪が空回りして、妄想を隠さず俺に伝えるようになった。いちいち反応するのが面倒だ。ニシキは周りを気にせずに、
「いいか、あいつらが信じている偉大なる存在とかいうインチキ神様の像をだな、いっぱい集めて、目の前でバットでぶっ壊してやるんだ、おもしろいだろうなあ、和泉もやるか、そうなったら」
「ご相伴にあずかりますよ」
上野の飛鳥軒からもギガストラクチャーがよく見える。昼間はまだましだが、夜になると抑えめの照明のせいか更に威圧感を増す。
「こんな食事してる時でもギガストラクチャーに上から圧迫されて頭にくるな、米軍の衛星を鹵獲して衛星爆撃してやろうよ和泉、大パニックになるぞ」
「今はできないよ、夢みたいなことばっか言ってんじゃないよニシキ」
大体衛星が常に爆装してるわけない。
「いつかはできるのか、はやく警備部のやつらを殺してやりたいなぁ、なあ和泉」
そう言ってニシキは白米にがっつく。
ニシキはいつも元気いっぱいだが、アオイのほうは最近元気がない。日頃の激務で疲れ果てているのだ。
アオイを誘った当初は、組織における電話番兼マスコットみたいな立ち位置で考えていたのだが、彼女のバイタリティを俺とニシキは甘く見ていた。現在彼女は俺たちの組織の総務、財務を一手に握っている、いわゆる事務局長的な立ち位置にいる。正直組織内部の人員や財政状況など、細かいところは彼女のほうが把握しているのだ。まさか、高卒レベルの教育しか受けていない彼女が、士業の資格取得から情報インフラの管理まで一手に引き受けるとは思わなかった。構成員が持つ端末を束ねる情報インフラのネットワーク構築やハードの保守契約管理などのプログラマー染みたところまで自分で管理しているとは、気持ちが悪いくらいだ。AIに任せている部分も多いが、それにしても担当する業務範囲が多すぎる。組織の内情を知っている人間は少ないに限るので、スタッフを増やさずに済み俺たちとしてはうれしい限りなのだが、彼女は頑張りすぎてしまうきらいがある。むしろアオイより暇になった俺たちはこうして妄想をして遊んでいるのだ。毎日三人で食事をしているが、アオイはいつも疲れた顔をしているので、空気の読めないニシキまでも気を使いだす始末だ。
「おい、アオイ、最近寝てるか、目の下のクマすごいよ……」
ニシキが言う。
「いいの、今結構楽しいから、ニシキさんより若いから平気です」
「あ、そう、ならいいけどね、そうだ、僕、こんなの買っちゃったよ」
ニシキはもっと心配してほしそうなアオイを無視して、テーブルの上にゴトン、と大きな音を立てて大きな自動拳銃を置いた。パラパラ、と銃弾もぶちまけた。
「おいおい、こんなところで出すなよ」俺は久しぶりに大声を出してしまった。
「そんなぞんざいな扱いして大丈夫なんですか」アオイが眉をひそめる。
「イスラエルに知り合いがいてね、もらっちゃったよ、デザートイーグル、これで身を守るのだ」
ニシキはうっとりしながら構えて見せた。五〇口径AE弾を撃つことのできる最強の自動拳銃。巨大な分反動で肩の骨が外れることもある。
アオイは白けた反応を見せている。
「バカだな、マグナム弾なんて反動でまともに撃てないよ、対人で使うつもりなら必要ないぞ」
「ロマンだからいいんだよ、最近はボディアーマーも車のドアも分厚くなって簡単には抜けないんだから、ほら、しかも五十口径弾だ、ほらアオイ、拳銃の弾では一番でかいんだよ、防弾車のピラーだって貫通するぞ」
ニシキが嬉しそうにアオイに自慢する。アオイは反応に困っている。
「俺は携帯するならベレッタでいいと思うよ、マグナムは熊とかイノシシ用だ」
「いいんだ、僕はこれで、かっこいいよなぁ」
細部をいじったり眺めたり夢中だ。
