『幽霊』
やましん(テンパー)
『幽霊』
『これは、フィクションであります。いまのところは。』
自宅から5キロほど離れたところに、農業用の貯水地があります。
きちんと、整備されていて、市民のいこいの広場としての機能も果たしていたし、春になると、桜の名所になるのです。
しかし、このあたりには、明治時代の始めまでは、処刑場があったとも言われるのです。
実際は、幽霊話しなどは、聞いたことがないですが、最近になって、深夜の3時ころになると、夜な夜な必ず、出るのだという。
どうしても、寝られず、別世界に憧れたぼくは、貯水地まで、深夜、歩きました。
ふらふらだし、流石に、幹線道路は、相変わらず自動車の列ができていましたが、それ以外は静かなものです。
ぼくは、ようやく、貯水地にたどり着きました。
もうすぐ、午前3時です。
貯水地の周囲は、一周できるようになっておりまして、途中に、屋根のある休憩所が一ヶ所と、ベンチがいくらかありました。
レトロな現場事務所があり、ここには、24時間、担当者が詰めているはずです。
しかし、そこからは、屋根付きの休憩所の中までは見えません。
午前3時きっかり、そいつは、ふと、現れました。
その、半開放になっている我妻屋のベンチに、ある瞬間、どこからか、出現したのです。
うつむきかげんで、街灯は適当に薄暗いので、顔がなかなか、はっきりしません。
しかし、それは、ぼくには分かったのです。
そいつは、ぼくだったのです。
ぼくの、幽霊なのです。
どこで、どう、こんがらがったのか知りませんが、やがて自決したぼくが、いま、ここに、現れてきている。
『ようやく、き、た、か。』
ぼくの、幽霊は、つぶやきました。
『ここで、池に入ってもらわないと、困るんだ。ぼくが、消えてしまうからさ。さあ、ひといきで、行こう。なに、すぐだ。介添人がいる。』
貯水地の中からは、5~6人の、かつて、人間だったらしき者たちがあらわれました。
そうとう、古い姿の者もあります。
首のないのも、いましたし、学生服らしいのも、いた。
そうして、たぶん、この世の力ではない、まるで、吸い付くような力で、ぼくを池のなかに、引っ張り込もうとしました。
『いまでないと、まずいんだ。女神様が不在だからね。彼女は、自決は好まない。しかし、自決したものは、大事にしてくれる。この世のだれが、ぼくらを、大切にしたかい。温かく、見てくれたかい。彼らは、自分達の都合で、扱っただけだ。出世の邪魔になるなら、平気で排除にかかる。さあ、おいで。きみが入らなければ、ぼくはいないんだから。』
ぼくは、怪しの、存在などしない存在に、池に引きずり込まれてゆきました。
仕方がないよな。
それが、正しいのだろう。
ぼくは、ある意味、納得していたのです。
そこに、警備員さんが、現れました。
イレギュラーでした。
『なんか、ざわざわするから、来てみたんだ。きみい?どうした。まだ、春先だよ?泳ぐには早すぎる。』
あたりには、もう、だれひとり、いませんでした。
結局、ぼくは、自分の幽霊にも、見放された感じになったわけです。
ぼくは、主治医の計らいで、しばらく、しかるべく、休養になりました。
どこまでが、幻想なのか、実際にあったことなのか、いまも、判別はできません。
まだ、これから、起こることかも、しれませんし。
すべて、夢かもしれません。
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『幽霊』 やましん(テンパー) @yamashin-2
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