ニシキはこれを鞄に入れて登庁するつもりだろうか。大艦巨砲主義は男のロマンだが、現場を経験すれば実用的な方に嗜好が変わるはずだ。暴発して警備部に捕まらないといいけど、総合セキュリティコンサルが聞いてあきれる。興奮冷めやらぬニシキとは対照的にアオイは拳銃には全く興味がなさそうだ。
「和泉さんが連れてきた平岩先生、すごい感じのいい人ですよね、余裕があって、きれいで、それにすごいアクティブで……日本中飛び回って人材勧誘してますよ、あの人アルファのサービスコード持ってるから大丈夫だけど、もしなかったら交通費がえらいことになってましたよ」
アオイが話題を変えてくれた。
「あのババア研究しかしてなかったからな、教授会の事も嫌ってたし、今の立場が楽しいんだろ、ニシキより官僚に向いてるよ」
するとニシキが、
「僕がSUA傘下以外の企業で、上場してる中規模の企業リスト、主に化学、薬品系ベンチャーのリストを渡したら、二十社を一週間で回ってたよ……各学閥にも顔が利くらしいし、和泉はこれしかないってくらいにいい人選をしたな」
「ババアの行動がうまく運べば、俺たちは日本で最高の研究機関が手に入る、果実が実るにはまだまだ時間が必要だけどな」
まだ組織の地固めの段階だ。あのデカいビルをぶっ壊すには時間がかかる。
「一方野村さんはマイペースですよね、遅刻も多いし金遣いも荒いし……食生活もめっちゃくちゃ、二十代で肝臓壊したのもわかりますよ」
「あのオッサンは破滅型の天才だからな、ほんとはアオイみたいな若い女の子が叱ると一番効くんだ、ニシキはさっき文句言っていたけど、茂山と葛野もよくやってる、あいつらが作った企業向け情報テロ対策プログラムは、どの価格帯もよく出来てるよ、要人警護の依頼も増えてきたし、人材育成も順調だ、軽井沢に作った訓練施設、アオイ行ったか、葛野に予算あげたらすごい張り切って、グリーンベレー以上の人材を育成してやるって言っててさ、最近は自衛軍をそそのかしたクーデターをシナリオに入れてもいいですよなんて野村に話してるんだあいつ、バカだよな」
「忙しくて行けてないんです、軽井沢行きたいな、あと対策プログラムですけど、利益すごい出てますよ、会社として回ってます、あくまで表向きの仕事なのにね」
盛り上がる俺とアオイをにらみつけるニシキに気付き、俺たち二人は不機嫌になったニシキをみつめた。
「そんなことはぁ、いいんだよ」
むすっとしながら聞いていたニシキが叫んだ。
「表向きの組織が回っているのはいいことだが、現状我が国のGDPは中露戦後最悪を更新し続けているんだ、失業率は一二パーセントを超えて、スラムでは定期的に暴動が起きてる、いいか、日本経済は中所得国レベルに落ち始めているんだぞ、教育も、経済も、軍備も、もうすぐ食料備蓄も外貨も尽きる、その果てにあるのは……」
「うるさいなぁ、分かってるよそんなこと、飢餓とデフォルトだろ、そうならない様にやるんだ、大丈夫だ、そろそろ野村がシナリオを作り終わる、あの壁の中から教祖様を引っ張り出してやるんだ」
「そのとおりだ、然るが故に、必要なのは日本国の構造改革なのだ」
腕組をしてニシキが意気揚々と叫ぶ。
「すごい昔の政治家みたいですね」アオイはあからさまに馬鹿にしている。
「表現が陳腐だなぁ、選挙に出ろよ、衆愚政治を体験して心が折れてしまえ」
ニシキは次第に興奮し始めた。また演説を始める様だ。腕組をして胸をさらにそらし目線を上気味に。俺たちの反応はちらちら見る感じだ。
「現政権の経済対策は後手後手になってる、というよりその場その場で対応してるだけで戦略に欠けるって印象だな、中国は五十年成長してないけど統制経済で見方によっては上手くいってる、人民元はSDRとしても存在感が大きくなってるしね、アメリカは資源があるからあと百年は安泰だ、国際機関も未だ手の内だしね、石油利権と原子力利権の対立で国内の戦争が起きるかもしれないけど、第二次南北戦争みたいなね、中東は既に石油が枯れつつあるから、イスラムの宗派闘争の果てにすべて統合されるだろうね、EUはカトリック系の国が相変わらず働かないから経済破綻してIMFの財政出動ばっかしてもらってるし、日本はアホ総理はともかく、観世官房長官がとにかく優秀な人なんだ、でもあの人もしがらみだらけでうまく動けないって愚痴ってた、特に財務省と内閣の対立は酷い、経産省としては、もっと産業、特にベンチャーに金を回してもらいたいんだけど、SUAのアホたちが根回ししてるようで埒が明かない、あいつら、あらゆる有力な代議士の私設後援会に入り込んで金をばらまいてるんだ、経産省が招集する各種委員会だって参加者全員がSUAシンパだよ、金はギガストラクチャーの住人からいくらでも取れるからな、与党内の派閥数は日本の政治史上最多だよ最多、これをまとめ上げるなんて、観世さんほどの人間でも難しいんだよ、金剛衆院議長も通常国会会期中で、静粛にって叫びすぎて声が枯れてるんだから、大体与党執行部がバカを衆議院で担ぐからこうなるんだ、ポピュリズムが行き過ぎて国会が議論の場でなく動物園の猿山みたいになっている、本当に葛野に言って、新国会議事堂エリアでクーデターをおこしてやろうか、そうしよう、国会議事堂でテロだ、どうだ和泉、このシナリオは」
早口かつ、話があっちこっちに飛んで主旨がよく分からないが、ニシキが日本の現状に激しくイラついていることはわかった。ニシキは自分が批判されると、マシンガンの様に持論を述べてその場の主導権を取り返そうとする。当初は圧倒されていた俺とアオイだったが、最近は慣れてしまった。ニシキが長いこと喋る時は、基本的に内容なんて無いのだ。 日本の官僚の抱えるストレスはその優秀さ故に凄まじいのだろう。こいつの頭の中は官僚らしい知性と子供っぽい感情が並走しつつ暴走している。食事の度にこういったとりとめのない演説をぶつのはやめてほしい。
「日本の社会システムが崩壊しているのは二〇一〇年代からわかりきってたことだろ、民主主義以外の政治思想も生まれそうで生まれなかったし、大国はどこが最初にデフォルトするかのチキンレースだ、資本主義の過渡期だね、まあこのまま行くとデフォルトレースは一着が日本、二着はブラジル、三着はイスラエルってとこかな」
「政治がそんな状況なのに、国内はずいぶん呑気ですよね、五大ネットワークはエンタメニュースばっかりで経済の事なんか何も報道してませんよ、アイドルとかアニメの広告ばっかりです、私も和泉さんニシキさんと知り合う前は何の疑問もなく暮らしてましたけど、これって異常ですよね、経済はこんなで、択捉と沖縄がとられちゃったのに」
「SUAの愚民化戦略が効いてるんだ、政治に興味を持つ人間なんていらないんだよ、あくまで日本のマスコミと教育は奴隷の生産が主目的なんだから、これは百年近い伝統芸なの、かわいい女の子は日常的な搾取を忘れさせてくれるらしいよ、お前も仕事としてやってただろ」
そうニシキに言われてアオイは眉をひそめてむっとした表情になった。
「かわいい女の子ね、そういえばテルっていうアイドルだかモデルだかわかんないけど、あの子、かわいくないですよね」
難しい話になると、アオイはニシキがトーンダウンするような話題に変えたがる。この手の話題変更は俺にとってはすごく助かる。ニシキは熱くなって話し出すと止まらないからだ。
「テル、芸能人の話か、ここ三年くらいで急にSUA系企業の広告に出始めた子だよね」
「そうです」
ニシキが端末で検索し顔を確認しはじめた。
「かわいいじゃん」
ニシキが吐き捨てるように言った。どうでもいいようだ。
アオイはあり得ないといった表情でニシキをにらんでいる。
「えー、和泉さんはどう思います」
俺はニシキに画像を見せてもらった。確かに整った顔をしている。
「いいんじゃない」
「いやいやいやいや、絶対かわいくない、スタイルはいいかもしれないけど、メイク下手だし、男の人ってスタイル良ければいいの、なんでこの子がこんなごり押しされてるのかわかんないんですよ、話し方はボソボソ喋って内容も面白くないし、髪も長すぎ、清潔感ないですよね」
今度はアオイの愚痴が止まらない。俺はとっくに飯を食い終わっていた。
「そんなこと言われても俺たちは分かんないよ、3Dアニメの声優とか歌手もやってるんだ、多才なんじゃないの、わかんないけど、そうだ、野村が知ってるかもな、アイツ笑えることにまだ作詞家だから、テルちゃん」
ニシキは少し乗り気だ。こいつはそれなりに女好きで、そもそもアオイが勤めていたクラブに行ったのもこいつの提案だった。
「まさか会う気じゃ……」
アオイは話題を振ったことを後悔し始めている。
女の子らしく、大衆文化面にアンテナを張っているところをアピールしようとしたのだろうが、彼女としては失敗だったようだ。
「営業活動も兼ねてな、アイドル歌手なんて危ないファンに何されるかわかんないだろ、わが社の優秀なセキュリティプログラムを売り込んでみてもいいんじゃない」
ニシキが茶化しながらそれらしいことを言ったが、俺の脳内に別の狙いが浮かんだ。
「野村を紹介してもらった広告代理店のやつに、またテルって女の子に会わせてもらう様、頼んでみようよ」
ニシキは俺の提案を聞いて、そうだね、と言った。アオイは、あり得ない、馬鹿じゃないの、と口パクでささやかに抵抗した。
「あとアオイ、ここのメシぜんぜんおいしくない」
俺がそう指摘すると、ニシキは今日初めて声をあげて笑った。確かにそうだな、ととどめを刺した。アオイはさらにショックを受けたようで、がーん、と自分で効果音を言った。
上野とは別に、軽井沢も拠点を作った。なぜ軽井沢かと言うと、完全にニシキの趣味だ。これから夏だし涼しいし、浅間山に近く環境が俺の故郷にすこし似ていた。なによりギガストラクチャーが目に入らないのが良かった。
拠点には地下訓練施設以外にも、事務所スペースと巨大な空きスペースがある。空きスペースを利用して、平岩が組織している研究機関のマネージャー候補者に対する説明会を行うこととなった。説明会と言っても、全員の顔合わせ的な意味合いが強く、立食パーティーのような趣が強いものだった。
平岩は前日から百人を超える対象者の出欠確認やら会場の備品調達やらで、葛野のチームにいる若手を何人か借りて徹夜で準備を行っていた。彼女の二人の子供も前乗りしており、手伝いをしているのを見かけた。彼らもマネージャーとしてプロジェクトをひとつずつ担当する予定だ。
「学生を京都から何人か連れてくればよかったわ……和泉君手伝わない」
平岩が会場で椅子を並べながら弱音を吐いた。
「別にいいけど、説明会つってもなにするの、あんた直接説明したんだろ」
「あなたも各プロジェクトマネージャの顔くらいは知っといた方がいいでしょ、仮にもトップなんだから、ニシキ君なんか壇上で挨拶するのよ」
あいつは挨拶どころが演説をやろうとするだろう。一時間以上しゃべるんじゃなかろうか。俺はこういうセレモニーみたいなものは苦手で、正直ニシキに任せたかった。
「ニシキ君やあなたを人間的に受け付けない研究者だっているかもしれない、これは選別の最終試験でもあるのよ」
ふーん、任せるよ、と俺は言った。
「平岩さんを信用していない訳ではないが、俺から彼らに宿題を出させてくれないか」
「思想チェックなら貰ったマニュアル通りやったってば、Fスケールみたいなやつ」
「違う違う、ちょっと聞きたいことがあってさ、返答が見たいだけで」
「なにを聞くのよ」
「なぜ研究をするのか、だよ」
「また抽象的でわけのわからないことを……」
平岩は呆れている。
「質問が抽象的であるほど、その解答に人物が現れる、回答次第で俺はそいつを切るかもしれないけど」
「どういう回答なら気に入らないの」
「状況や社会システムに流されている奴だ、そういうやつは最終的に裏切る、本当は面接したいんだけど百人は無理だしな、俺が嫌いなのは人が大好きとか言っちゃうタイプだよ」
「また社会システム嫌いね、そんなタイプは研究者には少ないと思うわ」
平岩はくすくす笑っている。
「なにがおもしろいんだ」
「いや、和泉君は正しいよ、人間は真に個別であるべきよ、集団に依存してはいけない、コミュニケーションなんてただの思い込みで、そこに人生の意味を見出している人間こそが愚かもん、そういうことを言いたいんでしょ」
「そんなこと当たり前だ、人間はしょせん動物だ、友情も愛情もクソも無い、生存本能のねじ曲がった概念だ、行ってみれば知性も、自分の身を守り敵と戦うために発達したものだ、そこら辺を間違うと本質を見失う、本能に反する思想は伝染病に近い、それは社会システムを運用する目的で本能を押さえつけるためにある、本能に基づいた必要性や目的意識のない、連帯や集団こそが今の社会問題の原因だ、無能は群れを作る、群れは真の強者を埋もれさせ、堕落させる、本来死んでいるはずの弱者を生かす」
俺の言葉を聞いて、平岩はにやけている。見透かされている様で気味が悪い。
「ニシキ君もあんたも頭でっかちで自意識過剰ね、そんなことばっかり考えてるの、私じゃなくて候補者にそういうことを言ってよ」
「そうする、これから俺たちはSUAが提供しているサービスに従属している人間を皆殺しにする、それをここで宣言するからな」
「いいわよ、私たち研究者にはいい意味でそういう思想はないの、単純に研究がしたいだけの人が多いとおもうよ」
「それならいいんだ、ただ覚悟はしておいてほしい、俺たちのやることはある意味バカになってないとやれない、象牙の塔の住人には刺激が強すぎるかもしれない」
「はいはい、刺激が強くても楽しめるよう頑張りますよ」
「先生の淡白な態度はニシキの熱くなった頭を冷やすのにちょうどいいな、挨拶の前に声をかけてあげてくれよ、あいつ壇上に立つとヒトラーみたいになるんだよ、あと興奮すると言葉遣いが時代劇になるんだ、おもしろいよ」
「いやよそんな、頭に湿布でも貼っとけば」
そう言って平岩は椅子設置の仕事に戻った。
一瞬間を置いた後何かに気づいたようで、歳の割に機敏な動きで俺の近くに寄ってきた。
「あんた、もしかしてニシキ君のこと好きなの」
「あんた疲れてるんじゃないのか」
「アオイちゃんあんなかわいいのに二人とも手を出してないんでしょ、それってそういうことだよね、安心して、誰にも言わないから、それに私そういうことには寛容なのよ、理解があるってこと、誰にも言わない、私だけに教えて、約束するから」
平岩は一人でとても楽しそうだ。ピョンピョン飛び跳ねて興奮している。
「ちがうよ、ニシキもアオイもそういうんじゃない、アイツらはね……」
俺は次の言葉が出てこなかった。なにか決めつけてしゃべってしまうと、二人との関係がひどく軽いものになってしまいそうな気がして、言葉にはしたくなかった。
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